量子コンピューターは仮想通貨を駆逐するのか?
2023.08.03
ここ数日、寒さもより厳しくなった。
私は寒いのが苦手だが着込むのも苦手だ。そのくせ寒くなる前に準備しようとかいうタイプでもない。
耐え難い寒さを感じてから必要に合わせて買いに走るのだが、最近あることで頭を悩ませている。それは優秀なインナーが無いという問題だ。
冬のインナーの代表格であるヒートテック。あれは確かに暖かい。だが汗をかいたあとに体が冷えるので汗かきの自分には合わない。先日、富士山の麓にハイキングに行った際、汗で体が冷えてとても後悔した。
どうやらヒートテックに多く含まれるレーヨン素材は濡れたあと乾くまでに時間がかかるらしい。これは大きな欠点だ。温まるどころか体が冷えては元も子もない。そうなると化学繊維ではなく綿などの天然素材で何か良い品がないか探す方向性になる。
だが、ネットで検索できる商品はどれも通販用。インナーはやはり手に取って確認したい。
UNIQLOは今やどこにでもあるが、明治29年創業の老舗肌着メーカーであるグンゼの実店舗なんかは見たことがない。調べたら郊外の大型アウトレットなどにあるようだ。残念ながら気軽には行けない。どなたか良い品があればこっそり教えて欲しい。
さて本題へ。
本日のトピックは量子コンピュータについて。
先日お客様との会話の中でこの話題になった。巷では量子コンピュータが暗号資産を駆逐すると囁かれているが、実際はどうなのか。
12月15日、中国深圳に拠点を置く企業SpinQ Technologyが「Gemini Mini」というポータブル量子コンピュータを発売したというニュースが流れた。初代iMacを彷彿とさせるそのデザインに興味をそそられたのだが価格を見て驚いた。なんと税込118万8,000円。
これでも低価格モデルとのこと。何に使えるのかという話をすると私のような一般人では迷宮入りしてしまうのでそれは専門家に任せるとして、今回は量子コンピュータがブロックチェーンにもたらす脅威について問題の表面に触れたいと思う。
まずは量子コンピュータを理解する前にスーパーコンピュータについておさらいしよう。
今や国の科学技術力の象徴にもなっているスパコンの世界だが、実は日本のお家芸でもある。理化学研究所が2021年に運用を開始した「富岳」というスパコンがある。名前の由来はもちろん富士山から来ている。この富岳、世界のスーパーコンピュータランキングの様々なタイトルで世界1位や2位をとっているとてつもないマシンなのだ。
「日本人全国民(約1億2000万人)が不眠不休で1秒間に1回電卓で計算し続けたとして110年かかる計算を1秒で完了する事ができる」。
富岳の凄さを理解する例え話として挙げられているものだ。日本人が全員で110年も電卓を叩き続ける場面を想像しただけで生きる意味を失ってしまいそうで、園子温監督の映画を見た後のような気持ちになるが、果てしなく凄いことだけは分かる。
では、スパコンと量子コンピュータを比較するとどうだろうか。通常のコンピュータと量子コンピュータではその演算能力の元となるメモリにその違いがある。通常のコンピュータの最小単位はビット、0または1。それに対して量子コンピュータでの最小単位は量子ビット、0と1の中間的状態、さらに重ね合わせが可能である。
つまり通常のコンピュータでは逐次的(順番の処理)な計算しかできなかったが、量子コンピュータでは量子ビットの重ね合わせが可能になることで並列的な計算(一度に複数の処理)を実行できる。これがはるかに短い時間で暗号化技術を解読することができる理由だ。
GoogleのCEOであるサンダーピチャイ氏も5年から10年で暗号化技術が破られる可能性がある事を指摘している。2019年10月、同社は科学雑誌「Nature」における論文で「量子超越性」を達成したと発表した。「量子超越性」とは量子コンピュータの計算能力が従来のスパコンよりも優れていることを証明するものである。
同社が開発したSycamore(シカモア)という量子プロセッサが、当時世界最速のスパコンで1万年かかる計算を200秒で完了したとの事。これには誇大広告だと揶揄する業界の声もあるが、量子コンピュータの脅威がすぐそこまで迫っている事は想像し易いだろう。
そもそもブロックチェーンのセキュリティの優位性とはどういうものなのか。これらは「完全性」と「コンセンサス」という2つの原則によって支えられている。「完全性」とは、誰かが他の誰かに代わって取引を行うことができないということ。すべてのデジタル署名は、所有者だけが知っている秘密鍵で生成され、所有者の公開鍵を使用して照合されるため偽造は不可能だ。
「コンセンサス」とはブロックチェーンの記録を変更する際にはネットワーク全体の承認が必要であることを指し、データが悪意を持って改ざんされることを不可能にする。
現在主に使用されている一般的な公開鍵暗号アルゴリズムには、RSA、Diffie-Hellman、楕円曲線暗号化などがある。これらのアルゴリズムのセキュリティは、コンピュータが特定の数学的問題(非常に大きな数の素因数分解など)を解くのが非常に困難であるという仮定に基づいている。つまり、現状ブロックチェーンのセキュリティが安全たる所以は解読するまでに1万年かかるなど、生命のキャパシティを超えた時間軸があるからとも言えよう。
このように量子コンピュータは我々クリプト民にとってはかなり厄介な存在である。だが、その演算能力の高さから新薬の開発や気候変動やエネルギー、人工知能から金融のポートフォリオ管理まで様々な場面で社会を変えるイノベーションとして期待されている技術であることも事実。
では我々に成す術はないのだろうか。大丈夫、何も悲観する必要はない。すぐにブロックチェーン技術が破られる事はなさそうだ。時間との戦いにはなるが、量子コンピュータが実用化されるまでの間に何かしらの対策ができればいい。
というのも、現在の量子コンピュータの技術はまだ実用化のレベルに達してはいない。そのご自慢の演算能力も最も安定したマシンですら1000分の1以上の確率でエラーが出ると言われている。これは通常のコンピュータよりもはるかに高い確率だ。搭載できる量子ビットの数が限られていることや、ノイズの影響を受けやすく不安定で壊れやすいことがその原因との事。
現在、IBMの最新のマシンOspreyでは433量子ビット搭載している。彼らは2020年に65量子ビット、2021年に127量子ビットを達成している。ロードマップでは来年1121量子ビット、1年に2倍以上の成長率を目指している。
なるほど。どうやらコンピュータに搭載できる量子の数がひとつの指標になりそうだ。私のような一般人はこのように判断のポイントを相対的に模索するしかない。
ちなみに、Googleのロードマップでは2029年までに100万量子ビットとの事だ。これはかなりチャレンジングな事らしいがひとつのイノベーションの目安にはなる。
その時までに量子耐性を持つ暗号化技術が完成する事を願うが、イーサリアムも量子耐性への実装を予定しているとの事なのできっと大丈夫だろう。その他プロジェクトも様々進んでいるようだ。
この分野にビジネスチャンスがある事も周知の事実。世界中の天才達が立ち向かっている中で我々ユーザーにできる事は正直あまりない。風向きを読んで資産の置き場所という意味で自らの棲家を選ぶ事くらいだろうか。やきもきしたとてどうせ量子コンピュータの後に次なる脅威もすぐ現れる。そんなもんだ。