クラーケン ステーキング事業撤退の真相
2023.06.15
東京は相変わらず寒い日が続く。先日沖縄から帰って来た身としては20度の温度差は流石に堪える。窓の外を眺めると雪。外に出るといつの間にか冷たい雨に変わっていた。
山下達郎氏がかつて夜更け過ぎに雨が雪に変わる情景を名曲「クリスマスイブ」に書き留めたのは1983年の話。 スマホもSNSも無い時代。この時代の人の待ち合わせスキルはデジタル世代から見たらミステリーでしかないだろう。待っている側はひたすらそこで待つしかないのだから。
待ち合わせに平気で30分~1時間遅れてくる田舎時間が著しいエリアはいったいどのようにスケジュール管理をしていたのだろうか。カップルであれば喧嘩の温床である。沖縄の人は待ち合わせに2時間遅れてくるなんて話しを思い出し、私の地元宮崎でも30分~1時間は悪気なく遅れてくるから、そう考えると余計にミステリーが迷宮入りしてしまう。私なら30分が限界だ。みなさんはどうだろうか。
さて、今回なぜ私が沖縄にいたのかというとBitLending(ビットレンディング)全国巡業のスタート地点だからだ。
レンディングはまだまだ新しい資産運用方法である。それだけに正しい活用法を知る機会は得ようとしなければ取得できない。
弊社J-CAM(ジェイカム)では「月刊暗号資産」というクリプト専門メディアを2020年に事業買収し運営している。
私の活動を通じて少しでも多くの人がクリプトに触れる機会やBitLendingを知っていただく機会を創出するために、今年は47都道府県で「レンディング活用勉強会」を開催する事にした。
実にアナログ極まりないフランシスコ・ザビエル戦法だが、サービス品質向上のためにはお客様と交流をしながらニーズと向き合いたいというのが私の考えだ。
さて、今回はKraken(クラーケン)がステーキングサービスを停止した件について概要をまとめる。
・世界第3位の取引所「Kraken」がステーキングを即座に停止(撤退)。
・SEC(米証券取引委員会)は未登録の有価証券を販売したと主張。
・KrakenがSECへ和解金、約39億円を支払う。
・ステーキング停止は米顧客のみが対象。
またSECかというのが正直な感想だ。アメリカのクリプト事情は一体どうなる事やら。昨今の流れを見ると後出し規制からの罰金徴収というジャイアンもびっくりの弱い者いじめにも思える。このやり方でSECがこれまでに巻き上げて来た金額は計り知れない。
かつてレンディングサービスでもBlockFi(ブロックファイ)が約1年前に115億円、Nexo(ネクソ)が先日約58億円の支払いに合意している。今回2月始めに提訴してから1週間足らずで合意していることから、FTX事件からの締め付けが厳しく、なおかつスピード感が早くなっている印象を受ける。
本件はクラーケンの提供するステーキングサービスについて、証券法に違反しているというのがSECの主張であるが、アメリカでステーキングサービスを提供しているのは何もクラーケンに限った話ではない。コインベースも同様に提供している。それでは一体どのような背景があって今回の件に至ったのか問題を少し深掘りしてみよう。
SECの委員長であるゲーリー・ゲンスラー氏は本件でこのようにコメントしている。「サービスとしてのステーキングでもレンディングでも他のサービスであっても、仲介者が投資家のトークンと引き換えに投資契約を行う場合は証券法に準じて情報開示を行い、投資家保護のルールに従う必要がある」
例えばETH(イーサリアム)をステーキングする際にバリデータとして参加する場合、投資家は原則として32ETHをイーサリアムネットワークに預け入れる必要がある(バリデータなどの難しい説明は割愛する)。そしてネットワークの貢献度に応じて報酬を得ることができる。
だが、誰もが32ETHを用意してノードのセットアップや秘密鍵の管理をできる訳ではない。同じETHのステーキングと言ってもそのやり方は主に4つのオプションに分かれる。
①Solo home staking
②Staking as a service
③Pooled staking
④Centralized exchanges
◆参考:イーサリアム財団「Earn rewards while securing Ethereum」https://ethereum.org/en/staking/
今回、SECはKrakenが提供するステーキングサービスを上記②の「staking as a service」と表現している。つまり、Krakenが提供していたステーキングはあくまでサービスとしてのステーキングであり、投資家から資金を集め、同社の努力により収益が期待されるものと捉えることができるため、証券販売に該当するとのことだ。ステーキング代行業者という言葉の方がしっくり理解できるだろう。
ユーザーはKrakenに通貨を預けることで自らのコントロールから外れる。ステーキングをしているからと言って、自分のウォレットに入っている=安全という事にはならない。FTXのようにプラットホーム自体が破綻する可能性もある。そこまで透明性が担保されてない事をSECは指摘しているのだ。
なので代行業務をする場合は証券法に従ってSECのライセンスを取得するようにという話である。これに対してKrakenは「それならやらないよ」と、和解金を支払いステーキングサービスの停止を決断したという流れだ。
今回の報道を受けて、ステーキング自体が禁止になることや、POS(ポス)銘柄が証券になるなどといった噂が様々飛び交っているが、その話をするには少々焦り過ぎである。この手の話はそもそもの前提条件が異なるのでひとつひとつの精査が必要だ。
同じステーキングといっても上記③に代表するLido(リド)などのリキッドステーキングなどもある。このような分散型のアプリケーションでは小口でのステーキングができる上、仲介者を挟まず投資家が直接ネットワークに預け入れをする。これはサービスではないのでアメリカの証券法に抵触しない。
とはいえ、今回の動きはグローバルではなくアメリカに限ってのお話。ちなみに今回の報道でBitLendingとして何か影響があるかとの問い合わせもあった。はっきり言って「ない」というのが回答になるが、経済大国アメリカがレンデンングもステーキングサービスも実質的に禁止をした場合、余波は何かしらの形で現れるだろう。
今回の件でステーキングの預け入れ先がより分散化されるメリットもあれば、アメリカの取引所がダメージを負い暗号資産価格や株価などにも影響を与えるデメリットもあるだろう。ただ、仮に日本が法的にアメリカの規制に準ずるとしてもそのスピードにアイドルタイムがあると個人的には思っている。
ETHを初めとしたPoS銘柄の証券問題など、SECを発端にした問題も今後様々な場面でクローズアップされるだろう。引き続き動向を追いたい。