Strategy(旧マイクロストラテジー)のBTC売却枠はあとどれくらい?方針転換と市場への影響を整理

監修:株式会社J-CAM 金融アドバイザー AFP認定者 倉本 佳光 Yoshimitsu Kuramoto

慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、山一証券株式会社に入社し金融業界でのキャリアをスタート。その後、メリルリンチ日本証券株式会社マネージメント・コミッティーメンバー、岡三アセットマネジメント株式会社理事などを歴任。
執筆:BitLending編集部 更新日:2026年8月12日

倉本 佳光

Strategy(旧マイクロストラテジー)は、ビットコインを「保有し続けるだけの資産」から、配当・利払い・ドル準備金・自社証券の買い戻しにも使える資本へ位置づけ直しました。

2026年6月29日から8月9日までに売却したのは合計6,916 BTC、約4億2,933万ドルです。6月22日時点の保有量847,363 BTCと比べると、8月9日時点までの減少率は約0.82%です。現時点で保有BTCを急速に処分しているわけではありません。

一方、報道で目にする「12.5億ドルの売却枠」は、ドル準備金を増やすための上限です。配当・利払い、支払い後の準備金補充、自社証券の買い戻しにもBTCを売却できるため、12.5億ドルがプログラム全体の絶対的な上限ではありません

本記事では、2026年8月10日提出の米証券取引委員会(SEC)資料までを基準に、実行済みの売却、残っている固定枠、総額を確定できない将来負担を分けて整理します。

免責事項(投資助言ではありません)

本記事は、ビットコインに関する情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買・投資行動を推奨するものではありません。暗号資産は価格変動が非常に大きく、短期間で大きな損失が発生する可能性があります。投資判断は必ずご自身の責任で行い、必要に応じて専門家へご相談ください。

利益相反に関する開示:本記事を掲載するBitLendingは、暗号資産レンディングサービスを提供しています。記事内には当社サービスへの導線が含まれる場合がありますが、特定の投資行動や暗号資産の貸出を推奨するものではありません。

Strategyは何を変えたのか

結論からいうと、Strategyはビットコインを主要な準備資産とする方針を維持しながら、必要に応じて売却できる運用へ移りました。これはBTCからの全面撤退ではなく、長期保有と資本管理を両立させる方針への変更です。

同社は2020年から、現金、社債、普通株、優先株などで資金を調達し、BTCを積み上げてきました。しかし、優先株の発行規模が拡大すると、定期的な配当をドルで支払う必要が生じます。BTCは価格が上昇すれば資産価値が増える一方、保有しているだけでは配当や利息の支払原資となるドルを生みません。

そこで同社は、2026年6月29日に「BTC Monetization Program」を正式に導入しました。BTCを売却できる主な用途は、ドル準備金の構築、優先株配当と社債利息の支払い、支払い後の準備金補充、MSTR普通株や優先株の買い戻しです。

企業がBTCを準備資産として保有する前提を確認したい場合は、ビットコインが資産として保有される理由と価格変動リスクも参考になります。

《出典》
Form 8-K(2026年6月29日)|Strategy・SEC
Strategy Completes $1.5 Billion Debt Repurchase|Strategy

ビットコインのイメージ

なぜBTCを売れる方針へ変えたのか

方針転換の背景には、BTC価格の先行きを弱気に見たというより、普通株、優先株、社債、現金、BTCを組み合わせて管理する必要が生じたことがあります。

2026年5月、Strategyは額面15億ドルの2029年満期転換社債を約13.8億ドルの現金で買い戻しました。社債残高は82億ドルから67億ドルへ減りましたが、ドル準備金は5月25日時点で8億7,100万ドルまで減少しました。同社はその後、準備金を再び積み増しています。

BTC売却は、株式発行だけに依存せず支払い能力を維持するための選択肢として追加されました。

《出典》
Strategy Completes $1.5 Billion Debt Repurchase|Strategy
Form 8-K(2026年6月29日)|Strategy・SEC

優先株の配当と社債利息にはドルが必要

Strategyが発行するSTRC、STRF、STRK、STRDなどの優先株には配当負担があります。社債にも利息や償還資金が必要です。BTCを一切売らない場合、これらの支払いはソフトウェア事業のキャッシュフロー、既存現金、または新たな証券発行で賄う必要があります。

ドル準備金を厚くすることは、BTC価格が下落した局面で慌てて資金調達する必要を減らします。一方、準備金維持のためにBTCを継続して売れば、1株当たりBTCの減少につながります。信用力とBTC保有量の間にトレードオフがあるのです。

MSTR株の発行が常に有利とは限らない

Strategyは市場でMSTR株や優先株を少しずつ売るATMプログラムを利用しています。しかし、MSTR株の市場評価が低いときに大量発行すれば、既存株主の持分が薄まります。

反対に、同社の証券が割安で、BTCを一部売って買い戻す方が有利だと経営陣が判断する場面もあります。今回の制度は、どの資産を売り、どの証券を買い戻すかを市場条件に応じて選ぶ仕組みです。

STRCを額面付近へ安定させたい

STRCは1株100ドルの規定額付近での価格安定を目指す変動配当型の優先株です。市場価格が100ドルを大きく下回れば、新たなSTRC発行による資金調達が難しくなり、Strategyの資金調達モデル全体へ影響します。

そのため、BTCやMSTR株の売却代金を使ってSTRCを買い戻すことには、STRC投資家の信用を支え、将来の資金調達経路を維持する狙いがあります。

《出典》
Form 8-K(2026年8月3日)|Strategy・SEC
Form 8-K(2026年8月10日)|Strategy・SEC

チャートを見ながら分析している人

BTC売却と同時に何が行われたのか

Strategyの動きを理解するには、BTCの売却だけでなく、普通株・優先株の発行、ドル準備金、STRC買い戻しを同じ時系列で見る必要があります。

期間 BTC 同時に行ったこと 期末のドル準備金
6月29日〜7月5日 3,588 BTC売却 優先株配当、準備金補充 25.5億ドル
7月6日〜7月26日 売買なし MSTR・優先株のATM発行 37.5億ドル
7月27日〜8月2日 1,638 BTC売却 STRC買い戻し、MSTR発行 40億ドル
8月3日〜8月9日 1,690 BTC売却 STRC買い戻し、MSTR発行 46.5億ドル

最初の売却後、同社は3週間BTCを売らず、証券発行によって準備金を増やしました。その後はBTCを売ってSTRCを買い戻す一方、MSTR株を発行して準備金を増やしています。

「BTCを売った=資金調達ができなくなった」とは限りません。Strategyは各証券の市場価格を見ながら、複数の手段を使い分けています。

《出典》
Form 8-K(2026年7月6日)|Strategy・SEC
Form 8-K(2026年7月13日)|Strategy・SEC
Form 8-K(2026年7月20日)|Strategy・SEC
Form 8-K(2026年7月27日)|Strategy・SEC
Form 8-K(2026年8月10日)|Strategy・SEC

残りの売却枠は何BTCに相当するのか

「残りの売却枠」は一つの数字では表せません。Strategyの開示を、実行済み、狭義の固定枠、買い戻しを含む広義の固定枠、上限未確定の支払い枠に分ける必要があります。

区分 金額・BTC 現在の読み方
実行済み 6,916 BTC 約4億2,933万ドルを調達
準備金構築枠 最大12.5億ドル 7月5日時点で全額未使用と明記
優先株買い戻し残枠 7億8,520万ドル BTC以外の資金も利用可能
MSTR買い戻し残枠 10億ドル BTC以外の資金も利用可能
配当・利払い 固定総額なし 必要時に売却できる裁量枠

なお、12.5億ドル枠について最後に残高が明記されたのは7月6日の8-Kです。その後に開示されたBTC売却は、優先株配当またはSTRC買い戻しへ充てられています。したがって、8月9日までに準備金構築用12.5億ドル枠を使用したとの開示は確認できません

《出典》
Form 8-K(2026年7月6日)|Strategy・SEC
Form 8-K(2026年8月10日)|Strategy・SEC

狭義の12.5億ドル枠は約1.8万〜2.1万BTC

売却枠はドル建てなので、BTC価格が下がるほど必要な売却枚数が増えます。8月3日〜9日の実際の平均売却価格64,262ドルを基準にすると、12.5億ドルは約19,452 BTCです。

BTC売却価格 12.5億ドルに必要な枚数
60,000ドル 約20,833 BTC
64,262ドル 約19,452 BTC
70,000ドル 約17,857 BTC

約19,452 BTCは、8月9日時点の保有量840,447 BTCの約2.31%です。また、半減期後の新規発行量を1日約450 BTCとすると約43日分に相当します。ただし、新規発行されたBTCがすべて即座に売られるわけではないため、これは規模感をつかむ比較であり、市場への純売り圧を示すものではありません。

発行済み枚数と実際に市場で売買される枚数の違いは、ビットコインの発行枚数・流通量・市場供給量の違いで詳しく解説しています。

買い戻しまで含めると理論上は約4.7万BTC

準備金構築用の12.5億ドルに、優先株とMSTRの買い戻し残枠を加えると、資金用途の上限は合計30億3,520万ドルです。ただし、この全額がBTC売却枠として確保されているわけではありません。すべての買い戻しを実施し、その資金をBTCだけで賄うと仮定した場合、1 BTC=64,262ドルでは約47,230 BTCが必要になるという試算です。

ただし、これはすべての買い戻しを実施し、全額をBTCだけで調達する仮定です。実際には既存のドル準備金、MSTR株、優先株なども利用できます。売却予定量ではなく、固定枠から計算した広い理論値として扱う必要があります。

配当・利払い分を含む最終上限は計算できない

BTC Monetization Programは、優先株配当や社債利息の支払い、その後の準備金補充にもBTCを利用できると定めています。この部分にはプログラム全体を通じた固定総額が示されていません。

したがって、「Strategyが今後売れるBTCは最大47,230 BTC」とも断定できません。正確な表現は、固定枠から計算できる理論値とは別に、配当・利払い向けの裁量的な売却余地がある、となります。

《出典》
Form 8-K(2026年6月29日)|Strategy・SEC

チャートパターン画像

市場への売り圧はどの程度か

実行済みの6,916 BTCは、6月22日時点の847,363 BTCに対して約0.82%です。現段階では、Strategyの保有量が急速に縮小しているとはいえません。

一方、売り圧は保有量に占める割合だけでは決まりません。価格への影響を考えるうえでは、総額よりも何日かけて、1日当たり何BTCを市場へ出すかが重要です。

仮定する売却ペース 約19,452 BTCの売却日数 需給上の見方
1日500 BTC 約39日 長期間の上値抑制要因になり得る
1日1,000 BTC 約20日 継続的な売りとして認識されやすい
1日3,000 BTC 約7日 短期的な警戒が強まりやすい
1日5,000 BTC 約4日 執行方法によって影響が大きくなる

この表は価格を予測するものではありません。実際の価格影響は、相対取引か取引所売却か、同時期のETFフロー、買い注文の厚さ、相場全体のリスク選好によって変わります。

大口ウォレットからの移動も、ただちに市場売却を意味するとは限りません。大口保有者の動きを確認する際の注意点は、ビットコインのクジラと市場への影響も参考になります。

《出典》
Form 8-K(2026年8月10日)|Strategy・SEC

世界全体の出来高だけで割ると影響を小さく見積もりやすい

暗号資産情報サイトに表示されるBTC出来高には、複数取引所の売買、短期回転、デリバティブ取引などが含まれることがあります。その数字で売却額を割り、「出来高の数%だから影響はない」と判断するのは適切ではありません。

実際の売り圧を追う場合は、Strategyの週次売却量、現物ETFの純流出入、取引所へのBTC純流入、現物注文板の厚さを合わせて確認します。

市場は方針転換をどう見たのか

市場の評価は一方向ではありません。優先株投資家には支払い能力の強化、MSTR株主にはBTC保有量の減少、BTCトレーダーには新しい売り手の登場という異なる意味があります。

6月29日の制度発表時には、MSTRが前営業日比12.6%上昇したと報じられました。無秩序な資金繰りではなく、売却用途と買い戻し枠を明文化した点が信用面で評価されたとみられます。

一方、7月6日に3,588 BTCの実売却が開示された際には、BTCとMSTRに短期的な売り反応が報じられました。ただし、同時期の価格変動には市場全体の需給やマクロ要因も含まれるため、Strategyの売却だけを原因とは断定できません。

制度の明確化にはプラス、実際のBTC減少にはマイナスという二面性が、市場の評価を分けています。

《出典》
Strategy Snaps 9-Day Losing Streak as Bitcoin Giant Adopts Robust Capital Framework|Decrypt
Strategy sells 3,588 BTC for $216 million|The Block

優先株投資家には信用面のプラス

配当原資をBTCからも確保できるため、STRCなどの優先株投資家にとっては支払い継続性の裏付けになります。割安なSTRCを買い戻せば、残存投資家にとっての価値改善にもつながります。

MSTR株主には希薄化とBTC減少の両方が論点

財務上の選択肢が増えることはプラスですが、BTCを売れば1株当たりBTCが減ります。さらに、MSTR株を発行して準備金を増やす場合は株式数も増えます。

そのためMSTRを評価するときは、BTC保有量だけでなく、発行済み株式数と1株当たりBTCの変化を確認する必要があります。

BTC市場には「買い手にも売り手にもなる」不確実性

StrategyはこれまでBTCの構造的な買い手として注目されてきました。今後は市場条件によって売り手にもなるため、同社の動きは一方向の買い材料ではなくなります。

ただし、ドル準備金が厚くなれば、価格急落時に支払いのためBTCを慌てて売る必要は小さくなります。BTC売却を認めたこと自体が、将来の無秩序な強制売却リスクを抑える面もあります。

ビットコインネットワークのイメージのイラスト

追加売却を判断するために見るべき5項目

8月9日時点ではBTC売却が始まっているものの、保有量の急速な縮小局面には入っていません。一方、直近2週は連続して売却しているため、一時的な資本調整で終わるか、週次で継続するかを確認する段階です。

  1. 週次8-Kの「BTC Sold」
    売却の有無だけでなく、枚数、平均売却価格、使途を確認します。
  2. ドル準備金残高
    準備金が減り続ければ支払い資金の追加調達が必要になります。増えているのにBTC売却も続く場合は、買い戻しなど別用途を確認します。
  3. MSTR・優先株のATM発行額
    証券発行による調達が増えれば、BTCを売る必要は下がる一方、普通株主には希薄化が生じます。
  4. STRC・MSTRの買い戻し額
    BTC売却代金が支払いではなく買い戻しへ向かっているかを確認します。
  5. 優先株配当と社債利息
    支払い負担の増減は、将来必要になるドルの量を左右します。

「売却枠があるか」より、「何BTCを、何のために、何週続けて売ったか」を見ることが重要です。

Strategy以外のETFフローやマクロ環境も含めた直近の需給は、ビットコイン市場の最新分析で確認できます。

《出典》
Form 8-K(2026年8月10日)|Strategy・SEC
Strategy Dashboard|Strategy

売却枠より週次ペースを確認する

Strategyは2026年6月末以降、BTCを資本管理へ利用できる方針へ転換しました。8月9日までの売却は合計6,916 BTCで、方針転換前の保有量に対して約0.82%です。

  • 実行済みの売却は6,916 BTC、約4億2,933万ドル
  • 8月9日時点の保有量は840,447 BTC
  • 準備金構築向け12.5億ドルは、約1.8万〜2.1万BTCに相当
  • 準備金構築と買い戻しをすべてBTCだけで賄う仮定では、必要量は約4.7万BTC
  • 配当・利払い向けには、固定された総額上限が示されていない
  • 売却枠は売却予定額ではなく、株式発行や既存現金も利用できる

現在の売却量だけを見れば、BTC市場全体を直ちに崩す規模と断定する根拠はありません。ただし、Strategyが常に買い手であるという前提は変わりました。今後は、週次8-Kの売却量、使途、ドル準備金、証券発行を一組の情報として確認する必要があります。