2020年ごろから仮想通貨(暗号資産)市場では「クジラ」に関するニュースが報道されるようになりました。「クジラ」とは海に生息するクジラのことではなく、仮想通貨(暗号資産)の保有量が多い大口投資家のことを指します。クジラの特徴や動向を分析することは、仮想通貨(暗号資産)を運用するのに役立ちます。

そこで今回は、仮想通貨(暗号資産)のクジラの特徴や事例の他、クジラの動向をチェックする方法を解説します。

海水面から出たクジラの尻尾

ビットコインのクジラとは?

仮想通貨(暗号資産)市場の「クジラ」とは、仮想通貨(暗号資産)を大量に保有している個人または組織のことです。一部のクジラは、仮想通貨(暗号資産)が誕生した初期から多くの仮想通貨(暗号資産)を保有していたといわれています。「クジラ」という言い回しは仮想通貨(暗号資産)市場に限った呼称ではなく、金融市場では一般的に使われています。たとえば、日本の金融市場のクジラというと、日本銀行やゆうちょ銀行などがあげられます。

ビットコイン市場の場合、1000BTC(約14,735,478億円、最終更新2024/12/10時点)以上を保有している大口投資家をクジラと呼びます。

大海原で泳ぐクジラの親子

ビットコインクジラの特徴

クジラの特徴は、その動向が仮想通貨(暗号資産)市場へ与える影響が大きいことです。クジラが保有している大量の仮想通貨(暗号資産)を売買すれば、大幅な価格変動が起こり、市場は大きく動きます。

このようなクジラの動向は、市場を分析して計画的に行われていると考えられます。大量の売買によって価格を大きく動かし、市場に参加する人々の予想や不安といった思わくをコントロールすることもあるのです。クジラの動きを分析して市場の先読みをするために、他の投資家から注視されています。

クジラの匿名性

仮想通貨(暗号資産)のクジラは、匿名性を維持しようとしています。理由は、大量の仮想通貨(暗号資産)を保有しているので、セキュリティと個人のプライバシーを確保するためです。しかし、仮想通貨(暗号資産)の取引履歴は各ブロックチェーン上に永久的に記録されていて、誰でも閲覧可能となっています。

仮想通貨(暗号資産)のウォレットアドレスが分かれば取引内容を追跡できますが、誰が取引したかはわかりません。クレジットカードの場合、支払い内容を第三者が知ることはできないようになっていますが、仮想通貨(暗号資産)は透明性が高いので完全には匿名性を確保できていない状況です。

上昇と下降を表すチャートと鯨

ビットコインクジラが市場に与える影響

先述したように、クジラは大量の仮想通貨(暗号資産)を保有しているので、市場に大きな影響を与える存在です。たとえば、クジラがビットコイン保有量を増すために買い増しした場合は市場価格が上昇し、逆に手放せば市場価格は下降するといった傾向がみられます。

ほとんどのクジラのアドレスは判明しており、チャンスを狙う投資家らはクジラの動向に素早く対応して売買を行うので、市場はさらに動くことになります。一部のクジラはこうした事態を避けるため、2者間で直接取引する「OTC(店頭取引)」を利用して市場への影響を少なくしています。

金のクジラとビットコイン

これまでのクジラの事例

つぎに、これまでのクジラの起こした事例を紹介します。

  • 2018年のビットコイン下落
  • イーサリアムの大量移動
  • ステーブルコインへの交換

どれも一度に取引する量が多いため、その動きがたびたび話題となりニュースとして報道されています。

2018年のビットコイン下落

ビットコインは2017年末には1BTC=200万円を突破しましたが、2018年に入ると各SNSが仮想通貨(暗号資産)に関する広告停止を発表したため、4月には70万円にまで下落しました。このときの下落はクジラの売却が影響しているといわれています。

また、2018年9月には15%も急落したときがあり、とあるクジラのアドレスを追跡したところ、その期間に約352億円分のビットコイン(BTC)取引をしていたことが判明しました。下落にはさまざまな要因が考えられるが、一部のクジラによるビットコインの売却が大きく影響しています。

イーサリアムの大量移動

2021年11月にはクジラが保有しているイーサリアム(ETH)を別のウォレットに移動させたことが話題となり価格が上昇しました。これは、偽造不可で所有を証明できるデジタルデータである「NFT」や分散型金融の「DeFi」が次々と誕生したことにより、資産を分散させるために移動させたと考えられています。

ステーブルコインへの交換

クジラは、ステーブルコインへの交換を行うことでも市場へ影響を与えています。「ステーブルコイン」とは、価格の安定を目的に開発され、米ドルや金といった価格と連動するように設計されている仮想通貨(暗号資産)のことです。たとえば、テザー(USDT)は米ドルと連動した仮想通貨(暗号資産)で、1ドル=1USDTとなっています。

クジラが市場の下落を予想して、リスク軽減のために価格が安定したステーブルコインへ交換すれば、小口投資家たちは価格が下降すると判断して急速に下落相場となります。

テザー(USDT)についてはこちらの記事をご覧ください。

ビットコインの海から飛び跳ねるクジラ

注目されている3つのビットコインクジラ

2024年5月時点でのクジラの数は2,086あり、その中でも特に有名なクジラを紹介します。

  • サトシ・ナカモト
  • チャンポン・ジャオ
  • マイケル・セイラー

ビットコインを保有している全アドレスに占めるクジラの数は0.005%ほどと少ないですが、ビットコイン保有量は全体の4割近くとなっており、非常に大きな存在となっています。

サトシ・ナカモト

サトシ・ナカモトは、ビットコイン産みの親と言われていますが、個人なのか組織なのかは現在も不明のままとなっています。サトシ・ナカモトは、2008年にビットコインに関する論文を発表していますが、ビットコイン開発メンバーともオンライン上でしかやり取りしておらず、一度も公の場に姿を見せたことがありません。しかし、サトシ・ナカモトのアドレスを調べたところ、100万ビットコイン(BTC)を保有していることが判明しており、仮想通貨(暗号資産)市場で最大のクジラといわれています。

サトシ・ナカモトの詳しい内容はこちら。

チャンポン・ジャオ

チャンポン・ジャオ氏は、香港の仮想通貨(暗号資産)取引所のバイナンス(Binance)元CEOです。米経済雑誌フォーブスが発行する「2024年版世界の億万長者リスト」では、仮想通貨(暗号資産)分野で3年連続でトップとなっている人物です。同氏が保有している仮想通貨(暗号資産)は約650億円といわれていますが詳細は公表されていません。

マイケル・セイラー

米マイクロストラテジー社の創設者であるマイケル・セイラー氏は、アメリカの起業家で、1万7,000以上のビットコインを保有しています。また、マイクロストラテジー社はビットコインの追加購入をたびたび公表しており、保有量は20万BTCを超えています。

クジラのイラストとチャート

クジラの動向を分析する意味

市場に大きな影響を与えるクジラの動きを把握することは、仮想通貨(暗号資産)投資を行う上で重要です。たとえば、2020年3月にはコロナウィルスの流行によりWHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言したときに、大量のビットコイン(BTC)が売りに出されました。このときのビットコインの価格は数日で50%も下落し、クジラが売却したと考えられています。

このように、クジラが動けば市場価格は大きく変動するので、クジラの動向を分析して市場の動きが予想できれば、投資するときの判断材料となります。

ビットコインのイメージイラスト

ビットコインクジラの動向を知るには

さいごに、クジラの動向を把握できる手段を2つご紹介します。

  • アラートツール
  • クジラクラスター

クジラの動きが分かれば損失回避や利益を得られる可能性が高くなります。

アラートツール

クジラの動向によって市場は大きな影響を受けるため、クジラに動きがあったときに内容を知らせてくれるツールが開発されています。「Whale Alert(ホエールアラート)」は、ビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)の大口取引があったときにX(旧Twitter)で通知してくれるツールです。2024年5月時点で240万人以上のフォロワーがいます。

Whale Alert:https://twitter.com/whale_alert

Whale Alertでわかるおもな情報は以下のとおりです。

  • ウォレット間の送金
  • 取引所とウォレット間の送金
  • 取引所間の送金
  • ビットコインの新規発行、または焼却

アラートツールを利用して取引内容を把握することでクジラの動きを予測できる場合があります。たとえば、取引所からウォレットへ送金された場合、クジラは当面の間は仮想通貨(暗号資産)を売却するつもりはないと判断でき、価格が上昇するサインとみることができます。逆に、ウォレットから取引所へ送金された場合は、売却する可能性があるので価格が下降するサインと判断できます。

ただし、これは憶測に過ぎないので、あくまでも投資の判断材料の一つとしてみる必要があります。

クジラクラスター

「クジラクラスター」とは、いくつかのクジラが同時に取引した価格帯のことです。クジラが安くビットコインを買った場合は、利益が確保できる価格で売りに出す可能性が高いといえます。また、直近の高値から下落しそうだとクジラが判断したら、利益を確定させるために購入価格より高く売りに出し、この動きをキャッチした投資家らは下落相場になると予想し売りに出すので、結果的に市場は暴落することになります。

このように、クジラクラスターは市場の動きを予測するときに役立ちます。クジラクラスターは、クジラの動きをチャート化して視覚的にわかりやすくしたWhalemap(ホエールマップ)でわかります。

Whalemap:https://whalemap.io/

複数の散らばったコインの中に立つビットコイン

まとめ

今回は仮想通貨(暗号資産)市場におけるクジラについて解説しました。クジラは多くの仮想通貨(暗号資産)を保有しており、市場に影響を与える存在です。一部のクジラは、市場をコントロールするために計画的な取引をするので、その動きは投資家から注目されています。

クジラの動向をチェックすることは、市場の相場を予測するのに役立つので、これから仮想通貨(暗号資産)の購入を検討している方は、今回紹介したクジラアラートを活用して売買タイミングを見極めてみてください。