米国株は最高値圏、しかし市場の焦点は「利下げ」から「利上げ警戒」へ

5月27日の米国金融市場では、米国とイランによる和平協議の進展への期待が続き、原油価格が90ドルを割れるなど下落しました。これにより、インフレ再燃への警戒感がいったん和らぎ、利益確定売りを吸収するかたちで株式市場を支援しました。

NYダウ平均は+182ドル、S&P500は+1.24、NASDAQは+18.55となり、ダウ平均とNASDAQは史上最高値を更新しました。S&P500も前日に史上最高値を更新しており、米国株式市場は依然として堅調な地合いを維持しています。

ただし、株式市場の強さとは対照的に、中東情勢は依然として不透明です。和平協議進展への期待はあるものの、原油価格は90ドル近辺と歴史的に見ても高い水準にあり、エネルギー価格を通じたインフレ圧力は完全には解消されていません。

このような状況を映すように、5月27日にはクックFRB理事が「インフレが望ましくない方向へ向かっている。この状況が長引けば利上げを行う用意がある」とコメントしました。クック理事の基本姿勢は、本来「次への備えをしつつ政策金利水準は維持する」というものですが、足元の物価関連指標の強さに対して警戒感をあらわにした格好です。

市場ではこれまで、年後半にかけてFRBが利下げに転じるとの期待が意識されていました。しかし、原油高、関税、地政学リスク、AI関連投資による需要増などが重なり、物価上昇圧力が長引くとの見方が強まっています。結果として、金融市場では「利下げ期待の後退」だけでなく、「再利上げリスク」そのものが意識され始めている状況です。

金融市場にとって重要なのは、FRBが実際に利上げを行うかどうかだけではありません。市場参加者が「FRBは利下げできない」「場合によっては再利上げもあり得る」と考えるだけでも、長期金利や実質金利は上昇しやすくなります。その結果、金利を生まない資産である金やビットコインには、短期的な上値の重さが出やすくなります。

Sources: Reuters、MarketWatch、AP、InvestingLive

金利上昇が金とビットコインの重しになる理由

金とビットコインは、どちらも中央銀行が発行する法定通貨とは異なる価値保存手段として注目されてきました。金は長い歴史を持つ安全資産であり、ビットコインは発行上限2,100万枚という希少性から「デジタルゴールド」と呼ばれることもあります。

一方で、両者に共通する弱点もあります。それは、金利を生まない資産であるという点です。米国債利回りが上昇すれば、投資家はリスクを抑えながら利息収入を得られる米国債に資金を移しやすくなります。特に実質金利が上昇する局面では、金やビットコインのような無利息資産は相対的な投資魅力が低下しやすくなります。

そのため、足元の金価格とビットコイン価格の鈍さは、単なる需給要因だけではなく、米金融政策をめぐる市場心理の変化を反映していると考えられます。FRBが利下げに慎重な姿勢を維持し、さらに利上げの可能性まで示唆するようになれば、短期的には金・BTCともに調整圧力を受けやすい展開が続く可能性があります。

金価格は2カ月ぶり安値圏へ、ただし中央銀行需要は底堅い

金価格は2026年に入ってから1月中に他資産を圧倒する上昇を見せ、1月28日には1オンス5,400ドル台まで買われました。しかし、その後はインフレ懸念の高まりと米金利上昇を嫌気して下落に転じ、調整局面が続いています。5月27日の終値は4,400ドル台となり、2カ月ぶりの安値水準まで下落しました。

もっとも、金価格が下落したことで、現在の主要な買い手である世界の中央銀行にとっては、むしろ買いやすい水準になったとの見方もあります。中国や新興国を中心に、外貨準備の分散やドル依存度の低下を目的とした金の買い入れは継続しています。

中国人民銀行は2026年4月まで18カ月連続で金の購入を行っています。また、ポーランド中央銀行は前年に世界で最も多くの金を購入した中央銀行のひとつであり、2026年3月にも11トンを購入しました。さらに、同月にはウズベキスタンが9トン、カザフスタンが6トンを購入しています。

こうした中央銀行の金需要は、短期的な投機資金とは性質が異なります。中央銀行の買いは、インフレヘッジ、地政学リスクへの備え、外貨準備の多様化という中長期的な目的に基づくため、価格が下落した局面では押し目買いとして機能しやすい傾向があります。

主要金融機関による金価格見通し

今後の金価格については、短期的には米金利上昇が重しとなる一方、中長期では依然として強気の見方が目立ちます。JPモルガンは、2026年平均価格見通しを引き下げたものの、年後半に需要が回復すれば年末にかけて6,000ドル方向を目指すとの見方を維持しています。ゴールドマン・サックスは年末までに5,400ドル、ANZは2027年半ばまでに6,000ドルを予想しています。

金融機関・主体 金価格見通し 主な前提・ポイント
JPモルガン 2026年末に6,000ドル方向 短期需要は鈍化も、2026年後半に需要回復を想定
ゴールドマン・サックス 2026年末までに5,400ドル 中央銀行需要や安全資産需要を背景に強気見通し
ANZ 2027年半ばまでに6,000ドル 高金利・ドル高の短期圧力を受けつつも、中期では上昇余地を想定

いずれの見通しも、イラン情勢の落ち着きや原油価格の安定が前提となります。仮に原油価格が再び上昇し、インフレ懸念が強まる場合、FRBの利下げ観測はさらに後退し、金価格の上値は一時的に抑えられる可能性があります。

しかし、地政学リスクが残る限り、金には安全資産としての需要が残ります。つまり、金価格は短期的には米金利上昇に弱い一方、中長期では中央銀行需要と安全資産需要に支えられやすいという二面性を持っています。

Sources: Reuters、JP Morgan Global Research、Goldman Sachs、ANZ

ビットコインは調整局面、ETF資金流出と8万ドル回復が焦点

一方、ビットコインの値動きもぱっとしないものとなっています。昨年10月6日に126,200ドル近辺で高値をつけた後、2026年2月1日には60,000ドルまで下落しました。その後、約2カ月間のもみ合いを経て、4月上旬から戻り歩調を見せ、5月6日には82,800ドル台まで上昇しました。

しかし、その後は機関投資家を中心とした売却が重しとなり、再び調整局面入りしています。5月27日時点では74,200ドル近辺で推移しており、8万ドル台を明確に回復できるかどうかが、短期的な市場心理を左右する重要なポイントとなっています。

ビットコインについては、金と同様に金利のない資産として、米金利上昇懸念による調整圧力を受けています。加えて、足元では米国スポットビットコインETFからの資金流出も弱気材料として意識されています。

XS.comの市場アナリストであるリン・トラン氏は、「ビットコインにとってのより大きな弱気材料は、依然としてETFからの資金流出だ」と指摘しています。また、「ビットコイン価格が8万ドルまで回復できなければ、再び売り圧力が強まる可能性がある。特に、ETFからの資金流出が続き、マクロ経済環境にもいまだ完全な追い風が吹いていないという今の状況ではなおさらだ」と注意を呼びかけています。

ETFは、機関投資家や個人投資家がビットコインにアクセスする主要な導線となっています。そのため、ETFへの資金流入が続く局面ではBTC価格の下支え要因となりますが、反対に資金流出が続けば、現物市場にも心理的な売り圧力が波及しやすくなります。

足元のBTC相場では、8万ドルの回復、ETFフローの改善、米金利上昇の一服がそろうかどうかが、反発局面入りの条件となりそうです。逆に、8万ドルを回復できないままETF流出が続けば、投資家心理は再び悪化し、下値を試す展開も想定されます。

Sources: Forbes、BloomingBit、XS.com関連報道

クラリティ法案はBTCの中長期材料、規制の明確化に期待

ビットコインをめぐっては、米金融政策やETFフローだけでなく、現在議会で審議が続く「クラリティ法案」の行方も材料視されています。

クラリティ法案は、暗号資産市場のルール整備を目的とした米国の市場構造法案です。大きな焦点は、暗号資産が証券に該当するのか、商品に該当するのかを整理し、証券市場を監督するSECと、商品先物・デリバティブ市場を監督するCFTCの管轄を明確にする点にあります。

これまで米国の暗号資産市場では、規制当局の判断が不透明であることが、取引所、発行体、投資家にとって大きなリスクとなってきました。特にアルトコインやトークン発行プロジェクトでは、SECによる執行リスクが市場心理を圧迫する場面も多く見られました。

一方、ビットコインについては、すでに商品性の高い資産として扱われる傾向が強く、クラリティ法案による直接的な恩恵はアルトコインほど大きくないとの見方もあります。それでも、米国全体で暗号資産市場のルールが明確化されれば、ETF、カストディ、取引所、機関投資家向けサービスの整備が進みやすくなります。

その意味で、クラリティ法案は短期的な価格材料というより、ビットコインを含む暗号資産市場全体の制度的な信頼性を高める中長期材料と位置づけられます。

ただし、法案審議には政治的な不確実性も残ります。規制整備への期待が高まる一方で、審議の遅れや内容の修正があれば、短期的には失望売りにつながる可能性もあります。BTC相場を考えるうえでは、米金利、ETFフロー、地政学リスクに加えて、米国議会での暗号資産規制の進展も継続的に確認する必要があります。

BTC長期予想は強気が多いが、短期では下振れリスクも残る

BTCの価格予想については、短期と長期で見方が分かれています。短期的には、ETFからの資金流出、米金利上昇、中東情勢、量子コンピューターへの懸念などが重しとなり、慎重な見方が残っています。

一方、長期的には強気の予想も少なくありません。ロバート・キヨサキ氏は再び「金・銀・BTCの保有」を推奨しました。インフレや通貨価値の低下に備える資産として、金やビットコインを組み合わせて保有する考え方を示しています。

また、VanEckは長期見通しとして「5年以内に100万ドル」との予想を示しました。この背景には、若手投資家の資産配分の変化や、中央銀行・公的機関によるデジタル資産への関心の高まりがあります。象徴的な出来事として、チェコ中央銀行はテスト目的でビットコインを含むデジタル資産ポートフォリオを購入しました。これは外貨準備への本格採用ではないものの、中央銀行がデジタル資産の管理・保有実務を検証する動きとして注目されています。

さらに、ギャラクシー・デジタルは2027年末までに25万ドルを予想しています。こうした強気予想の前提には、ビットコインETF市場の拡大、機関投資家の資産配分、供給上限による希少性、そして長期的な法定通貨への不信感があります。

主体・アナリスト BTC見通し 注目ポイント
XS.com リン・トラン氏 短期は慎重 ETF資金流出と8万ドル回復の可否を重視
ロバート・キヨサキ氏 金・銀・BTC保有を推奨 インフレや通貨価値低下への備えとして評価
VanEck 5年以内に100万ドル 若年層の資産配分変化、機関投資家需要、中央銀行の関心を材料視
ギャラクシー・デジタル 2027年末までに25万ドル ETF拡大と制度整備による中長期需要を想定

もっとも、長期予想が強気であっても、短期相場が一直線に上昇するとは限りません。ビットコインは流動性の影響を受けやすく、米金利の上昇局面やETFからの資金流出局面では、値動きが大きくなりやすい資産です。

そのため、BTCに関しては、長期では強気材料が残る一方、短期では8万ドル回復の可否とETFフローが最大の焦点となります。特に、イラン戦争をめぐる和平協議の行方は、原油価格、米インフレ、FRBの政策判断を通じて、BTC相場にも大きな影響を与える可能性があります。

Sources: VanEck関連報道、Reuters、Czech National Bank、Galaxy Digital関連報道

2026年後半の市場展望:金・BTCともに「米金利」と「地政学リスク」がカギ

2026年後半の金・ビットコイン市場を考えるうえで、最大の焦点は米金利の方向性です。FRBが利下げに動けるほどインフレが落ち着けば、金利を生まない金やBTCには追い風となります。一方、原油高や関税、サービス価格の上昇が続き、FRBが利上げを再び示唆するような展開になれば、両資産には引き続き調整圧力がかかりやすくなります。

金については、短期的には米金利上昇やドル高が重しとなる一方、中央銀行需要、安全資産需要、地政学リスクへの備えが下支えとなります。特に、価格下落局面で中央銀行の買いが入りやすい構図は、金価格の中長期的な底堅さを示しています。

ビットコインについては、短期的にはETFフローと8万ドル回復の可否が重要です。8万ドルを明確に回復し、ETFへの資金流入が再開すれば、投資家心理は改善しやすくなります。一方、8万ドルを回復できないままETF流出が続けば、再び下値を試す展開も考えられます。

中長期では、クラリティ法案をはじめとする米国の規制整備、機関投資家の参入、中央銀行・公的機関によるデジタル資産への関心などが、BTC市場の構造的な追い風となる可能性があります。

総じて、2026年後半の金・BTC市場は、短期では米利上げ警戒による調整リスク、中長期ではインフレヘッジ・制度整備・希少性を背景とした上昇余地が併存する局面といえます。

投資家にとっては、単に「金が強い」「BTCが強い」といった一方向の見方ではなく、米金利、原油価格、ETFフロー、中央銀行需要、米国の暗号資産規制という複数の材料を組み合わせて確認する姿勢が重要になります。

まとめ

米国株式市場は最高値圏を維持していますが、その裏側ではインフレ再燃と米利上げへの警戒感が強まっています。FRB高官からも、インフレが長引けば利上げの可能性があるとの発言が出ており、市場の関心は「いつ利下げするのか」から「利下げできるのか、あるいは再利上げがあるのか」へと移りつつあります。

金価格は足元で調整しているものの、中央銀行需要は底堅く、主要金融機関の中長期見通しも総じて強気です。一方、ビットコインはETF資金流出と米金利上昇が重しとなり、8万ドルを回復できるかが短期的な焦点となっています。

ただし、BTCについてはクラリティ法案をはじめとする米国の規制整備、機関投資家需要、長期的な希少性評価など、構造的な強気材料も残っています。短期的には調整リスクに注意しつつも、中長期では金・BTCともに、インフレヘッジや資産分散の観点から引き続き注目される展開となりそうです。