DeepSeek AI Assistantの急成長と市場への影響

創業してまだ1年あまりの中国の人工知能(AI)新興企業であるDeepSeek社によって今年1月上旬にリリースされたモバイルアプリ「DeepSeek AI Assistant」が、米国、英国、中国などといった国々のApple App Store無料アプリ部門において、ダウンロード数が1位となり、高い評価を得たことで1月27日(月)の米国株式市場では、テクノロジー銘柄にパニック的な売りが発生し大幅安となりました。特にNVIDIAは17%の下落となり、時価総額を1日で5,930億ドル失いました。

画期的なAIモデルとしての評価

「DeepSeek AI Assistant」は、世界トップクラスのチャットボットに匹敵する性能を格安のコストで実現できる画期的なAIモデルとの評価を得て、著名投資家のマーク・アンドリーセン氏が「スプートニク・ショック」とコメントしています。

このアプリは、MoE(Mixture of Experts)と呼ばれる技術を採用し、合計230億ものパラメータを持ちながら、推論時には21億程度しか使用しないなど、計算コストを大幅に削減しています。またその性能もGPT-4と同レベルと言われ、オープンソースの中で最高クラスの性能とみられています。

圧倒的なコスト優位性

また特長的なのがAPI料金で、100万トークンあたりOpenAIが7.50ドルを請求するのに対して、DeepSeek R1モデルは14セントと格安の設定になっています。

生成AIアルゴリズムのイメージ

DeepSeek社の創業者とその背景

CEO 梁文峰(Liang Wenfeng)氏の経歴

DeepSeek社のCEO梁文峰(Liang Wenfeng)氏は、1985年広東省に生まれ、2008年浙江大学(杭州)でコンピュータービジョン関連の修士号取得後、投資家として株式取引でのAI活用を研究しています。2015年にヘッジファンド「High-Flyer Quant」を設立し、AIを活用した運用で高パフォーマンスを実現しています。梁氏は「研究とイノベーションを追求したい」という想いから、2023年にDeepSeek社を自己資金で設立しました。

DeepSeek社のAI技術と発展

DeepSeek社は2023年11月に最初のAIモデルをローンチしています。この段階からMoEと呼ばれる多数の小規模AIモデルを同時に学習させ、ユーザーの応答時に選択されたモデルの出力を組み合わせる手法を採用し、必要とする高性能チップや大規模データを少なく済むようにするなど、コスト削減をしています。

昨年11月に人間の思考を模倣するように設計された推論モデル「DeepSeek R1」を発表し、今年に入ってR1を基盤としたモバイルアプリを発表しました。今回の「DeepSeek R1」モデルは、ユーザーが出す指示や質問であるプロンプトに対する応答を返す前に明確な理由付けを行うという、その思考過程を可視化できるようになっており、その点が大きな注目を集めるところとなっています。OpenAIはこの部分の公開は行っていません。

DeepSeek社のミッションとビジョン

DeepSeek社のミッション・ステートメントは「好奇心を持ってAGIの謎を解明する」とあり、最終目的は「汎用人工知能(AGI)を構築する」です。現在、社の方針として商用アプリケーションの開発ではなく、基礎技術の構築に注力しており、すべてのAIモデルをオープンソースとしてリリースしていく計画を持っています。

人工知能と人間が地球を挟んで手を取り合っているイメージ

世界のAI競争におけるDeepSeek社の影響

DeepSeek社は「AIモデルのアーキテクチャをイノベーションする」という困難でコストのかかる取り組みに挑戦し成功しました。シリコンバレーが牽引する世界のAI業界の中で中国のAI新興企業が開発した成果は、世界の技術競争の勢力図を変えることになります。

米国では、トランプ大統領がNVIDIAなどの米国半導体大手企業が反対する厳格な輸出規制を維持するのか、さらに強化するのかについて議論が起きています。トランプ大統領は「中国企業のDeepSeekの発表は、われわれの業界にとって、勝つためには競争に全力集中する必要があるという警鐘となるべきだ」と語っています。

今後のAI開発競争の展望

今後、米国と中国を中心に激化することが見込まれるAI開発競争は、価格競争も含めて世界が注目していくことになります。