いよいよ上院を通過?暗号資産の市場構造を定める「クラリティ法案」

今週、米国のベッセント財務長官が暗号資産の市場構造を定める法案「クラリティ法案(CLARITY Act:Digital Asset Market Clarity Act)」について、上院での採決が「1ヤードライン(ゴールまで残り1ヤードの地点)」まで迫っていると発言しました。アメリカン・フットボールの用語を使って、ゴールラインの目の前まで迫っている可決への近さを強調したコメントでした。議会が休会に入る前に同法案を可決するよう促したと思われますが、政権の持っている暗号資産への期待の大きさを感じるものでもありました。

SECとCFTCの管轄区分を明確化する「市場構造法案」

クラリティ法案は、暗号資産に対する米証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)の管轄区分を明確化する市場構造法案になります。この法案により、どの暗号資産がどちらの当局の監督下に置かれるかが区別整理されます。そして暗号資産事業者や暗号資産取引所が従うべき規制を定めるものとなっています。

両当局の管轄の違いを整理すると、以下のようになります。

項目 SEC(米証券取引委員会) CFTC(商品先物取引委員会)
管轄対象 「証券」に該当する暗号資産 「商品(コモディティ)」に該当する暗号資産
想定される主な資産 投資契約性の強いトークン、一部のICOトークンなど ビットコインなど分散化が進んだデジタル商品
事業者への影響 証券取引所としての登録・開示義務 デジタル商品取引所としての登録・監督

米国ではこれまで、個々の暗号資産が証券なのか商品なのかの判断が訴訟や当局の執行(エンフォースメント)に委ねられ、リップル社とSECの裁判に代表されるように、業界は長年「規制の不確実性」に悩まされてきました。クラリティ法案はこの不確実性を立法によって解消しようとするものです。

またこの法案に関して政策関係者や業界関係者は、「暗号資産規制法案ではなく、米国がブロックチェーン、DeFi、ステーブルコイン、そしてオンチェーン金融をどのように制度へ組み込むのかを決める歴史的な制度設計になっている」と考えています。2025年に成立したステーブルコイン規制法「GENIUS法」に続く柱として、米国のデジタル資産法制の全体像を完成させる位置づけの法案といえます。

トランプ大統領も倫理条項に同意へ。最大の壁が動き出した

7月23日公開の最新草案と「倫理条項」の中身

米上院共和党は7月23日に「クラリティ法案」の最新草案を公開しました。これで民主党が求めている倫理条項の具体的な内容が明らかになり、上院本会議での採決は早ければ来週にも行われる見通しとなってきました。

新たに盛り込まれた倫理条項は、大統領・副大統領・連邦議会議員・連邦裁判所判事ら連邦当局者とその配偶者が、在任中に暗号資産を発行・スポンサーして報酬を得ることを禁じる内容となっています。ただし、暗号資産への投資自体は引き続き認められます。

一方で民主党は、この草案の中で倫理条項の執行機関を司法省(DOJ)のみに限定した点に強く反発しています。民主党は州司法長官の関与を求めていました。司法省の指揮系統は大統領の下にあるため、「大統領自身の利益相反を取り締まる機関が大統領の部下では実効性に欠ける」というのが民主党側の主張です。また、報道によればこの倫理条項には2029年で失効するサンセット条項が付いており、施行までに最大1年の猶予が設けられている点も、民主党側が問題視しているポイントです。

なぜトランプ大統領の「同意」が焦点だったのか

そして今回、トランプ大統領は、今回の草案にある倫理条項に同意したと報道されました。これでこの法案の大きな問題が解決し、上院での採決が近づいたと思われます。

倫理条項が数カ月にわたって法案の最大の争点となってきた背景には、トランプ大統領自身が暗号資産ビジネスと深く関わっているという事情があります。トランプ大統領の2025年の資産公開では、ファミリー企業のワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLFI)やミームコイン関連を中心に、暗号資産からの収入が少なくとも14億ドルにのぼり、デジタル資産が最大の収入源となっていたことが明らかになっています。民主党側が「大統領本人の暗号資産ビジネスに歯止めをかける条項がなければ賛成しない」と主張し続けてきたのはこのためです。

報道によれば、7月16日にはホワイトハウスでトランプ大統領とルミス上院議員、モレノ上院議員らが会談し、その後大統領が倫理条項の文言を承認、7月21日には合意された文言が共和党上院議員に共有されました。ホワイトハウス側はこれを「史上最も包括的な倫理規定」とアピールしており、大統領が自らのビジネスに制限をかける内容に署名する形で決着を図った格好です。数カ月間膠着していた交渉が大統領の直接関与によって動いたことは、政権がクラリティ法案を8月休会前の「必達案件」と位置づけていることの表れといえるでしょう。

この合意が伝わると、暗号資産市場全体の時価総額が1日でおよそ700億ドル増加するなど、市場も敏感に反応しました。予測市場では年内成立の確率が4割超まで上昇しており、投資家の期待が着実に織り込まれつつあります。

成立すれば何が変わるのか

クラリティ法案が成立すれば、前述したように「暗号資産が米証券取引委員会(SEC)の管轄する証券に該当するのか、商品先物取引委員会(CFTC)の管轄する商品に該当するのか」という長年の論点に一定の整理がつくことになります。この区分は、取引所の登録要件や事業者に求められるコンプライアンス対応にも関係する重要なものとなります。

ビットコインへの影響という観点では、規制の明確化は機関投資家のさらなる参入を後押しする材料と考えられます。ビットコインは分散性の高さからCFTC管轄の「デジタル商品」として扱われる公算が大きく、法的な位置づけが確定することで、年金基金や保険会社など、これまで規制リスクを理由に様子見をしていた資金の流入余地が広がります。現物ETFの承認、GENIUS法によるステーブルコイン制度化に続き、市場構造法の成立は「米国における暗号資産の制度化」を完成させる最後のピースとみられており、中長期的な需給にとってポジティブな材料といえるでしょう。

可決へのハードルと今後のスケジュール

同法案の上院本会議通過には、少なくとも10人の民主党議員の支持が必要です。上院の審議打ち切り(クローチャー)には60票が必要で、共和党の議席は53にとどまるため、民主党の造反なしには前へ進めない構図です。倫理条項の執行機関や大統領の家族への非適用を巡り、民主党の支持確保は依然として不透明な状況のようです。ギャレゴ上院議員は共和党案の倫理条項を「非常に弱い」と批判しており、また一部の民主党議員は、法執行機関側の懸念(捜査への影響)への対応を賛成の条件に挙げています。

現時点では8月7日の夏季休会入り前が現実的な期限とされており、倫理条項と8月休会が法案可決への最大の壁となっています。今後の想定スケジュールを整理すると以下の通りです。

時期 動き
7月16日 トランプ大統領がルミス・モレノ両上院議員らと会談
7月20〜21日 大統領が倫理条項に同意、文言が共和党上院議員に共有される
7月23日 上院共和党が最新草案を公開
7月末〜8月上旬 早ければ上院本会議で採決(60票の確保が焦点)
8月7日頃 上院が夏季休会入り。ここまでに可決できなければ年内成立は困難に

休会前に採決できなければ、審議は秋以降にずれ込み、2026年中の成立は一気に不透明になります。共和党がどのようにこの壁を崩していけるのか、暗号資産にとって重要な場面を迎えています。