「戦後の世界秩序は崩壊した」レイ・ダリオが示す“ビッグサイクル”最終局面
2026.02.27
2月15日頃に、世界最大級のヘッジファンド「ブリッジウォーター」を創業したレイ・ダリオ氏がSNSに投稿した内容が注目されました。同氏はそのなかで、 「第2次世界大戦後に構築された世界秩序は崩壊した」 と警鐘を鳴らしています。
報道ベースでは、この投稿は2026年2月14日(現地時間)に公開された長文(X上のエッセイ形式)として紹介されており、直後のニュースで大きく拡散しました。 いわゆる「戦後秩序」とは、国連を始めとする国際機関、同盟ネットワーク、国際金融の仕組み、そして“ルールにもとづく協調”を軸に、米国が中心となって形作ってきた枠組みを指します。
昨年、同氏は「世界秩序は変わりつつある。多国間協力の世界秩序は終わった。国連や国際司法裁判所があり、多国間で協力しようとする米国が構築した世界秩序、それは終わった。ほぼ終わったと思う。こうした状況に戻っていくとは思わない」と述べていました。
今回ダリオ氏が強調したのは、単なる“ニュースの波”ではなく、国家間関係を動かす構造が変わりつつあるという点です。 同氏の枠組みでは、世界は「ビッグサイクル(大きな循環)」の最終局面に入るほど、秩序を支えていた合意や制度が弱まり、 その空白を埋めるように「力(パワー)」が前面に出やすくなります。
「(ルールにもとづく)世界秩序はもはや存在しない」――といった趣旨の発言が、ミュンヘン安全保障会議で語られたと報じられています。
この「秩序の揺らぎ」が市場や資産に直結する理由は明快です。国際関係が荒れるほど、貿易・技術・資本・決済といった“経済の血流”が政治化し、 通貨・金利・資金フローが地政学の影響を強く受ける局面が増えるからです。
覇権国家の「ビッグサイクル」:6段階と“最終局面”の読み方
ダリオ氏は、米国、ドイツ、フランスなど西側主要国首脳の発言を引き合いに出し、 旧来の世界秩序が終焉を迎え、あらたな地政学的時代に入ったとの共通認識が示されたと指摘しています。 その上で、現在の国際情勢は同氏の理論「ビッグサイクル」の最終局面に当たると述べています。
ビッグサイクル(覇権国家の循環)6段階
この理論では覇権国家が次のような周期をたどるとしています(ご提示本文の内容を、見やすく表に整理)。
| 段階 | 内容(要旨) | 市場・通貨の“起こりやすい現象”(補足) |
|---|---|---|
| ① 新秩序の確立 | 戦争・危機後にあたらしいルールが合意され、秩序が形づくられる | 基軸通貨の信認が高まり、資本が集まりやすい |
| ② 統治システムの構築と整備 | 制度・同盟・金融インフラが整備される | 金融の中心(市場・決済)が固定化し、ネットワーク効果が強まる |
| ③ 平和と繁栄の時代 | 協調が進み、成長と繁栄が広がる | リスク資産が優位になりやすい(株式・信用拡大) |
| ④ 過剰支出と格差拡大、腐敗=衰退の始まり | 財政・債務の膨張、社会の分断が進む | 通貨の“価値の希薄化”懸念、インフレ・政治リスクの上昇 |
| ⑤ 深刻な金融・経済問題と内部対立 | 景気後退、金融不安、政治対立が深まる | 資金逃避(安全資産志向)、規制強化、資本規制の議論 |
| ⑥ 内戦・革命または戦争=秩序崩壊 | 対立が臨界点に達し、秩序が崩れる(“ルールより力”が優位) | ブロック化・制裁合戦・決済分断が進み、「非政治的な市場」が縮小しやすい |
最終局面で増えやすい「5つの対立」
ダリオ氏は国家間の争いが、必ずしも軍事衝突から始まるのではなく、複数のレイヤーで進行すると述べています。整理すると以下のような形です。
- 貿易・経済の対立(関税、規制、特定産業の締め出し)
- 技術の対立(先端技術の移転制限、サプライチェーンの分断)
- 資本の対立(制裁、資産凍結、資本市場アクセスの遮断)
- 地政学の対立(同盟、領土、安全保障の綱引き)
- 軍事の対立(武力衝突)
ポイントは、緊張が高まるほど“非軍事領域”が先に荒れやすいことです。特に「資本の対立」は、金融インフラを通じて即効性を持ち得るため、 市場への影響が早い(為替・金利・コモディティ・暗号資産のボラティリティ上昇など)と考えられます。
「戦争の前に金融が動く」:制裁・資産凍結がもたらすあたらしい現実
ダリオ氏は国家間の争いは実際の戦闘よりも前に、経済的・金融的な圧力から始まると述べています。具体的には、 「資産の凍結や没収」「資本市場へのアクセス妨害」「禁輸・封鎖」などです。すでに米国によるイランやロシアに対する動きとして行われています。
この局面で重要なのは、金融インフラそのものが“武器”になり得るという点です。 送金網・決済網・清算機関・証券決済・ドル建て取引の基盤が中央集権的であるほど、「アクセス遮断」が政策手段として成立します。
暗号資産が“代替インフラ”として語られやすい理由
こうした動きは、銀行ネットワークや法定通貨システムといった中央集権的な金融インフラを前提としたものになります。 ということは、既存の金融システムに依存しない代替的決済インフラとして、暗号資産の存在感が高まる可能性があります。
ただし、ここは誤解されやすい点でもあります。暗号資産は「何でもできる抜け道」ではありません。 取引所・カストディ・法定通貨との出入り口(オン/オフランプ)は規制対象であり、 主要国はマネロン対策や制裁遵守を強めています。実際、米財務省OFACは、暗号資産業界向けに制裁コンプライアンスのガイダンスを公表しています。
それでも需要が生まれ得るのは、“国家や銀行の管理下にない形で価値を移転・保有したい”という動機が、危機時に強まりやすいからです。 分断が進むほど、個人・企業・国家が「決済」「保管」「検閲耐性」の優先順位を上げる局面が増える――これが暗号資産が再注目される構造です。
制裁下での需要:イランを巡る報告例(一般論として)
米国による制裁が続くイランでは、通貨不安や国際送金の制約を背景に、暗号資産が“金融的な選択肢の1つ”として利用されやすい、という調査・報道が複数あります。 近年は「個人の資産防衛」だけでなく、制裁回避ネットワークに暗号資産が悪用されるリスクも指摘され、当局側も監視と執行を強めています。
※本記事は制裁回避の手順や方法を案内するものではありません。ここでの記述は「暗号資産が地政学・制裁と結びついて語られる理由」を説明するための一般論です。
ビットコインへの影響:秩序崩壊局面で「価値の置き場」はどう変わるか
ダリオ氏は以前から米国覇権の終焉やドルの信認について論じてきました。昨年はドルの価値下落の年だったとし、利下げ圧力がドル下落、 そして米国債からゴールドへの資金逃避を引き起こしていると指摘しています。そして暗号資産についても、 「暗号資産は供給量の新種の通貨で、条件が揃うならばドル紙幣の供給が増えるか、需要が減る場合、暗号資産はあらたな通貨として魅力的なものになる可能性が高いだろう」 と述べています。
ビットコインが“秩序の揺らぎ”と結びつく3つの論点
- 自己保管(セルフカストディ)と検閲耐性:銀行口座や証券口座の凍結リスクが意識される局面で注目されやすい
- 供給スケジュールの固定性:発行量がアルゴリズムで決まるため、財政・金融政策の都合で増刷されないという評価がある
- 制度圏マネーの入り口(ETF等)の拡大:投資家が「触れやすい形」でアクセスできるほど、資金流入の経路が太くなる
ここで現実的に効いてくるのが、ETFなど“伝統金融と暗号資産の接続部”です。たとえばデータトラッカーでは、ビットコインETFの市場規模や出来高が日次で更新されています。 制度圏の入口が太いほど「地政学リスク→資金移動」が暗号資産にも伝播しやすいという見方もできます(上がる/下がるの方向は局面次第です)。
ただし「安全資産」になり切らない場面もある
ビットコインはしばしば「デジタルゴールド」と呼ばれますが、価格変動は依然として大きく、短期的には株式などのリスク資産と同方向に動く局面もあります。 つまり、秩序不安が高まったからといって常に買われるわけではなく、 「流動性危機では売られやすい」「中長期の通貨不安では買われやすい」といった、時間軸で性格が変わる点が読みどころになります。
決済インフラとしての“現実”:ステーブルコインの存在
「代替的決済インフラ」という文脈では、実務上はビットコインよりもステーブルコイン(米ドル連動型など)が使われる場面も多いとされます。 ただしステーブルコインは発行体・準備資産・凍結権限などの論点があり、“中央集権リスクをゼロにはできない”点もあわせて理解する必要があります。
ドルに代わる安全資産は何か?――ダリオの問いを「データ」で補強する
今回、ダリオ氏は米国覇権の終焉による世界秩序の変化を取り上げましたが、その先には 「ドルに代わるあらたな安全資産は何か?」 という問いかけがあります。
データでみえる“分散”の圧力
- 外貨準備に占めるドル比率:IMF COFERの集計では、2025年第3四半期のドル比率は56.92%とされています(同四半期の外貨準備総額は約13.0兆ドル)。
- 中央銀行の金購入:世界金協会(WGC)によると、2024年の中央銀行の金購入は純増で1,045トンでした(1,000トン超が複数年続いた点も示されています)。
「安全資産」は単一回答ではなく“用途別”になりやすい
安全資産を一言で決めるのは難しく、実務的には「何のリスクを避けたいか」で選好がわかれます。整理のため、代表的な候補を比較します。
| 候補 | 強み | 弱み / 注意点 | 秩序不安との相性(一般論) |
|---|---|---|---|
| 米ドル(現金・預金) | 流動性が高く、取引の基盤が大きい | 政治化(制裁・凍結)、インフレ、財政不安の影響 | 短期の避難先になりやすいが、分断が進むほど“政治リスク”が意識される |
| 米国債 | 大規模で流動性が高い、担保として機能しやすい | 金利リスク、財政・格付け・政治リスク | リスクオフで買われやすい一方、金利上昇局面では価格変動も起きる |
| 金(ゴールド) | 国家信用から相対的に独立、長期の価値保全の歴史 | 利回りが出ない、保管コスト、短期は変動もある | “デドル化”や制裁リスク意識と相性が良いとされやすい |
| ビットコイン | 自己保管・移転の柔軟性、供給スケジュールの固定 | 価格変動が大きい、規制・取引所リスク、ハッキング/鍵管理 | 通貨不安・資本規制の懸念で注目されやすい一方、流動性危機では売られる局面も |
| ステーブルコイン | 決済の即時性・国境越えの使いやすさ | 発行体リスク、凍結・差し止め、準備資産の透明性 | “決済用途”で現実的だが、中央集権リスクは残る |
結論としては、ダリオ氏の問いは「次の基軸通貨は何か」という単純な置き換えではなく、 地政学・制裁・財政・金融の複合リスクが高まるほど、価値の置き場が“複線化”するという問題提起と捉えると理解しやすいはずです。
まとめ
- ダリオ氏は「戦後秩序の崩壊」を、ミュンヘン安全保障会議での空気感や主要国の発言と結びつけ、ビッグサイクルの最終局面として説明しています。
- 最終局面では、軍事衝突の前に貿易・技術・資本(制裁)が先行しやすく、金融インフラが政治化しやすい点が市場の急所になります。
- 暗号資産は「代替インフラ」として語られやすい一方で、規制・執行も強化されており、万能な避難先ではありません。
- それでも、自己保管・検閲耐性・制度圏の入口(ETFなど)という論点から、ビットコインが“秩序不安”と結びつく局面は今後も増える可能性があります。
参考・引用
Ray Dalio says the post-1945 world order has “broken down”|The Nation (Thailand)
ダリオ氏の投稿内容(2026年2月14日公開とされる)と、ビッグサイクル/5種類の対立の整理に関する報道。
Facing the Elephant in Munich|Foreign Policy
ミュンヘン安全保障会議における「秩序の終わり」に関する発言の報道。
Munich Security Conference (live coverage)|The Guardian
各国首脳発言(旧来の世界秩序に関する言及)の報道。
IMF Data Brief: Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves|IMF
外貨準備総額(2025Q3で約13.0兆ドル)と、ドル比率(2025Q3で56.92%)などの公式集計。
Gold Demand Trends (Full year 2024) – Central Banks|World Gold Council
2024年の中央銀行の金購入(純増1,045トン)に関するデータ。
Bitcoin ETF Tracker|Blockworks
ビットコインETFの市場規模・出来高などのトラッキングデータ(更新時刻付き)。
Sanctions Compliance Guidance for the Virtual Currency Industry|OFAC (U.S. Treasury)
暗号資産業界向けの制裁コンプライアンス指針の公表。
Sanctions by the Numbers: 2025 Year in Review|CNAS
2025年の制裁・輸出規制の傾向(SDN/Entity Listの追加数など)を整理したレポート。
Inside Iran’s Growing Crypto Ecosystem|Chainalysis
制裁圧力や不安定化と暗号資産アクティビティの関係についての分析記事。
US sanctions Iranian financiers over cryptocurrency transfers|AP News
イラン関連の暗号資産移転と制裁執行に関する報道(例示)。