米国株の上昇と背景にあるリスクオンムード

米国株は対中国貿易交渉での115%の関税率引き下げをポイントに大きく上昇しています。特に半導体を中心としたハイテク株の上昇でNASDAQ、S&P500は堅調な動きが続いています。NYダウ平均も12日(月)は1,160ドル高と大きく上昇しており、株式市場でのリスクオン・ムードが復活した状況です。

インフレ懸念と米国債利回りの変動

一方で、景気への期待感とともに発生するインフレに対する懸念による年内利下げ観測の後退や、議会での減税案の進展などから米国国債の利回りが上昇しています。

米国10年国債の利回りは、金融当局への金融緩和期待から、昨年(2024年)9月16日に3.61%まで低下していましたが、9月17-18日のFOMCで利下げを決定すると政策金利の引き下げにもかかわらず、上昇を始めました。2人の新大統領候補による経済政策への期待とともに、米国の抱える財政赤字への懸念が強く台頭したことがポイントです。

新大統領にトランプ氏が当選するとさらに利回りは上昇し、本年1月14日には4.79%まで上昇しました。

トランプ新政権と利回りの変動

その後、インフレに関する経済指標の落ち着きやトランプ新大統領によるDOGE(政府効率化省)、関税政策による財政赤字削減への期待から米国10年国債利回りは再度低下へ転じ、3月3日には4.15%まで低下しました。

さらにトランプ大統領から相互関税について発表があると、4月4日には3.99%へ低下しました。その後は関税交渉の進展を見ながら4.2%前後の動きとなっていましたが、4月30日の4.16%から利回りの上昇が続き、昨日(5月14日)は4.54%に上昇しています。

米国の財政赤字が波のように襲ってくるイメージ

財政赤字と税制改革のインパクト

最近の米国10年国債利回りの上昇は、関税交渉が進展する中で関税政策による財政赤字削減に対して不透明感が出てきたからと思われます。まして議会では、下院歳入委員会で税制改革法案が承認され、今後、下院本会議で採決にかけられます。この法案はトランプ大統領が2017年に導入した個人向け減税の恒久化が盛り込まれています。

米国の財政赤字は、コロナ後の金利上昇で米国国債に多額の利払いが発生しており、米国のGDPの4%弱と言われ、GDPの7%近くある財政赤字の約5割が利払いとなっています。

関税政策は国民に対して増税とせずに財政赤字削減を進める政策になりますが、関税交渉の結果とはいえ、その撤廃や関税率の軽減は財政赤字削減が進展しないことになり、その結果、米国国債が大量に発行され、米国国債の利回り上昇(価格下落)に繋がると見られています。

今後の株式市場への警戒感

昨年秋以降、金利が上昇しているにもかかわらず株価が上昇するという組み合わせで進んで来ていますが、いつまでも続くとは考えられない組み合わせです。金利が上昇すれば国債の利払い金額がさらに増加し、財政赤字が悪化することになります。株価がどこまで上昇するかは、金利次第だと思われます。

株式市場の大きな下落の前には、再度上昇局面がありますので、そこで株式に対する投資態度を固める必要があるのではないでしょうか。

今後の関税交渉の進展とそれに伴う景気の状況、債券市場の動向をしっかりと注視していくことになります。