米国からの反撃開始?トランプ税制法案が狙う“外国課税”
2025.06.06
トランプ減税法案に盛り込まれた報復条項税とは
トランプ大統領が政権の1期目で導入した「大型所得税減税の恒久化」を柱とする税制歳出法案「一つの美しい法案(One, Big, Beautiful Bill Act)」が、5月22日に下院で可決され通過しました。現在、上院に送られ審議中となっています。
第899条:ひそかに盛り込まれた“報復課税”
この法案には、米国企業などに対する税制が差別的と見なされる国の個人や企業への課税強化を求める「第899条」が、目立たない形で盛り込まれています。
この報復条項は、米国企業に差別的、もしくは域外適用とみなされる税を課す国・地域の投資家や企業に対して、米国への投資で得ている利子・配当収入などの税率を引き上げるというものです。具体的には、1年目に税率を5%引き上げ、4年間で最大20%の累進税率で引き上げることを可能としています。
想定される対象国と影響
この条項の対象としては、デジタルサービス税や軽課税所得ルールなどを導入している国・地域が考えられます。欧州では大半の国々が対象となり、日本、韓国、豪州、カナダ、インドなども含まれる可能性があります。
この条項自体は米国政府が進めている関税政策とは異なりますが、関税の税収規模が当初よりも小さくなる可能性もある中で、大型減税を進めるための原資として注目されています。実際、議会予算局の試算では、今後10年間で1,160億ドルの歳入を見込んでいます。

金融市場への波及リスク
この報復条項が発動されれば、関税戦争が“資本戦争”へと転じ、金融市場に大きな影響を及ぼす可能性があります。
外国人投資家の米国債など、米国資産に対する信頼は、トランプ政権による不安定な関税政策や大型減税による財政のさらなる悪化見通しによって揺らいでいます。もしこの法律が成立すれば、政府系ファンドや年金基金、政府機関などの機関投資家、さらには米国資産を保有する個人投資家と企業にも影響が及ぶ恐れがあります。
こうした動きは、外国人投資家による米国資産からの逃避を引き起こす可能性も高く、慎重に注視する必要があります。
市場が織り込んでいないリスク
アリアンツのルドビック・スブラン最高投資責任者(CIO)は、「金融市場は、まだこの法案の第899条の影響を完全には織り込んでいないと思われ、従って実施されれば大きな衝撃を与えうる」とコメントしています。
今後、上院がこの法案に対してどのような対応をしていくのか、また法案が可決され実施に向かう際に金融市場がどう反応するのか、十分に注意し、警戒する必要があります。