米FOMCが0.25%利下げを決定!2026年までの政策金利と新議長のシナリオとは
2025.12.11
FRBによる3会合連続利下げと今後の見通し
FRB(米連邦準備理事会)は9、10日に開いたFOMC(米連邦公開市場委員会)で、3会合連続となる0.25%の利下げを決定しました。会合では賛成9、反対3で決定しています。2026年にあと1回の追加利下げを実施する参加者の見通しになっています。
今回の決定は、インフレ抑制を最優先した急速な利上げ局面から、景気や雇用への悪影響を抑えつつ「ソフトランディング」を目指す調整局面に入っていることを改めて示すものといえます。市場参加者は、利下げペースそのものだけでなく、「どこで打ち止めにするのか」「その後どれくらい長く水準を維持するのか」に強い関心を寄せています。
パウエル議長の会見内容と政策スタンス
パウエルFRB議長は、会合後の記者会見で「こうした政策スタンスのさらなる正常化は、関税の影響が一巡した後、労働市場の安定化に寄与するとともに、インフレ率が2%に向けて再び低下基調をたどることを可能にするだろう」と述べ、雇用の悪化を抑える措置を講じた一方で、インフレ圧力を抑える十分な高さを金利水準は維持しているとしています。
ここでいう「政策スタンスの正常化」とは、パンデミック後の異例の金融緩和から急激な利上げを経て、より持続可能な中立水準に金利を戻していくプロセスを指しています。議長は、景気を冷やし過ぎて深刻なリセッションに陥ることを避けつつ、インフレ期待の再燃を防ぐという、非常に難しいバランス運営を意識していることを強調した形です。
「中立金利レンジ」と今後の利下げ方針
今後の利下げに関しては、「政策金利は推定される中立金利のレンジ内にあると同時に今後の景気動向を見守るのに良い態勢にあり、データにもとづいて今後の追加の調整やタイミングを判断する良い位置にいる」とし、「金融政策はあらかじめ決められた道筋にあるのではなく、会合ごとに判断していく」と述べました。
ここで言及されている「中立金利」とは、景気を過度に刺激も抑制もしないとされる理論上の金利水準です。FRBはこのレンジのなかで、インフレ率や失業率、賃金動向、金融市場のボラティリティなど、多数の指標を総合的に勘案しながら、会合ごとに機動的な判断を行う方針を明確にしています。
そのため、市場にとっては「利下げ回数やタイミングの事前コミットメント」よりも、「どのようなデータが出ればスタンスを変えるのか」という反応関数を読み解くことが、ますます重要になっています。
FOMC声明が示す「様子見」スタンス
一方でFOMCの声明では「FF金利の誘導目標レンジに対する追加調整の程度と時期を検討するにあたり、委員会は今後もたらせるデータ、変化する見通し、リスクのバランスを慎重に評価する」と表明しています。こうした文言はFRBが過去に政策変更の一時停止を示唆する際に使用しています。現在、委員会は「雇用」と「インフレ」という2つの使命に関するリスクを注視していますが、労働市場については「雇用の伸びは今年鈍化し、失業率は9月までやや上昇した」としており、失業率は「低水準」とするこれまでの表現が削除されました。また「インフレ率は今年初めから上昇し、依然として高止まりしている」としています。
このように、インフレは依然として目標の2%を上回る一方で、労働市場には減速の兆しが出ているため、FRBはどちらか一方に偏ったメッセージを出すのではなく、「次の一手を急がず、データを見極める」というスタンスを鮮明にしています。これは、金融市場の過度な期待先行や、将来の政策に対する誤解を避ける狙いもあると考えられます。
雇用・インフレ環境の変化
近年の米国では、パンデミック後の急速な回復と財政支出の拡大を背景に、消費と雇用が強く推移し、その過程でインフレ率も大きく上振れしました。その後、利上げやサプライチェーン正常化などによりインフレはピークアウトしたものの、賃金上昇やサービス価格の粘着性などから、完全に落ち着いたとは言い切れない状態が続いています。
こうした状況と来年にFRB新議長が就任することを踏まえると、今後しばらく政策金利は据え置く可能性が高いと考えられます。特に、新体制への移行期には、急激な方針転換よりも、連続性と予見可能性を重視した運営が行われやすいと考えられます。
政策金利見通しと参加者の見方の違い
FOMCにあわせて発表された政策金利見通しでは、2026年に0.25%の利下げが1回行われる見通しで、前回の9月から変化はありませんでした。2027年にも0.25%の利下げの見通しと示されています。ただ今回の利下げを見込んでいなかった参加者が6人いたこと、来年の利下げはないとみている参加者が7人いることも示され、今後の政策決定の難しさが鮮明になりました。
ドットチャートのイメージと参加者の分布
FOMC参加者の金利見通し(いわゆるドットチャート)は、各メンバーが想定する「適切な政策金利の水準」を年ごとに示したものです。これをみると、利下げの方向性については大まかなコンセンサスがあるものの、そのペースや開始時期、最終的な着地点について、意見が割れていることがわかります。
さらに、FOMC参加者は金利の見通しだけでなく、失業率・経済成長率・物価上昇率といったマクロ経済指標についても予測を公表しています。以下の表は、今回公表された2026年・2027年の経済見通し(中央値)を示したもので、カッコ内は前回9月時点の見通しを示しています。
| FOMC参加者による経済見通し | ||
|---|---|---|
| 2026年 | 2027年 | |
| 利下げ回数 | 1回 (1回) |
1回 (1回) |
| 失業率 | 4.4% (4.4%) |
4.2% (4.3%) |
| 経済成長率 | 2.3% (1.8%) |
2.0% (1.9%) |
| 物価上昇率 | 2.4% (2.6%) |
2.1% (2.1%) |
(注)予想の中央値、カッコ内は前回9月時点。利下げ回数は年内、その他は10〜12月期、経済成長率とPCE(米個人消費支出)物価指数の上昇率は前年同期比
(出典)米連邦準備理事会(FRB)(引用元:日本経済新聞)
この表からは、2026年・2027年ともに利下げ回数の見通しは前回と変わらない一方で、2026年の経済成長率見通しが1.8%から2.3%へと上方修正されていることがわかります。失業率は2026年は4.4%で据え置き、2027年は4.3%から4.2%へとわずかに改善方向に見直されています。その反面、物価上昇率については2026年が2.6%から2.4%へと小幅に下方修正され、インフレは徐々に落ち着いていくとの見方が示されています。
つまり、FRB参加者は「成長は以前の想定よりやや強く、失業率は高まりすぎず、インフレは時間をかけて目標に近づいていく」という、比較的ソフトランディング寄りのシナリオを描いていることが読み取れます。その一方で、利下げ回数自体は増やしておらず、過度な緩和には慎重なスタンスを維持している点も重要です。
FRB新議長にはトランプ大統領の金融緩和意向に近い考えの候補者が選ばれ、来年以降、利下げが行われるとみられていますが、FOMC参加者の考え方を踏まえると、誰が就任しても強引に推進することは難しそうです。FOMCは合議制であり、議長といえども独断で政策を決めることはできません。そのため、市場が想像するほど「人物の交代だけで急激な路線変更」が起こる可能性は限定的とみる見方も根強く存在します。
来年以降、米国の金融政策がどのような変化をみせていくのか、世界は注視していくことになります。特に、ドル金利は世界の金融市場のベンチマークであり、新興国を含めた資金フローや為替レート、株式市場、債券市場など、あらゆる資産価格に影響を与えるため、その一挙手一投足がグローバルに波及していきます。
FRBの利下げがビットコイン・暗号資産市場に与える影響
FRBの金融政策は、株式や債券だけでなく、ビットコインを始めとした暗号資産市場にも大きな影響を与えると考えられています。一般的に、政策金利が高止まりしている局面では、安全資産である国債やドル建て預金の利回りが相対的に魅力的となり、ボラティリティの高いリスク資産から資金が流出しやすくなります。一方、利下げ局面や、利下げ期待が高まる局面では、「将来の資金繰りが楽になる」「流動性が潤沢になる」との思惑から、株式や暗号資産など、リスクテイクを伴う資産に資金が戻りやすい傾向があります。
ビットコインはこれまで、株式市場、特に米国のハイテク株やナスダック指数と一定の相関を示す時期があり、「デジタル・ゴールド」と同時に「ハイリスク資産」としても認識されてきました。そのため、FRBの利下げや利上げの転換点付近では、「金利の先行き」と「リスク選好度合い」に関する市場の見方が変化し、それがビットコイン価格にも波及しやすいと考えられます。
利下げ期待とビットコイン価格の関係性
今回のように「利下げが続いているが、今後は様子見に入るかもしれない」という局面では、暗号資産市場にとって次のようなポイントが注目されます。
- 利下げペースが減速しても、依然として「高金利水準」が続くのか
- インフレが再加速せず、実質金利(名目金利−インフレ率)がどう推移するか
- 金融環境が再び緩み、投機的な資金が暗号資産に戻る余地があるか
もし今後、インフレが落ち着きつつも景気の減速感が強まり、「景気を支えるために利下げが必要」とのコンセンサスが強くなれば、長期的にはビットコインにとってプラス材料となる可能性があります。なぜなら、超低金利や緩和的な金融環境のもとでは、法定通貨の価値希薄化への懸念が再燃し、「価値の保存手段」としてビットコインや金への資金シフトが起こりやすいと考えられているためです。
ドルの強さ・リスクオフ局面と暗号資産
逆に、インフレ懸念が収まらず「利下げ打ち止め」や「再利上げの可能性」が意識される局面では、ドル高・米金利高が進みやすくなります。その場合、グローバルなリスクオフムードが強まり、新興国通貨や株式、ビットコインを含む暗号資産が売られやすくなる点には注意が必要です。
特に、レバレッジをかけて暗号資産を取引している投資家にとっては、金利水準の変化は調達コストやリスク許容度に直結します。マージン取引やデリバティブ取引の需給が変化すれば、短期的にはビットコイン価格のボラティリティが急拡大する可能性もあり、FRBの一言一句がトリガーとなるケースも少なくありません。
機関投資家の参入と規制動向
近年では、ビットコイン現物・先物ETFの登場やカストディーサービスの整備などにより、機関投資家が暗号資産市場に参加しやすい環境が整いつつあります。こうした投資家は、金利やマクロ環境、リスクパリティ戦略などを踏まえたポートフォリオ運用を行うため、FRBの政策変更は暗号資産のポジション調整にも直接影響を及ぼし得ます。
さらに、米国を中心とした規制の方向性も、金融政策と並んで暗号資産市場の重要なドライバーです。金融緩和が続き、リスクマネーが潤沢でも、規制が厳格化すれば投資マネーの一部は様子見となる可能性があります。一方で、一定のルール整備が進むことで、暗号資産が「投機対象」から「オルタナティブ資産クラス」の1つとして位置づけられ、長期資金の流入が増えるというシナリオも考えられます。
まとめ:FRB政策とグローバル市場・暗号資産の行方
FRBの3会合連続の利下げ決定と、今後しばらくの「様子見」スタンスは、米国経済のみならず、世界の金融市場やビットコインを含む暗号資産市場にとっても重要な転換点となり得ます。インフレと雇用のバランス、新議長体制への移行、そして各FOMC参加者の見通しの違いが、今後の政策パスをより複雑で読みづらいものにしています。
投資家にとっては、単に「利下げか利上げか」という2択ではなく、「金利水準がどの程度の期間続くのか」「それがドル、株式、暗号資産の需給にどう影響するのか」を総合的に見極めることが重要です。来年以降、米国の金融政策がどのような変化をみせていくのかを追いながら、ビットコインや暗号資産への影響も含めて、中長期的な視点で戦略を考えていく必要があると考えられます。