FOMC後の不確実性とリスク資産の混乱

先週のFOMC会合後の記者会見でパウエルFRB議長が12月会合での利下げについて「確定的ではない」と述べたことから、年内の利下げ期待で上昇してきたリスク資産の動きに混乱が生じています。

今週4日(火)に香港金融管理局が香港で金融サミットを開催し、米国から出席した人たちの発言がマーケットへ不安を与えました。

主要イベントの要点

パウエル議長の発言の含意

運用環境は「データ次第」で、短期の方向感が出にくい局面です。利下げの確度が後退したことで、実質金利・ドル・金融条件の揺り戻しがリスク資産全般のボラティリティを高めています。

香港金融サミットでの見解

運用会社キャピタル・グループのマイク・ギトリンCEOは「米国企業の業績は堅調だが、問題はバリュエーションにある。多くの人は現在の株価水準を適正から割高の間にあると考えるだろうが、割安から適正の間にあるという人はあまりいないと思う」と述べ、話し方は冷静でしたが市場への懸念を表明しました。このコメントに対してモルガン・スタンレーのテッド・ピックCEOやゴールドマン・サックス・グループのデービッド・ソロモンCEOも株式市場について同様の見解を示し、今後大幅な売りが発生する可能性があるとして投資家に調整への備えを呼びかけました。

登壇者所属要旨
マイク・ギトリンキャピタル・グループCEO業績は堅調だが主因はバリュエーション。現水準は適正〜割高とみる向きが多い。
テッド・ピックモルガン・スタンレーCEO株式市場に調整リスク。投資家に備えを促す。
デービッド・ソロモンゴールドマン・サックスCEO同様の慎重姿勢。バリュエーションとマクロ不確実性を警戒。

市場の反応

米国・日本株式の値動き

この発言を受けて米国NY株式市場はNYダウ平均が−251ドル、S&P500が−80ポイント、NASDAQが−486ポイントと大きく反応しました。東京市場も翌5日は日経平均株価が1,343円安となっています。

日付指数変化備考
(サミット発言後)NYダウ−251ドルリスク資産が広く下落
(サミット発言後)S&P500−80pt大型グロース中心に軟調
(サミット発言後)NASDAQ−486ptハイテク株の下げが目立つ
翌5日日経平均−1,343円米株安の影響が波及

5日(水)のNY株式市場は買い戻しが入り、一旦落ち着いたようでしたが、6日(木)にはNYダウ平均が−398ドル、S&P500が−75ポイント、NASDAQが−445ポイントと3指数が揃って大きく下落しました。

労働市場のシグナルとセンチメント

この日のきっかけは米再就職支援会社チャレンジャー・グレイ&クリスマスが発表した内容でした。その発表内容は、10月の人員削減が同月としては過去20年以上で最多となったものです。これはAIの浸透による産業構造の変化とコスト削減の加速が背景にあるとみられています。米国企業が10月に発表した人員削減は153,074件で、前年同月のほぼ3倍に達しています。中心はIT・ハイテク企業と倉庫業でした。2025年通年では2009年以来最悪のレイオフ年となる見通しです。37日目に突入した政府閉鎖により経済指標の公表が途絶しているなかで、米国経済の不安定さを浮き彫りにしているとして株式市場が反応しました。

ビットコイントレードのイメージ

暗号資産市場の動き

こうした株式市場の軟調な動きは暗号資産市場にも影響を与えています。代表的な銘柄であるビットコイン(Bitcoin:BTC)は11月3日に114,000ドル近辺(約1,750万円)から始まりましたが、1,300ドル程度(約20万円)下落し、4日は株式市場からの影響もあり、一時100,000ドル(約1,530万円)を割れて98,900ドル台(約1,520万円)まで下落しました。その後、100,000ドル台を回復しましたが、100,000〜104,000ドル(約1,600万円)のもみ合いとなっています。

日付出来事/コンテキストBTCの推移(本文より)
11/3米株の不安台頭前約114,000ドル近辺
11/4リスクオフ拡大一時98,900ドル台まで下落(100,000ドル割れ)
その後反発するもレンジ100,000〜104,000ドルでのもみ合い

関係者コメントの整理

BTCに関しては暗号資産市場の関係者がさまざまなコメントを発表しています。

関係者要旨
ジェームズ・チェック氏BTCに投資された資金の約6割弱が含み損。時価総額に対する損失率は7〜8%。95,000ドル(約1,460万円)まで下落すると10%台に接近し弱気相場への分岐点に。95,000ドル割れは回避したい。
マーカス・ティーレン氏長期保有者から大規模な売却があり、市場のバランスを崩した。
ギャラクシー社10万ドル水準を維持できれば、年末までに過去最高値近くまで回復する可能性。
JPモルガン今後6〜12ヵ月で約170,000ドル(約2,610万円)まで上昇する可能性。

暗号資産のセンチメントとマクロ連動性

暗号資産と株式の相関は、金融条件がタイト化する局面で高まりやすい傾向があります。実質金利の上昇やドル高が進むと裁定余力が低下し、ボラティリティが拡大しやすくなります。特にレバレッジ主体の短期資金が厚い時は、デリバティブの清算(ロングのストップアウト/ショートカバー)が現物価格を増幅し、短時間で大きな値幅が出やすい構造です。

オンチェーンの観点では、長期保有者(LTH)の利益確定が進む時、短期保有者(STH)が受け皿になれるかがカギです。LTH供給の動向、SOPR(保有者の損益指標)、実現価格帯(コストベースの密集領域)、UTXOエイジ分布などは「売られやすい価格帯」や「耐性のある価格帯」を示唆します。レンジ下辺で出来高が積み上がると、実現価格の再配分が進み、ボトムの耐久性が増すことが多いです。

フロー面では、(1)先物資金調達率(ファンディング)、(2)未決済建玉(OI)、(3)取引所純流入出、(4)ステーブルコインの時価総額推移、(5)マイナー残高と売却圧力が短期トレンドの転換点を示すことが多い指標群です。たとえば急落局面でファンディングがマイナス化しOIが縮小、現物取引所からの資金流出が止まる場合は、ショートの偏りが強まってスナップバックの余地が生まれます。

一方でマクロ面の不透明感(雇用調整加速や景気指標の途絶、政府閉鎖など)は「リスクパリティ」の再調整を促し、暗号資産にも波及しやすい点に注意が必要です。株式のボラ拡大と同時に暗号資産の流動性が薄くなると、同じニュースでも値幅が過剰になりやすく、ガンマ的に振れ幅が拡大します。

テクニカルには、100,000ドル前後の心理的節目がレンジ中心になっている間は、守りと攻めの切り替えが高速です。上側は104,000ドル付近で回転が効きづらく、下側は95,000〜100,000ドルに実需買い・損切り・清算の集積が想定されます。オーダーブックの厚みや清算ヒートマップを併用しつつ、急変時の指値戦略(段階的な逆指値・利確指値)を事前に設計するのが有効です。

当面は材料待ち、時間を味方に

このように暗号資産だけでも多くのコメントが出ています。すでに株式市場、暗号資産市場、そして金市場などリスク資産の価格は値幅として十分に調整しており、支援材料待ちの状態といえます。今しばらくはこの状態が続くと思われますが、投資家の皆様には時間を味方にして臨んでいただきたいです。