株は強いのにビットコインは調整…“温度差”の理由を読み解く
2026.01.30
2026年1月27日〜28日にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催され、主要政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利を 3.5%〜3.75%で据え置く ことを決定しました[1]。
FOMCの決定と声明のポイント
FOMC声明は、経済活動について「堅調(solid)」に拡大しているとの認識を示し、雇用については「雇用増加は低水準ですが、失業率には安定化の兆しがある」と整理しています[1]。インフレについても「やや高い(somewhat elevated)」との表現を維持しつつ、現時点では目標(2%)に向けて、追加の政策調整を急がない姿勢が読み取れます。
また、政策金利は3.5%〜3.75%で据え置きとしつつ、「入手するデータ」「見通し」「リスクバランス」を会合ごとに丁寧に評価する方針を明記しました[1]。投票は 10対2 で、2名は0.25%の追加利下げを主張しました[1]。
会見での補足:労働市場は「安定化の兆し」がある一方、冷え込みも残る
会合後の記者会見でパウエル議長は、米国経済は「2026年に向けてしっかりした足取り」と述べつつ、労働市場については「安定化の兆しがあるが、冷え込みが続いている兆候もある」とのバランス感を示しました[2]。これは、単に景気が強いというよりも、(雇用を過度に傷めず)インフレを2%へ戻す「着地の形」を見極めたい、というメッセージとして受け止められます。
インフレ:上振れは財価格(モノ)中心、関税の影響を「主因の一つ」として言及
インフレについてパウエル議長は、PCE(個人消費支出)は前年比2.9%、コアPCEは3.0%と説明し、依然として2%目標を上回る点を認めています[2]。一方で、上振れの多くは「財(goods)インフレ」であり、関税の影響が押し上げ要因になっている、と位置づけました[2]。サービス(services)側ではディスインフレが続いているとの見立ても示され、政策は「事前に決めたコースではなく、会合ごとに判断する」と改めて強調しました[2]。
また、前回までの表現から雇用の下振れリスクに関する踏み込みを弱めるなど、全体として「米国経済は底堅く、インフレは注意しつつもパニックではない」というトーンに寄っています[1]。
米国金融市場の反応:株は底堅く、金はリスク回避とインフレ観測で上昇
今回のFOMCを受けて、米国金融当局が「米国経済は堅調に推移しており、インフレについても直ちに心配する状況ではない」と判断していることが意識されました。こうした状況に対して米国金融市場はどのように推移しているのでしょうか(※下表は提供データに基づく整理です)。
| 資産 | 2025年最終値 | 2026年1月28日 | 騰落値 | 騰落率 |
|---|---|---|---|---|
| NYダウ平均 | 48,063.29 | 49,015.60 | +952.31 | +1.98% |
| S&P500 | 6,845.50 | 6,978.03 | +132.53 | +1.94% |
| NASDAQ | 23,241.89 | 23,857.44 | +615.45 | +2.64% |
| WTI | 57.91 | 63.51 | +5.60 | +9.67% |
| GOLD | 4,341.10 | 5,340.20 | +999.10 | +23.01% |
2026年に入り約1か月が経過しましたが、この間は米国内で経済面の大きな問題は目立たず、トランプ大統領による地政学リスクに影響する事柄が相次ぎました。そうした中で株式市場は、まずまずの状況だと言えます。
株式市場では決算発表が始まっています。今年は堅調な企業業績が予想されており、今後も底堅い展開が期待されています。一方、外国為替市場ではドル安傾向が続き、米国長期国債利回りが上昇し、コモディティ価格が上昇しています。
特に金価格については、地政学リスクの高まりを受け、記録的な上昇局面となっています。背景には、地政学・金融の不確実性が高まる局面での「価値保存(ストア・オブ・バリュー)」需要や、ETF(上場投資信託)および現物需要の積み上がりがあると指摘されています[3]。
株は強いのに暗号資産は調整…「温度差」が生まれるメカニズム
このように金融市場は比較的堅調な動きとなっていますが、暗号資産市場は昨年秋の高値以降の調整局面が続いている状況です。
「同じリスク資産なのに、なぜ株は強く、暗号資産(特にビットコイン(BTC)やアルトコイン)は重いのか?」という温度差は、単なる「人気の差」ではなく、 ①金利・実質金利、②流動性、③需給(ETF・先物・レバレッジ)、④規制見通し が同時に作用して説明できます。
① 金利・実質金利:株は「利益成長」で吸収しやすく、ビットコインは「割引率」に敏感
FRBは政策金利を据え置き、「インフレはやや高い」と評価しています[1]。この局面では、マーケットの関心は「次の利下げがいつか」だけでなく、 実質金利(名目金利−期待インフレ)がどの水準で推移するか に移ります。一般に、実質金利が高止まりすると、将来キャッシュフローを持つ株式は「企業利益の上振れ」で相殺しやすい一方、利息を生まない資産(例:ビットコイン)は相対的に逆風になりやすい、と整理できます。
今回、パウエル議長はPCE・コアPCEの水準を示しつつ、財インフレ(関税の影響を受けやすい領域)が押し上げていると説明しました[2]。つまり、インフレが「景気過熱で再燃」というより「政策・コスト要因で粘る」形になり得るため、市場が「早い利下げ」にベットしづらい空気感があります。この空気感が、暗号資産には重くなりやすい構図です。
② 流動性:暗号資産は「ドル流動性」への依存度が高い
暗号資産は、株式以上に「ドル流動性(USD Liquidity)」の影響を受けやすい市場構造があります。現物だけでなく、永続先物・レバレッジ取引・裁定取引が価格形成に占める比率が大きいため、 資金調達コストが上がるとポジションが縮みやすい のが特徴です。
さらに、暗号資産の取引・決済の「血液」とも言えるステーブルコイン(USDT/USDCなど)は、規制・準備資産・発行体の運用方針によって供給の伸びが変化します。FRBも、ステーブルコイン需要が銀行預金や金融仲介に与える影響(預金からステーブルコインへのシフトなど)を分析しており、マクロ環境次第で金融システムとの接点が強まる点を示しています[6]。この「ステーブルコイン=オンチェーンのドル流動性」という観点は、暗号資産の地合い判断において重要です。
③ 需給:ETF・先物・レバレッジの「巻き戻し」が調整を長引かせる
暗号資産が調整局面に入りやすい典型パターンは、高値圏で積み上がったレバレッジが、価格下落で強制的に解消されることです。株式市場は信用取引やオプションの影響はあるものの、指数の構造上、個別銘柄の好決算が「下支え」になりやすい一方で、暗号資産は指数のような分散構造が薄い投資家も多く、BTC・主要アルトに資金が集中しやすいため、ポジション解消の衝撃がダイレクトに出ます。
また、ビットコイン現物ETFなどの「機関投資家の導線」が確立したことで、資金が入りやすくなった半面、リスクオフ局面では同じ導線から資金が出ていく(リデンプションなど)ため、短期的にボラティリティが増幅しやすい側面もあります。株式の「買い場」が明確になりやすい局面でも、暗号資産は需給要因で下げが深くなることがあり、温度差を生みます。
④ 規制の不確実性:議会審議が「上値の想像力」を抑える
現在、上院で審議されている暗号資産関連法案があり、この結果によって動き始めるのか、あるいは動き始めるまでに時間がかかるのか、審議の結果が注目されています。
たとえば米国では、ステーブルコインの枠組みを整える法案(GENIUS Actなど)や、暗号資産の市場構造(SEC(米証券取引委員会)とCFTC(米商品先物取引委員会)の役割分担、トークン分類、取引所・DeFiの扱いなど)を定める包括法案(報道上「Clarity Act」などと呼ばれる案)をめぐり、調整が続いています[4][5][7]。市場参加者から見ると、ルールが固まれば機関投資家の参入障壁が下がり「追い風」になり得る一方、審議が長引けば「いつ追い風が来るか」が読めず、上値を買いにくくなります。この期待と不確実性の綱引きが、暗号資産側の重さとして現れやすいのです。
加えて、規制当局側も「議会での包括法が遅れるなら、規制・監督の運用で先に道筋を作る」という姿勢を示し始めていますが、具体像が固まるまでは、市場が強気に傾くまでに時間がかかりがちです[5]。
⑤ ビットコインへの影響:FOMC後に市場が見る「3つの指標」
ビットコインの反応を読むうえで、FOMC後は次の3点が特に注目されます。
- 米長期金利・実質金利:上昇が続くと、BTCの上値が重くなりやすい(資金調達コスト・機会費用の観点)。
- ドル指数やドル需給:ドル安が進むとBTCに追い風になり得る一方、リスク回避が強い局面では「ドル現金回帰」が勝つこともあります。
- オンチェーンのドル流動性(ステーブルコイン供給・循環):供給が伸びる局面は暗号資産全体の地合い改善と一致しやすい傾向があります。
今回の会見では、政策は会合ごとに判断し「事前に決めた道筋ではない」と繰り返し述べられました[2]。このメッセージは、暗号資産にとっては「利下げ期待一本足で上がる相場」になりにくいことを意味します。逆に言えば、次の材料は インフレ鈍化の継続(特にサービス) と 労働市場が「悪化しすぎない形で」落ち着くこと 、そして 規制の見通しが前に進むこと です。
今後の注目点:株・暗号資産の「温度差」は縮まるのか
トランプ大統領2期目に入り、中間選挙を11月に控える中、金融市場ならびに暗号資産市場がどのように展開するのか、注目していきたいと思います。
短期的には、株は「決算」と「AI投資・生産性」などの企業側材料が支えになります。一方で暗号資産は、
- 金利(特に実質金利)とドル流動性
- ETF・先物を通じた需給の揺れ
- 上院での法案審議(市場構造・ステーブルコイン)と当局の運用
が絡み合い、「材料待ちの調整」になりやすい状況です。とはいえ、ルール整備が進めば機関投資家の参入が進み、BTCを軸に市場の裾野が広がる可能性があります。今は「株が先に走り、暗号資産は追いつくかを見極める」フェーズです。この視点で、マクロと政策、そして暗号資産固有の需給を同時に観察することが重要です。
参考文献
- 米連邦準備制度理事会(FRB)「FOMC声明」(2026年1月28日)
- FRB「パウエル議長 記者会見トランスクリプト」(2026年1月28日、暫定)
- 金市場の上昇と需給(World Gold Councilコメントなどを含む報道)
- 米議会:ステーブルコイン法案(GENIUS Act)
- 米国の暗号資産規制・市場構造(Clarity Actなど)をめぐる報道
- FRB研究:ステーブルコインと銀行預金・金融仲介への影響
- 米上院の暗号資産市場構造法案ドラフトに関する報道