ステーブルコインが握る仮想通貨市場の未来
良くも悪くも話題の尽きないトランプ大統領とイーロン・マスク氏。そんな両者の関係に亀裂が生じたのは、トランプ大統領が推し進めた大型財政改革法案に対し、マスク氏が自身のX(旧Twitter)で「この法案は財政赤字をさらに悪化させるだけの無駄遣いに過ぎない」と批判したことが発端だった。
トランプ氏もすぐさま反論。「私がEV義務化を撤廃したことに腹を立てているだけだ」と挑発的なコメントを投稿。SNS上での応酬が続くなか、マーケットも敏感に反応し、テスラ株とトランプメディア株の双方が10%以上下落するなど波紋を広げた。
一方で、ビットコイン(BTC)は一時的に高値を目指す動きをみせたものの、足元では反落基調となっている。2025年6月9日には一時112,000ドルに迫るも、複数のマクロ要因から上値を抑えられる展開となった。こうした市場のもどかしさのなかで、今「ステーブルコインとは何か?」という基本に立ち返りつつ、その役割と存在感が改めて注目されている。

ステーブルコインとは
価格を安定させる仕組みとその意味
ステーブルコインは、価格の安定性を最優先に設計された仮想通貨(暗号資産)である。
ビットコインやイーサリアム(ETH)のような主要通貨は、短期間で数十%もの価格変動を起こすが、ステーブルコインは米ドル・ユーロ・日本円といった法定通貨と価値を連動させることで、その変動リスクを根本的に抑制している。
法定通貨と連動するステーブルコインは、たとえば米ドルに価値を裏付けるのであれば「ほぼ1ドル」で価格が維持されていることを前提に管理されている。そのため、価格の安定こそがステーブルコイン最大の本質であるといえる。
この特性により、ステーブルコインは仮想通貨市場における“デジタルキャッシュ”としての役割をすでに確立した。ユーザーは資産を一時的に避難させる手段として、あるいは迅速で低コストな送金・決済手段としてステーブルコインを選択している。
ステーブルコインの市場規模はすでに2,400億ドルを突破しており、そのほとんどを「USDT(テザー)」と「USDC(USDコイン)」の2銘柄が占めている。
両者とも、米ドル建ての現金や国債などの裏付け資産を実際に保有し、分別管理することで1ドル相当の価値を安定的に保証している。
なかでもUSDCは、発行元であるサークル(Circle)社が規制順守と透明性確保に注力しており、金融機関・大手法人からの信頼を獲得している。
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実用化が進むステーブルコインの役割
ステーブルコインの用途は年々拡大しており、仮想通貨取引所での取引ペアとしての採用や決済通貨としての利用だけでなく、DeFi(分散型金融)における貸出しや流動性提供、国際送金、クロスボーダー決済といった多様な領域で活用されている。実際、米ドルに連動するステーブルコインは、為替手数料のない国際送金をわずか数秒で完了させるなど、従来の金融インフラを凌駕する利便性を提供し始めている。
特に2025年に入ってからは、USDCを発行するサークルがXRPレジャー(XRPL)やWorld Chain(ワールドチェーン)への対応を発表するなど、ブロックチェーン間の垣根を越えた相互運用性の動きが加速。さらに、大手銀行のステーブルコイン領域参入や、フランスの銀行によるドル連動型の新発行など、中央集権・分散の両面から金融の再定義が進んでいる。
今やステーブルコインは、単なる「価格が安定した仮想通貨」という枠・認識を超え、デジタル時代の共通通貨として、国際経済・金融の根幹にもかかわわる存在へと進化しつつあるのだ。
XRPレジャー(XRPL)とは
XRPレジャー(XRPL)とは、国際送金などの実用性を重視して設計された高速・低コストなブロックチェーン。
ビットコインなどとは違い、取引は数秒で完了し、送金手数料も非常に安価。電力消費も少なく、環境負荷が低いのが特徴だ。リップル社が開発にかかわっているが、XRPレジャー(XRPL)自体はオープンソースで誰でも利用可能となっている。
近年では、米ドルに連動したステーブルコイン「USDC」が対応チェーンに加わるなど、決済・送金・資産管理のインフラとして注目されており、金融業界でも導入が進んでいる。
World Chain(ワールドチェーン)とは
World Chain(ワールドチェーン)とは、AI企業「OpenAI」の創業者サム・アルトマン氏がかかわる、実名・本人認証にもとづいたあたらしいブロックチェーンだ。
このチェーンは、同氏が推進するWorld(旧Worldcoin)プロジェクトの中核を成すもので、特に「人間であること」を証明する仕組み(Proof of Personhood)を土台としている。専用の生体認証デバイス「Orb」で虹彩スキャンを行い、一人ひとりの個人性を保証するユニークな設計が特徴としてあげられる。
2025年時点では、USDCなどのステーブルコインにも対応しており、ブロックチェーン上での本人確認、個人識別型報酬制度、デジタルID管理など、Web3.0とAIの融合的なユースケースが期待されている。
今後は、詐欺対策やボット排除、グローバルな経済参加の基盤インフラとして、ビジネス界でも注目が高まっている。
USDCのXRPレジャー(XRPL)対応と拡がる相互運用性
ブロックチェーンの相互運用性向上とは、たとえばユーザーが「どのブロックチェーンを使っているか」を意識せず、1つのウォレットやアプリから複数チェーンを横断的に操作できるようになることや、異なる銀行間でもスムーズに振込ができるような感覚で、異なるチェーン間で送金が可能になることなどを指す。
2025年6月12日、サークルはUSDCがXRPレジャー(XRPL)上で利用可能となったことを発表。これによりUSDCの対応チェーンは22種類に拡大し、ブロックチェーンをまたいだ相互運用性がさらに進展している。
さらに、OpenAIのサム・アルトマン氏が主導するWorldの専用チェーン「World Chain」にもUSDCが対応するなど、その汎用性は急速に高まっている。

規制と透明性への期待高まる
上述したように、ステーブルコインは単に価格安定を実現する仕組みにとどまらず、規制当局からの注目も集めている存在である。サークルも上場企業として、今後より一層の透明性と財務報告の充実が求められることになるだろう。
実際、米国ではJPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、シティグループなどの大手銀行が、共同でステーブルコインの発行を検討しており、個人間送金サービス「Zelle(ゼル)」との連携も協議されているという。
ヨーロッパ勢の動きも加速
フランスのソシエテ・ジェネラルは、ドルに連動した「USD CoinVertible」を発行。イーサリアムとソラナ(SOL)上で展開され、米BNY Mellon銀行が裏付け資産を管理する。フランス銀行によるドル連動型ステーブルコインの発行は今回が初。
国際送金や貿易決済の効率化を狙ったもので、銀行業界がこの分野に本格参入しつつあることを示している。
ビットコイン市場への波及効果
ステーブルコインは、ビットコイン市場との接続性を高める上でも重要な役割をはたしている。現在、BTC/USDTやBTC/USDCといったペアが世界最大の取引ボリュームを持ち、取引のスピードとコスト面でも利便性が高まっている。
また、インフレや地政学的リスクが高まる局面では、ステーブルコインを経由してビットコインへ資金が流れる「資産避難ルート」としての活用も進んでいる。
未来展望:預金代替と金融構造の変化
将来的には、ステーブルコインが銀行預金に代わる資金保管手段として普及する可能性もある。常時、仮想通貨エコシステム内に資金が滞留することにより、ビットコイン価格の急騰時にはその流動性源となるだろう。
同時に、銀行発行型ステーブルコインの普及が進めば、ビットコインの役割や立ち位置が再定義される可能性もある。金融業界との接続性が強まることで、仮想通貨市場全体があらたな段階へと進むことが予想される。
ステーブルコインとは何か、そしてそれがもたらす市場変革とは何か。単なる「価格安定」の手段ではなく、仮想通貨エコシステムを支えるインフラとしてのステーブルコイン。その真価が問われる時代が、今始まろうとしている。