年初から揺れる地政学リスク

2026年を迎え、恒例となっている米国調査会社ユーラシア・グループ(Eurasia Group)の「世界10大リスク」が発表されました。今回は1位に「米国の政治革命(トランプ革命)」、3位に「トランプ版モンロー主義」、6位に「米国式国家資本主義」と、上位10位までにトランプ政権を焦点とするテーマが3つ入りました。

このランキングを裏付けるかのように、年明け早々からトランプ大統領が国際的な話題を提供しています。各国は揺さぶられ、金融市場も平静を保ちながら、今後の展開に備えて動き始めているようです。

ユーラシア・グループ「世界10大リスク」

ユーラシア・グループの年次レポートは、「今年どこに不確実性の震源があるか」を俯瞰する参照材料として、投資家にも用いられます。重要なのは、単発の事件そのものよりも、政策・同盟・通商・安全保障の“構造”がどの方向へ動くかです。構造変化はリスクプレミアム(要求収益率)に影響し、株式のバリュエーション、為替のトレンド、資源価格、そして暗号資産を含むリスク資産の需給に波及します。

ユーラシア・グループが予測する10大リスク
順位 リスク
1 米国の政治革命
2 「電気国家」中国
3 トランプ版モンロー主義
4 包囲される報酬
5 ロシアの第2の戦線
6 米国式国家資本主義
7 中国のデフレ
8 ユーザーを食い尽くすAI(人工知能)
9 USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)のゾンビ化
10 水の武器化

出典:日本経済新聞

「米国の政治革命」が1位に置かれたことは、米国内政の変化が外交・通商・金融秩序へ直結しやすい局面に入ったことを示唆します。さらに「トランプ版モンロー主義(Donroe Doctrine)」が上位にある点は、世界への関与を絞る一方で“西半球(南北アメリカ)への影響力は強める”という非対称な戦略が、市場の前提(グローバル化、同盟、資本移動の自由)を揺らし得ることを意味します。

トランプ政権の急展開:地政学が市場に織り込まれるプロセス

1月3日:ベネズエラへの軍事行動と「西半球回帰」

1月3日には反米左派政権が率いるベネズエラに対して米国が攻撃を行い、マドゥロ大統領を妻とともに拘束し、米国へ移送しました。ベネズエラ政府は、トランプ政権の真の目的がベネズエラの原油や鉱物の利権を奪うことにあると非難しています。

確かに米国の目的の1つは、こうした利権にあるのかもしれません。ただ、昨年12月にまとめられた米国の国家安全保障戦略(NSS)では、西半球(南北アメリカ)での米国の覇権確立を目指す方針が示されており、今回の動きはその中核に位置づけられます。

この種のイベントは、(1)エネルギー供給不安による資源価格の変動、(2)制裁・通商措置の連鎖によるインフレ/成長見通しの再評価、(3)安全資産志向の高まり、という経路で市場に波及します。短期的には「リスクオフ(株売り・安全資産買い)」が定番ですが、同時に米国株が底堅い局面では、“地政学ヘッジだけを積み増す”動き(例:金・貴金属、短期国債、為替ヘッジ)が選好されやすくなります。

1月7日:66の国際機関からの脱退指示(覚書)

さらに7日、トランプ大統領は、66の国際機関から米国が脱退するよう指示する覚書に署名しました。その中には国連気候変動枠組み条約や国連人口基金など、国連に関連する組織が31含まれているとされます。

ルビオ国務長官は「国民の利益を犠牲にし、外国の利益のために数十億ドルもの税金をつぎ込む時代は終わった」と説明しました。国務省はすべての国際機関との関係見直しを進めており、今後さらに対象が増える可能性があります。

トランプ氏が脱退指示した主な機関
  • 国連国際法委員会
  • 国際貿易センター
  • 平和構築委員会
  • 国際貿易開発会議(UNCTAD)
  • 国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)
  • 国連大学
  • 欧州ハイブリッド脅威対策センター
  • 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
  • 国際熱帯木材機関
  • 大西洋協力パートナーシップ

出典:日本経済新聞

「ドンロー主義」:モンロー主義への回帰を超える含意

第2次トランプ政権の国家安全保障戦略(NSS)は「米国が世界秩序を支えてきた時代は終焉した」と記しました。世界に介入せず、南北アメリカの縄張りを守るという19世紀の「モンロー主義」への回帰を打ち出しています。

トランプ大統領は、米軍がベネズエラのマドゥロ政権を倒した後に開いた記者会見で、「モンロー主義は有名だが、我々はそれを大きく、実に大きく超越した。今や『ドンロー主義』と呼ばれている」とコメントしています。

この言葉が象徴するのは、単なる「不介入」ではなく、“世界の警察”を降りても“自国の勢力圏”では強く出るというメッセージです。市場の視点では、サプライチェーンの再編、制裁の再適用、通商摩擦の再燃といった二次波及が、時間差で効いてくる点に注意が必要です。

金融市場の反応:株の高値更新と貴金属高

地政学は市場の盲点で、不確実性を資産価格に織り込む必要がある。集中した株式投資を、分散が進む世界でどう配分するかを投資家が考え直す「呼吸の期間」だ。

新年早々で、まだリスク資産市場は方向感を見いだせずにいますが、それでも米国株式市場は最高値を一時更新する動きを見せ、金価格が4,500ドル台、銀価格が80ドル台に一時乗せるなど、貴金属が上昇する動きを見せています。

貴金属市場は昨年にかけて高騰してきましたが、それは地政学や財政の問題を背景に、ドルで資産を保管していた投資家たちが、ドルを手放し、通貨の代替となり得る貴金属を買い始めたためです。

最初は、アメリカと距離を置こうとした中東諸国やBRICS諸国の中央銀行が(外貨準備の組み換えとして)金を買っていたことから始まり、それで金だけが上がっていたというのが昨年半ばまでの状況でした。しかし、トランプ政権が米国の財政問題を金融緩和で解決するという見方が強まると、ドルへの懸念はより広く一般の投資家にも広まったようです。

一般に、金(ゴールド)は「信用リスクを持たない実物資産」として、地政学不安・通貨価値の毀損・実質金利低下の局面で買われやすい性質があります。銀(シルバー)は貴金属としての側面に加え工業需要もあり、景気・政策期待でボラティリティが増幅しやすい点が特徴です。金銀の上昇は、単なる“リスクオフ”ではなく、通貨体制への疑念政策の不確実性を映す鏡になり得ます。

ビットコイン(BTC)と暗号資産への示唆:デジタル・ゴールドは次の受け皿か

このような環境を前に、「デジタル・ゴールド」と言われるビットコイン(BTC)への注目は高まりやすいでしょう。2026年の暗号資産は、トランプ政権による政策的な支援をベースに、環境面も追い風となって上昇していくと考えています。

ただし、BTCは金と同じ値動きを常にするわけではありません。現代の市場では、BTCは「価値保存(ストア・オブ・バリュー)」の物語を持ちつつも、短期的には流動性(金融環境)レバレッジの縮小/拡大に左右されやすい“リスク資産的”な顔も持ちます。したがって、地政学ショックが起きた直後は、金が買われ、BTCが売られる局面もあり得ます。一方で、ショック後に金融環境が緩和へ傾いたり、ドルの信認不安が長引いたりする局面では、BTCが遅れて追随しやすい、という見方も成り立ちます。

追い風になり得るポイント

  • 政策面:規制の明確化(「何が合法で、どのルールに従うか」)が進むほど、機関投資家は参入しやすくなります。
  • 需給面:現物ETF等の伝統金融の器が拡大すると、長期資金が入りやすくなり、下値の“厚み”が増す可能性があります。
  • 通貨・決済面:ドル離れが進むほど、ステーブルコインや暗号資産インフラへの需要(国際送金・ヘッジ・資金移動)が増え得ます。

注意すべきポイント(下振れリスク)

  • 規制・地政学:制裁・資本規制・取引所への圧力が強まると、流動性が瞬間的に縮みボラティリティが上がります。
  • 金融環境:急激なリスクオフや信用不安では、まず現金化が優先され、BTCも売られやすい局面があります。
  • 市場構造:デリバティブの建玉や清算連鎖により、短期的な下落が加速するケースがあるため、ポジション管理が重要です。

混沌の中で方向感を失わないために

こうしたトランプ大統領による急展開に各国は揺さぶられています。そして金融市場も平静を保ちながら、今後の展開に備えて動き始めているようです。

2026年は米国の金融政策がFRB議長の交代により一段と緩和され、金利低下が見込まれており、ただでさえドル離れになりそうな環境です。そこへトランプ政権によるドンロー主義に始まり、中国とロシアによる地政学リスクが高まる可能性があります。貴金属、特に金への指向は、より一段と強まると考えられます。

そして、その延長線上でビットコイン(BTC)を始めとする暗号資産にも、資金の受け皿としての期待が集まり得ます。重要なのは「上がる/下がる」を断言することではなく、どのシナリオで、どの資産が、どんな順番で買われやすいかを想定し、分散とリスク管理を設計することです。

  • 地政学ショック直後:安全資産(例:金・短期国債)への逃避が先行しやすい
  • 政策対応が緩和方向:リスク資産回帰とともにBTCが買われやすい局面が出やすい
  • ドル不安が長期化:金・一部コモディティ・BTCの“代替通貨”需要が強まる可能性

投資家のみなさんには、混沌とする国際情勢の中で方向感を見失わないよう、しっかり判断していただきたいと思います。

《参考サイト》

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