銀価格が動き始めた背景

銀価格が動き始めています。特に12月2日と3日と続けて1オンス=59ドルに迫る高値をつけました。今も58ドル台で落ち着いた動きをみせています。

銀価格は、貴金属としてインフレが発生すると金価格に追随するように上昇する傾向があります。一般に、物価上昇や通貨の価値が低下する局面では「価値の保存手段」として金や銀といった実物資産に資金が流れ込みやすくなります。

コロナ禍以降のインフレと金価格の動き

金価格はコロナ禍以降に発生したインフレにより2022年11月頃から上がり始めました。その頃の金価格は1オンス=1,600ドルほどでしたが、少しずつ上昇し、2,000ドル程度になった2024年2月頃から加速して、現在は1オンス=4,200ドルほどになっています。

この背景には、各国の大規模な金融緩和、財政出動、地政学リスクの高まりなどが重なり「安全資産」としての金への需要が世界的に高まってきたことがあります。特に機関投資家や富裕層、各国の中央銀行が外貨準備の一部を金に振り向けている点は、金相場を下支えする重要な要因です。

金と銀の価格推移と倍率の変化

一方の銀価格は、やはり2022年11月頃から動きがありましたが、金とはまったく異なる動きとなっています。2023年は1オンス=20ドル〜25ドルでの推移、2024年は水準を若干上げましたが30ドルを挟んだ27ドル〜33ドルでの推移でした。2025年6月になりしばらく銀価格にも躍動感がみられ、本格的な上昇が始まっています。

このように、金が先に大きく上昇し、その後に銀が遅れて動き出すというパターンは、過去の相場でもしばしばみられる現象です。市場規模が比較的大きく流動性の高い金に先に資金が入り、その後「出遅れ銘柄」として銀などほかの貴金属に資金が波及していくイメージです。

金銀の価格比較表

価格が動き始めた3年前から金と銀の価格を比較してみると、以下のようになります。

金銀の価格比較表(単位:ドル)
年/月 銀価格 金価格 倍率(金価格/銀価格)
2022/11 20 1,600 80倍
2025/06 33 3,300 100倍
2025/12 約60 4,200 70倍

表をみればわかりますが、2022年11月の時は倍率が80倍でした。それが2025年6月には100倍になっていました。金価格が早く上昇を始めて銀価格が出遅れたことがわかります。

ただ直近の2025年12月では70倍になっており、銀価格が上昇を始めて格差が縮小したのがわかります。こうした「倍率の縮小」は、銀が金に追いつこうとする局面でよくみられるパターンであり、いわゆる「銀バブルシナリオ」を考える上で重要な視点になります。

金・銀上昇のドライバー:インフレとドル離れ

ところで金や銀の価格はどこまで上昇するのでしょうか。今回の上昇は、コロナ禍による物価上昇のインフレが起因していますが、それだけではなく、今は世界の基軸通貨である米ドルからの逃避が始まっていると考えられています。

特に各国の中央銀行が外貨準備として米ドルから金へシフトする動きをみせており、この動きは長期にわたり続くと思われます。そのため、金価格の上昇がいつまで続くのか、またどこまで上がるのかはまったくわかりません。

ドル建ての資産から金・銀といった実物資産へのシフトは、地政学リスクの高まりや制裁リスクの顕在化なども背景にあります。ドルに依存しすぎることが、政治的・経済的なリスクと認識され始めているためです。

今後の展開に向けては、かつての金銀が上昇した時を確認して検討してみます。

1970年代インフレ期の金銀相場

金価格が大きく上昇したのは、1970年代のインフレ時代です。金価格の動きとしては、1オンス=35ドル程度から875ドルへ上昇しました。ちょうど25倍になった形です。

銀価格は1オンス=1.8ドルでしたが、その後の上昇で48ドルの高値をつけています。こちらは約27倍になりました。価格そのものは異なりますが、同じような値上がりを示しています。

この時の金銀の倍率は18倍で、価格上昇時の倍率は15〜18倍と考えられています。また、この時期のインフレによる諸物価の上昇はせいぜい2倍までですから、貴金属の動きがいかに大きかったかがわかります。

今回の上昇は、インフレばかりでなく中央銀行による金購入などもあり、かなりしっかりとした値動きになると考えられます。もし今後も各国の金保有量が増加し続けるなら、金価格は長期的な上昇トレンドを維持し、それに連れて銀も大きく動く可能性があります。

銀バブルシナリオと今後の価格イメージ

銀価格のこれまでの高値は50ドル手前でした。今回はすでにその高値を超えてしまいましたので、金価格の動きにさや寄せする形を取りながら、金銀両者で上値を取りにいくと考えられます。

現在、大手金融機関による来年の価格予測では金価格について1オンス=5,000ドルが提示されています。これに15〜18倍をもとにして15倍で計算すると、銀価格は1オンス=333ドルになります。

今が59ドルほどですから、これから約5.6倍を目指せることになりそうです。これはあくまで「シナリオ」であり、必ずしもそうなると断定できるものではありませんが、過去の倍率や今回のマクロ環境を踏まえた1つの目安として意識されやすい水準です。

また、銀は金に比べて市場規模が小さく、工業用途(太陽光パネル、電子部品、電気自動車、5G関連など)も多いため、需給がタイトになると価格が急騰しやすい特徴があります。その意味で「金融要因(インフレ・ドル離れ)」と「実需(産業需要)」の両面から押し上げ圧力を受ける可能性があり、バブル的な上昇となるリスクとチャンスの両方を内包しています。

米国の金融緩和と資産バブルの可能性

今後、米国の金融緩和が本格化すると、貴金属や株式などの資産バブルが起きる可能性もあり、世界的な大きなうねりになりそうです。その時に金及び銀の価格が実際にどのようになるのか、大変興味のあるところです。

金融緩和は、一般に金利低下と通貨価値の希薄化を通じて、リスク資産だけでなく金・銀などの実物資産にもマネーを押し上げる効果があります。加えて、インフレ懸念が根強く残る局面では「紙の資産」よりも「モノ」に資金が流れやすくなるため、金銀相場には追い風となりやすいでしょう。

もっとも、こうした急激な上昇局面では、調整局面もまた急激になりがちです。価格が熱くなりすぎた時には、ニュース1つで短期的な急落が起こることも少なくありません。そのため、仮に銀バブルシナリオが進行したとしても、価格変動リスクを十分に踏まえた上で冷静な判断が求められます。

金銀相場とビットコイン・暗号資産市場の関係

近年、金や銀と並んで注目されているのがビットコインを始めとする暗号資産です。ビットコインはしばしば「デジタルゴールド」とも呼ばれ、発行枚数が2,100万枚に限定されていることから、インフレヘッジや価値保存手段としての期待が高まってきました。

学術研究や市場レポートでは「金とビットコインはどちらが優れた安全資産か」「本当にビットコインはデジタルゴールドなのか」といったテーマで分析が進んでいます。多くの研究では、金が依然として伝統的な安全資産として優位である一方、ビットコインはボラティリティが高く、株式市場などリスク資産と似た動きをする局面も少なくないと指摘されています。

他方で、地政学リスクが高まった局面などでは、金とビットコインの価格が同じ方向に動き、相関が高まる局面も観測されています。そのため、最近では「金・銀・ビットコインを組み合わせることで、インフレや通貨不安に対する分散効果を高める」というポートフォリオ戦略も議論されています。

銀バブルシナリオとビットコインへの波及

もし本格的な銀バブルシナリオが進行し、金価格が5,000ドル、銀価格が300ドル超といった水準を目指すような相場展開になれば、その背後には「通貨価値の信認低下」や「インフレヘッジ需要の急拡大」があると考えられます。そのようなマクロ環境では、ビットコインやそのほかの暗号資産にも資金が流入しやすくなります。

特にビットコインは、ETF上場や機関投資家の参入、カストディ環境の整備などにより、以前よりも「金融商品」として扱いやすくなりつつあります。その結果「金・銀と同じく、インフレ・通貨不安ヘッジの一つ」として資金配分の対象に含める動きが拡大しており、金や銀の上昇局面と歩調をあわせて、ビットコインが買われるパターンもみられます。

もっとも、ビットコインは金・銀に比べて価格変動がはるかに大きく、政策動向や規制ニュース、取引所の問題などによって短期間で大きく値を崩すリスクもあります。そのため、金・銀とビットコインを同列に「安全資産」とみなすのではなく、「金・銀は比較的安定した伝統的な価値保存手段」「ビットコインは高リスクだが高リターンも期待しうる新興のデジタル資産」と位置づけをわけて考える方が現実的でしょう。

銀バブルシナリオを前提にポートフォリオを組む場合でも、金・銀・ビットコインなどの比率をどう配分するかは、リスク許容度や投資期間、運用目的によって大きく異なります。いずれにせよ、特定のシナリオに過度に依存するのではなく、複数の可能性を想定しながら、段階的な投資や分散を意識することが重要です。

まとめ:銀バブルシナリオと資産防衛

今回みてきたように、金銀の倍率は80倍→100倍→70倍と推移し、金が先行して上昇した後に銀が追いかける形で価格を切り上げつつあります。歴史的な1970年代インフレ期の値動きや、各国中央銀行によるドル離れの動きなどを踏まえると、銀バブルシナリオが現実味を帯びてきていると考えることもできます。

一方で、ビットコインを始めとする暗号資産市場も「デジタルゴールド」というコンセプトのもとで、金・銀相場と重なるテーマ(インフレヘッジ、通貨不安、資産防衛)によって動かされる局面が増えています。金・銀・ビットコインの三者が、今後の大きなマクロトレンドのなかでどのような役割を担い、どのような価格軌道を描くのかは、投資家にとって非常に興味深いテーマといえるでしょう。

なお、本稿で述べた価格水準やシナリオは、あくまで過去データや現在のマクロ環境をもとにした1つの考え方であり、将来の価格を保証するものではありません。実際の投資判断にあたっては、ご自身のリスク許容度や運用目的を踏まえ、必要に応じて専門家の助言を受けながら慎重に検討することをおすすめします。