FOMC議事要旨で読み解く12月利下げの行方──据え置き濃厚か?
2025.11.21
FOMC議事要旨から読み解く12月会合の焦点
議事要旨公表と市場の関心
11月19日、先月に2会合連続での利下げを決定したFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録が公表されました。年内最後に行われる12月のFOMC会合で「利下げが行われるか」について注目が集まりました。
10月利下げ決定と参加者のスタンス
議事録では、10月の利下げ決定の議事内容について「多くの参加者が賛成した。数人が反対した」とあり、反対はトランプ大統領に指名されて理事となったミラン理事とカンザスシティ連銀のシュミッド総裁で、ミラン理事は0.5%の利下げを支持し、シュミッド総裁は政策の据え置きを支持したものでした。
12月の追加利下げに関して、この時の記者会見でパウエルFRB議長は「12月会合での追加利下げは既定路線ではない。そう呼ぶ状況からは程遠い」と述べ、この時点で90%まで高まっていた12月の追加利下げ見通しを抑制していました。
12月追加利下げに関して実際の議論の内容としては、「大多数が否定的な考えで、数人が利下げに慎重、ほかの参加者は経済指標等のデータ次第で判断」でした。そうしたなかでミラン理事は「0.5%の利下げ」を主張していました。
物価と雇用、政策判断の分かれ目
このように意見がわかれたのは、「物価については家賃を除くサービス価格の値上がりが根強く、今後は企業が関税の引き上げ分を消費者に転嫁する動きも続く公算が大きい。物価の上ぶれをより強く警戒すべきである」という考えと、「AI関連投資など生産性を向上させる技術が構造的に労働需要の鈍化に寄与している可能性があり、労働需要のさらなる減退が失業率を急激に押し上げる可能性がある。引き締めによる雇用情勢の悪化の方が心配である」とする考えがあり、金融当局が最も重視する政策である「物価と雇用」のどちらを優先するかの立ち位置の違いが出てきたものだったからです。
この背景には、インフレ率が目標の2%付近に戻りつつあるのか、それともサービス価格や関税転嫁を通じて再加速するのかという不確実性と、AIを含む技術革新が労働市場の構造を変えつつあるのではないかという問題意識があります。物価安定と雇用最大化という2つの使命の間で、どこまでリスクを取るかがFRB内で改めて問われている局面だといえます。
12月会合に向けた参加者別の見通し
12月会合での追加利下げについてはこのような議事の内容でしたが、FOMC参加者の12月会合での予想は、次のようになっています。
- パウエルFRB議長
- ボウマン米連邦準備制度理事会(FRB)副議長:0.25%利下げ
- ジェファーソンFRB副議長:指標次第
- ウィリアムズ米NY連銀総裁:指標次第
- バーFRB理事
- コリンズ米ボストン連銀総裁:据え置き
- クック理事
- グールズビー米シカゴ連銀総裁:指標次第
- ミランFRB理事:0.5%利下げ
- ムサレム米セントルイス連銀総裁:据え置き
- シュミッド米カンザスシティ連銀総裁:据え置き
- ウォーラーFRB理事:0.25%利下げ
指標次第:3名、据え置き:3名、0.25%利下げ:2名、0.5%利下げ:1名、不明:3名。このように大きくわかれている状況です。
全体としては「据え置き」または「データ次第」が多数派であり、あらかじめ決め打ちで利下げを続けていくというよりも、あくまで今後の経済・物価データを見ながら慎重に歩を進める姿勢がうかがえます。
経済指標の遅延と市場の織り込み
雇用統計の延期と政策判断の難しさ
12月の会合に向けて注目される経済指標で20日発表予定だった雇用統計(10月分)は、データが揃わず延期となりました。10月分の発表は11月分と一緒に12月16日に発表されるとのことで、12月9〜10日に開催されるFOMC会合には間に合わなくなりました。
前回会合後にパウエルFRB議長は「FOMCの一部では、一旦立ち止まり労働市場に本当に下振れリスクがあるのか、また現在目にしている成長加速が本物なのかを見極める時期に来ているとの見方がある」と述べており、さらに政府機関閉鎖に伴う経済データの欠如が、当局者の慎重姿勢を強めている可能性があるとし、「霧のなかを運転している時はスピードを落とすものだ」と述べています。
十分なデータがないなかでの政策変更は、誤った判断を招くリスクが高まります。特に雇用統計は、金融政策の判断において最も重視される指標の1つであり、それが欠けた状態で追加利下げか据え置きかを決めるのは、FRBにとっても非常に難しい舵取りとなります。
金利先物市場が示す「据え置き」シナリオ
19日の米国金利先物市場では、この議事要旨の公表を受け、12月会合での政策金利据え置きの観測が5割から7割に上昇しました。金融市場では、12月FOMC会合に向けて重要なデータが揃わない場合、参加者の大半は慎重な姿勢となる可能性が高く「政策金利は据え置かれる」と考えているようです。
雇用に関する最も重要なデータが揃わないなかでの政策金利の変更は、かなり難しくなると考えられます。それ以外のインフレに関連する物価や米国景気に関するよほどの内容のデータが出てこない限り、12月会合では政策金利の変更はなく、据え置きとなる可能性が極めて高くなったと考えられます。
つまり、市場は「よほど強いインフレ再燃」あるいは「急激な景気悪化」といった極端なシナリオが出ない限り、FRBはひとまず様子見を決め込むとの見方を強めており、その期待が金利先物価格にも織り込まれつつある状況です。
FOMCとビットコイン・暗号資産市場への影響
利下げ局面とビットコイン価格の関係
米国の政策金利は、株式や債券だけでなく、ビットコインを始めとする暗号資産(仮想通貨)市場にも大きな影響を与えてきました。2020年3月にFRBが政策金利を事実上ゼロまで引き下げ、大規模な量的緩和を再開した局面では、一時的な急落の後、数週間のうちにビットコイン価格が持ち直す動きが観測されています。
一般に、利下げや金融緩和は、市場全体の流動性を高め、投資家のリスク選好を強める方向に働きます。そのため、伝統的な株式市場と同様に、ビットコインなどのリスク資産にも資金が流入しやすくなるとする分析が多くみられます。
実際、歴史的にみても、超低金利と豊富な流動性の環境下で、暗号資産市場全体の時価総額が急拡大した局面があり、2020〜2021年のいわゆる「クリプト・ブル相場」は、その典型例とされています。
「データ次第」の金融政策と暗号資産のボラティリティ
一方で、ビットコインと金利の関係は単純ではなく、時期によって相関が変化することを示す研究もあります。米金融政策やパンデミックなどのショックによって、ビットコインと株式・債券との連動性やスピルオーバー(波及効果)が変わってきたと指摘されています。
今回のようにFOMC内部で利下げ継続か据え置きか見方が割れ、「指標次第」「データ・ディペンデント」というスタンスが強調される局面では、暗号資産市場もFOMC会合や雇用統計、CPI(消費者物価指数)などの重要経済指標の発表ごとにボラティリティ(価格変動)が高まりやすくなります。短期トレーダーがこれらイベントにあわせてポジションを積み上げたり、一気に解消したりするため、価格が上下どちらにも大きく振れやすいのが特徴です。
特に12月会合で利下げ見送り・据え置きとなった場合には、「利下げ期待で先行して買われていたビットコイン」が一時的に失望売りにさらされるシナリオも考えられます。一方で、その後の景気・物価動向次第では再び利下げ期待が高まり、「次の緩和局面」を先取りする形でビットコインが上昇に転じるケースも想定されます。
ポートフォリオ分散とリスク管理のポイント
中長期的には、ビットコインが株式や債券と完全には同じ動きをしないことから、ポートフォリオ分散の手段となり得るとする研究もあります。ただし、ストレス局面では連動性が高まり、一斉にリスクオフとなる懸念も指摘されており、金利動向とあわせて慎重なリスク管理が求められます。
投資家の立場からみると、今回のFOMC議事要旨は「急激な利下げ加速よりも、データをみながらの慎重な軟着陸志向」が鮮明になったとも読めます。これは、ビットコインにとっては短期的なボラティリティ要因である一方で、中長期的には「金融環境がいずれ再び緩和方向に向かう可能性」を意識させる材料でもあります。
したがって、暗号資産への投資を検討する際には、12月FOMC会合での決定そのものだけでなく、「その後の金利パス(利下げの速度や最終水準)」や「マクロ環境の持続性」を踏まえた上で、ポジションサイズやレバレッジをコントロールしていくことが重要だといえるでしょう。