ソフトバンクがNVIDIA株を全株売却!AI投資に向けた大胆戦略と市場の行方
2025.11.14
ソフトバンク・グループ決算とNVIDIA株全株売却の概要
11月11日にソフトバンク・グループの決算発表が行われました。後藤芳光CFOは投資家向け説明会で「投資家に多くの投資機会を提供しながら財務力を維持したい」とコメントし、決算説明を行いました。
ソフトバンク・グループの2026年度第2四半期決算(4〜9月期)は「売上高3,736,843百万円(+7.7%)、税引前利益3,686,382百万円(+152.3%)、中間利益2,924,066百万円(+190.9%)」と、中間利益が前年同期比2.9倍となりました。海外報道でも、売上高約3.7兆円・純利益約2.5〜3兆円規模と、市場予想を大きく上回るサプライズ決算として取り上げられています。
またこの席で、今後計画している約300億ドル(約4.6兆円)のAI投資のための資金調達について説明があり、NVIDIA(エヌビディア)株3,210万株を全株売却し、58億3,000万ドル(約9,000億円)を得たと発表しました。この売却は2025年10月に実行されたもので、ソフトバンクはNVIDIA株の保有をゼロにし、OpenAIへの出資や「Stargate」構想に代表される大規模AIデータセンター投資などに振り向ける方針を明確にしています。
孫正義氏はこれまでインターネット、モバイルとデジタル技術の転換期に大きな投資判断をしてきており、今回もAI分野に対する強い姿勢をみせています。特に数十億ドル規模のOpenAIへの出資や、米国を中心としたデータセンター投資構想など、「AIネイティブ企業」への変革を掲げる戦略が前面に出ています。一方で、アナリストからは「NVIDIAの驚異的な成長が鈍化するとみているのではないか」という見方もあります。
実際、海外メディアの一部では、ソフトバンクによる58億ドル規模のNVIDIA株売却が「AIバブルのピーク」を意識させる動きとして取り上げられています。同社がAI分野に攻めの姿勢を示す一方で、ポートフォリオの組み替えとリスク管理の一環として利益確定を行ったという見解もあります。
NVIDIA 2025年8〜10月期決算への期待と不安
市場予想と株価動向
こうした動きがあるなか、11月19日(水)米国東部時間16:20(日本時間20日06:20)にNVIDIAの2025年8〜10月期決算が発表されます。
Bloombergの予想では「総収入548.85億ドル(前年同期比+56.4%)」となっており、前四半期(5〜7月期)の+55.6%からやや加速する見通しです。直近決算(同社の2026年度第2四半期)では売上高466.7億ドル(+56%)、うちデータセンター売上が411億ドルを占めており、生成AI向けGPU需要が業績を大きく牽引しています。
アナリストによる目標株価の平均は232ドル程度とされています。11月12日の株価は193.80ドルで、10月29日に付けた最高値212.19ドルからやや下落しているものの、高値圏で推移しています。ただし勢いは鈍化しており、「好材料はすでに織り込まれているのではないか」という警戒感も強まっています。
成長鈍化懸念と競争・中国リスク
鈍化が意識されている背景として、AIブームへの期待が揺れ始めている点があげられます。OpenAIに半導体を提供する企業はNVIDIAだけではなく、Advanced Micro Devices(AMD:アドバンスド・マイクロ・デバイセズ)、Broadcom(ブロードコム)、Qualcomm(クアルコム)へと広がっています。NVIDIAはAI分野で圧倒的シェアを持ってきましたが、競合増加に伴う価格競争で成長が鈍化する可能性が指摘されています。
実際、データセンター向けAIチップ市場ではAMDのMIシリーズや各社の専用アクセラレータ、AWSのTrainiumやGoogleのTPUなどクラウド事業者の自社チップが台頭し、競争が激化しています。短期的にはNVIDIAが優位ですが、中長期では利益率の低下やシェア減少のリスクが意識されています。
さらに、米国による対中輸出規制の影響から、中国市場の収入が低迷しています。前四半期(5〜7月期)の中国向け売上は前年同期比24.5%減でした。ジェンスン・フアン(Jensen Huang)CEOは、中国での先端AI GPUシェアが「かつての90%超からほぼゼロになった」と述べており、同国がデータセンター売上の20〜25%を占めていたことを踏まえると、成長ドライバーの一部が削られた状態です。
11月19日の決算では、次期(2025年11月〜2026年1月期)の総収入見通しが焦点となります。Bloomberg予想は612億ドルとされていますが、これを上回るかどうかで市場のセンチメントは大きく揺れます。もしガイダンスが市場予想を下回れば、AI相場は調整局面に入り、NASDAQ全体やリスク資産に波及する可能性があります。
AIブームとビットコイン・暗号資産市場への波及
ハイテク株とビットコインの相関
NVIDIAを含むAI関連株の動きは、ビットコイン(BTC)を始めとする暗号資産(仮想通貨)市場とも無関係ではありません。かつてビットコインはゴールドのように株式と低相関とされていましたが、2020年以降はNASDAQやハイテク株と同方向に動く傾向が強まり、相関係数が0.4程度まで上昇したとの分析もあります。
両者が同じマクロ要因——米国の金利、金融政策、リスクオン・リスクオフ——の影響を受けているため、AIブームでハイテク株が買われる局面ではビットコインにも資金が流入しやすく、逆にAI株が調整すると暗号資産も売られやすいという構図です。
AI投資マネーの行き先と暗号資産市場
ソフトバンクによるNVIDIA株売却は、AIプロジェクトへの再投資の一環ですが、市場心理としては「AI相場のピークアウトを示唆する動き」と受け取る投資家もいます。もしNVIDIA決算で失望が生じれば、リスク資産全般が調整し、短期的にはビットコインも下落する可能性があります。
しかし中期的には、AIと暗号資産は同じ「次世代デジタルインフラ投資」のテーマとして補完的に扱われる可能性があります。AI関連株が割高と判断される局面では、リスクマネーがビットコインやイーサリアム(ETH)、ソラナ(SOL)など暗号資産に向かうシナリオもあり得ます。
また、AIデータセンターとビットコインマイニング施設は大量の電力と冷却設備を必要とし、インフラ要件が近いため、北米ではビットコインマイナーがAI/HPC向けデータセンター事業に参入する動きも生まれています。こうした重なりは、長期的にAIと暗号資産のエコシステムが相互補完する可能性を示しています。
総じて、今回のソフトバンクによるNVIDIA株売却と11月19日のNVIDIA決算は、AIブームの行方だけでなく、ビットコインなど暗号資産市場にとっても投資家のリスク許容度を測る重要なイベントとなり得ます。短期の値動きに振り回されず、AIと暗号資産それぞれの中長期的な技術トレンドとマクロ環境を踏まえ、リスク管理と分散投資を意識することが重要です。