植田日本銀行総裁 岸田首相と会談
2024.05.10
植田総裁、岸田首相と異例の会談
植田日本銀行総裁は5月7日岸田首相と時期としては異例の会談を行いました。
会談後のコメントでは「経済・物価に潜在的に大きな影響を与えうるものなので、最近の円安については、日本銀行の政策上十分注視していくことを確認した」と語り、円安がいまのところ基調的物価上昇率に大きな影響を与えているものではないとの認識を改めて示す一方、「今後、基調的な物価上昇率にどういう影響が出てくるかについて注意深く見て行く姿勢」だとしました。
植田総裁は会談について、首相とは定期的に意見交換を行っているとした上で、今回は日銀が「大きな政策変更をした後なので、その後の経済・物価・金融情勢について意見交換した」とし、政府と日銀の間で密接に連携を図り政策運営に努めることを確認したと述べています。
5月9日には4月25日-26日に開いた金融政策決定会合での「主な意見」が公表されましたが、「円安を背景に基調的な物価上昇率の上振れが続く場合には、正常化のペースが速まる可能性は十分にある」との意見が出たほか、「円安、基調的な物価上昇率の上振れにつながり得る」「円安と原油高、物価の上振れ方向のリスクにも注意が必要」「政策金利の引き上げ、タイミングや幅に関する議論を深める必要」「見通し確度の高まりに合わせ、適時適切に政策金利の引き上げが必要」などの意見が出されていました。
こうした意見を見ると政策委員からは、円安や原油高などによる国内の物価上昇に対する懸念が意見として出されたと考えられます。
3月の利上げ後も進む円安について
しかし、植田和男総裁は会合後の記者会見で、3月の利上げ後も進む円安について「今のところ大きな影響を与えていない」と発言し、その発言を受けて円安が加速したため、政府・日銀は日本の大型連休中に2回の為替介入に踏み切ったと考えられます。
今回、岸田首相との会談後のコメントから植田総裁は軌道修正を図ったと思われます。
実際、植田日銀総裁は5月8日に行われた都内での講演で「経済・物価見通しやそれを巡るリスクが変化すれば、当然、金利を動かす理由となる」とし、その上で、「物価見通しが上振れしたり、あるいは上振れリスクが大きくなった場合には、金利をより早めに調整していくことが適当になると考えられる」と物価見通しの上振れリスクが大きくなった場合、利上げのタイミングの前倒しを検討する考えを示しました。
また同日、衆議院財務金融委員会で植田総裁は円安の影響に関して「為替相場は経済・物価に重大な影響を与え得る」とし「従来の局面に比べ、為替変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」と述べ、さらに「政策運営にあたって最近の円安の動きを十分に注視している。動向次第で金融政策運営上の対応が必要になると考えている」と語りました。
このように、植田日銀総裁は円安により物価への影響が考えられるなら金融政策上の対応として利上げもありうる方向性を示しました。
植田日銀総裁のスタンスの変化を見て国内の市場関係者の間では、日銀が早期に利上げを行い、国債買い入れ減額に踏み切るのではないかとの考えが強まっています。
米国のFOMC(連邦公開市場委員会)の開催は6月11日-12日で、日本銀行の金融政策決定会合は6月13日-14日に開催されます。
米国では5月15日に消費者物価指数(CPI)4月が発表されますが、ここで良い結果が出たとしても1回だけのデータでは利下げにはならず為替相場は円安を意識した流れが続くと考えられ、もし悪い結果が出れば米国金利高止まりの長期化から更なる円安への影響が想定されます。
それだけに6月の日銀会合での政策金利引き上げが強く想定され、さらに長期金利を引き上げるべく国債の買い入れ減額の実施が続くと考えられるわけです。
植田日銀総裁は、昨年大変難しい局面で総裁に就任し、1年かけて金融政策を少しずつ正常化してきましたが、ここからは為替相場への対応を含めたインフレ対応を本格化させていくことになり、更に難局に立ち向かうことになります。
今後の植田総裁の動きから目が離せません。