アリゾナ州、暗号資産準備金を設立──“守りの戦略”が描く公共財政の未来
2025.05.21
アリゾナ州、「暗号資産準備金」を正式に設立
2025年5月8日にアリゾナ州が正式に設立を発表した「暗号資産準備金」は、単なる投資スキームとは一線を画す、あらたな公共財政のモデルとして注目に値する。
州議会では先週までに関連法案「SB 1025」及び「SB 1373」の2法案が可決されており、州知事の署名を待っていた。その署名が無事完了し、正式に暗号資産準備金が設立された形だ。
HB 2749にもとづく制度設計の特徴
今回アリゾナ州が設立した準備金は州法案HB 2749にもとづくものであり、同州が未請求のデジタル資産(エアドロップやステーキング報酬を含む)を現金化せずに原資産のまま保有・管理することを目的としている。投資対象として暗号資産を購入することは禁じられており、あくまで州が「預かり主」としての立場を強調する形となっている点は留意したい。

他州との比較と戦略的立ち位置
この制度は、暗号資産に対する州の関与としてニューハンプシャー州に続くもので、米国内で2例目となる。
もっとも、両州のアプローチには明確な違いがある。ニューハンプシャー州は最大5%の州資金をビットコインなどの時価総額上位のデジタル資産に投資可能とする、いわば「攻め」の姿勢を取っているのに対し、アリゾナ州は資産保管に特化した「守り」の構えを貫いているともいえる。
注目すべきポイント:報酬の受け入れ設計
この“守りの姿勢”のなかでも注目すべき点は、エアドロップやステーキング報酬の受け入れを制度設計に盛り込んでいる点である。
通常、政府機関が民間のブロックチェーンネットワークから直接資産を得ることには慎重な姿勢が取られがちだが、アリゾナ州はこの領域にも一歩踏み込んだ。州が保有する未請求資産が自動的に増加する構造を取り入れたことで、デジタル資産が州の財政にもたらす潜在的な貢献が現実味を帯びてきたといえる。
米国各州が示したあらたな公共財政モデル
簡単にいえば、州資金を活用して買うことはしないが、準備金を最大限活用して利益を最大化する方針である。
なお、準備金の最大10%については、州議会の承認を条件に一般会計に移すことが可能とされており、暗号資産が将来的に予算執行の財源として機能する可能性も残されている。記事執筆時点では市場の反応や政府関係者の公式コメントは限られているものの、制度が本格的に稼働すれば他州や業界からの注目度は間違いなく高まるだろう。
今後、州ごとの財政方針や規制姿勢によって左右されるが、アリゾナ州の事例が示すように、「暗号資産=投機的資産」という固定観念は、過去の産物となった。預かり、管理し、必要に応じて活用するという枠組みは、中央銀行や国家機関が準備金として金(ゴールド)を保有する発想とも重なり、こうした暗号資産の準備金制度が今後、全米各州に広がっていく可能性は十分に考えられる。
日本においても、暗号資産の制度化や税制改革の議論が進むなか、行政がデジタル資産にどのような立場で関与すべきかという問いは避けて通れない。アリゾナ州の選択は、こうした議論を進める上でも重要な事例となるだろう。
民間主導から国家関与へと暗号資産の位置付けが大きく転換しつつある今、AIを使いこなすビジネスマンのように、あたらしい時代の金融を見据えた視座と知見を持つ必要があるだろう。

[Iolite記事]
アリゾナ州初、仮想通貨準備金法案成立 ニューハンプシャー州に続き