ビットコインとは? その本質的な価値について
2026.04.07
監修:株式会社J-CAM 金融アドバイザー AFP認定者 倉本 佳光 Yoshimitsu Kuramoto
慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、山一証券株式会社に入社し金融業界でのキャリアをスタート。その後、メリルリンチ日本証券株式会社マネージメント・コミッティーメンバー、岡三アセットマネジメント株式会社理事などを歴任。
なぜ「何も生み出さない資産」にウォール街が熱狂するのか
ビットコインを「インターネット上の便利な電子マネー」や「値動きの激しい投機対象」とだけ捉えると、その存在感はうまく説明できません。伝統的な金融の世界では、ウォーレン・バフェットのように、資産の価値を将来のキャッシュフローや事業価値から測る見方が主流です。その物差しに立てば、国家の信用にも企業収益にも依拠しないビットコインは、きわめて評価しにくい存在に映ります。
それでも市場は、ビットコインを単なる流行や投機で片づけていません。なぜ世界の機関投資家やウォール街が、こうした「伝統的な評価軸では測りにくい資産」に目を向けるのか。この問いに向き合うには、ビットコインを決済手段としてではなく、希少性・中立性・改ざん耐性を備えたデジタル資産として捉え直す必要があります。
本記事は、ビットコインを推奨するためのものでも、否定するためのものでもありません。金融資産の歴史的文脈を踏まえながら、ビットコインとは何か、そしてなぜそれが一定の支持を集めるのかを整理します。重要なのは「何に使えるか」だけではなく、誰の負債でもなく、誰の裁量でも増やせず、誰かの許可なしに保有・移転できるという性質が、現代のポートフォリオにおいてどのような意味を持ちうるかです。
ビットコインは、単なる電子マネーではなく、「誰の負債でもないまま保有できるデジタル資産」と捉えると輪郭が見えやすくなります。 もっとも、この説明だけではまだ抽象的です。以下では、既存の金融資産と何が違い、なぜそれが価値として認識されているのかを順を追って解説していきます。
《出典》
Buffett: I wouldn’t pay $25 for all the bitcoin in the world|CNBC
Buffett A-Z Bitcoin and cryptocurrencies|CNBC
この記事でわかること
ビットコインとは何か──「便利な通貨」ではなく「自己主権型の資産プロトコル」
既存の資産クラスとの決定的な違い
ビットコインを理解するうえでまず押さえたいのは、それが単に価格のついたデジタル商品ではないという点です。ビットコインは、売買される資産であると同時に、その保有や移転の記録を維持する仕組みと切り離せない存在でもあります。ここでいう「ネットワーク」とは、その記録を共有し、更新し、正しいものとして保つために相互に通信する参加者の集まりを指します。「プロトコル」とは、そのネットワーク全体が従う共通ルールと、それを実際に機能させる仕組みのことです。つまりビットコインは、資産そのものだけでなく、その資産をどう記録し、どう移転し、何を正しい履歴として扱うかまで含めて成り立っています。
この前提に立つと、ビットコインが既存の資産クラスとかなり異なることが見えてきます。円やドルのような法定通貨は、国家や中央銀行の信用を背景に流通しています。株式は企業の利益成長や配当、つまり将来キャッシュフローへの期待をもとに価値が評価されます。金は利回りを生まない一方で、物理的な希少性と長い歴史の中で積み上がった信認によって価値を保ってきました。
こうして見ると、既存の資産はそれぞれ価値の裏付けが比較的わかりやすいと言えます。法定通貨には発行主体があり、株式には事業と収益力があり、金には実物としての希少性があります。言い換えれば、私たちが普段触れている資産の多くは、発行体、事業主体、制度、あるいは実物資産といった裏付けを前提に価値が認識されています。
プロトコルがネットワーク上で実現すること
- 正しい送金を定義しそれ以外を排除します
- 正しい送金だけを記録し、取り消したり改ざんが極めて困難なブロックチェーンに保存しています。
- 取引記録は送金者と直接結びつかないかたちで公開されており、誰もがプロトコルにそって矛盾なくネットワークが機能していることを検証できます。
- 正しい送金は取引記録と整合性がとれています
- 新規発行を四年ごとに半分にします
- ビットコインの発行上限は2100万枚です
これに対してビットコインは、円やドルのように国家の信用によって価値が支えられているわけではありません。株式のように、企業が利益を生み出すことで価値が説明される資産でもありません。ビットコインの価値を支えているのは、まず発行上限が決まっていて、誰かの判断で簡単に増やせないというルールです。加えて、中央管理者が台帳を一元管理するのではなく、取引記録を参加者全体で共有し、その内容がルールどおりかを確かめ合う仕組みがあります。重要なのは、その仕組みが理念にとどまらず、実際に動き続けており、その正しさを第三者も検証できることです。つまり市場が信認しているのは、特定の国家や発行体ではなく、ルールに沿った運用が続いているという事実そのものです。
この違いは、価格の見方にもそのまま表れます。株式のように利益成長から内在価値を逆算することも、債券のように将来の利払いを割り引くこともできません。一方で、供給量が恣意的に増えにくく、その記録の正当性を特定の管理者に頼らず維持しようとする設計は、既存資産にはない独自の評価軸を生みます。だからこそビットコインは、「便利な決済手段」として見るだけでは輪郭がつかみにくく、信用に依存しないデジタル資産という新しい資産クラス候補として捉えたときに初めて、その特異性が見えてきます。
信用からのオプトアウトという発想
私たちはふだん、自分の資産を「自分のもの」と考えています。ですが、伝統的な金融資産を細かく見ていくと、その多くは実際には誰かの約束や帳簿の上に成り立っています。たとえば銀行預金は、口座に表示された数字がそのまま自分専用の現金を意味するわけではありません。法的には、銀行に対して払い戻しを請求できる権利であり、見方を変えれば銀行の負債です。数字は口座に残っていても、銀行が破綻すればその約束には限界が生じますし、インフレが進めば額面が保たれていても購買力は損なわれます。
株式や債券も同様です。株式は企業の利益に対する権利であり、債券は国や企業の返済約束です。つまり、いずれも発行体の信用から切り離すことはできません。加えて現代の証券市場では、個人投資家の資産は証券会社や清算機関などのインフラの上で保管・管理されています。発行体の健全性だけでなく、保管や決済を担う仕組みへの信頼も前提になっています。
不動産も、一見すると最も“実体のある資産”に見えます。ですが、それが自分の所有物であることは、最終的には国家が管理する登記制度と法秩序によって支えられています。物理的に存在する資産であっても、所有権そのものは制度の外にあるわけではありません。金も似た面があります。ETFなどの形で保有すれば、現物の裏付けや保管体制を金融機関に依存しますし、現物で持てば今度は盗難や没収といった物理的・政治的リスクを引き受けることになります。
信用リスクの依存構造
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1. 銀行預金と法定通貨:「あなたのお金」ではなく「銀行の借金」
- 事実:口座の「100万円」は保管された現金ではなく、単なる「銀行への請求権(無担保の債権)」に過ぎません。
- 信用リスク:銀行が破綻すれば資金回収は難しい(保護上限あり)
2. 株式と債券:「発行体」と「保管者」の二重のリスク
- 事実:株式(利益への権利)や債券(返済約束)は、あなた個人の名義ではなく、証券会社等によって一括管理されています。
- 信用リスク:発行体の倒産リスクに加え、証券会社のハッキングや不祥事などによる「保管(カストディ)リスク」に依存しています。
3. 不動産:「国家による所有権の保証」というリスク
- 事実:物理的に存在しても、それが「あなたのもの」であるという所有権は、国家のデータベース(登記簿)によってのみ証明されています。
- 信用リスク:国家による強制収用や極端な増税(実質的な没収)には対抗できず、国家の法治主義を100%信用しなければ成立しません。
4. 金(ゴールド):「物理的保管」のパラドックス
- 事実:金投資は、証券化された「ペーパーゴールド(ETF等)」か、物理的な「現物」のいずれかの形で保有します。
- 信用リスク:ETF等は金融機関への信用リスク(現物の裏付けが監査不可)を抱え、現物は強盗や国家による強制没収のリスクを伴います。
こうして見ると、伝統的な資産の多くは、形こそ違っても、発行体、保管者、制度、国家といった第三者の信用の上に成り立っています。これに対してビットコインは、その依存をできる限り小さくしようとする設計です。保有の正当性は、銀行や証券会社の台帳ではなく、プロトコルに従って維持される記録の中で確認されます。資産を動かせるかどうかは、秘密鍵を保有しているかにかかっており、特定の管理者が「あなたの資産です」と認めることが出発点ではありません。
もちろん、現実の利用では取引所やカストディ、税制や規制から完全に自由ではありません。それでもビットコインが異質なのは、資産それ自体が誰かの負債ではなく、その保有と移転のルールが特定の発行体信用に依存しない点にあります。だからこそビットコインは、単なるデジタル通貨というより、第三者の信用をできる限り介さずに保有できる資産として理解した方が実態に近いのです。
《出典》
Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System|Bitcoin.org
暗号資産(仮想通貨)に関連する制度整備について|金融庁
BTCの価値はどこから来るのか──価格ではなく「2つの源泉」から考える
ビットコインの価値を考えるとき、価格そのものを追いかけても本質は見えてきません。重要なのは、「なぜ市場がそれを価値あるものとして扱うのか」という土台の方です。株式のように利益成長を現在価値に割り引くことも、債券のように将来の利払いから価値を測ることもできない以上、ビットコインは別の観点から見なければなりません。ここでは、その価値を支えていると考えられる源泉を、希少性と中立性の2つに絞って整理します。
1. 発行上限が固定された「構造的な希少性」
ビットコインの価値を語るうえで、まず出発点になるのが希少性です。ただし、ここでいう希少性は、単に「数が少ない」という話ではありません。重要なのは、供給量の上限があらかじめ定められており、それを特定の管理者が裁量的に変えにくいという構造そのものです。法定通貨は中央銀行や国家の判断で供給量が調整されますが、ビットコインは発行枚数の上限が2,100万枚と定められ、新規発行のペースもルールに従って段階的に低下していきます。
この点が意味を持つのは、希少性が誰かの自制心ではなく、あらかじめ共有されたルールとして組み込まれているからです。つまり市場参加者は、「簡単には増えないはずだ」という期待ではなく、実際に増やしにくい設計そのものを前提に価値を判断できます。しかもその供給ルールは外部からも確認できるため、ビットコインの希少性は、単なるレア物ではなく、検証可能な希少性として認識されます。これが、ビットコインの価値を支える最初の土台です。
2. 有事に意味を持つ「中立性」
ビットコインの中立性が意味を持つのは、平時よりもむしろ有事です。通常の環境では、国家や金融機関が管理する既存の資産インフラの方が、利便性も安定性も高く見えるかもしれません。ですが、たとえば急激なインフレで自国通貨の価値が目減りする局面、海外送金や資金移動に制限がかかる局面、銀行の引き出し制限や口座凍結への不安が高まる局面では、誰かの判断で送金や資産アクセスを止められないこと自体が価値になります。ビットコインは、特定の国家や金融機関が一方的に止められる資産ではありません。だからこそビットコインは、有事に強いデジタル資産として、ポートフォリオの逃避先や分散先の一つに位置づけられやすいのです。
同様に、金が有事の資産とされてきたのは、そうした局面で資金の逃避先になりやすかったからです。 ビットコインが「デジタルゴールド」と呼ばれるのも、これと似た文脈です。もちろん金とビットコインは同じではありませんが、有事には既存の通貨や金融システムとは別の選択肢として注目されやすい点で重なります。 こうした見方が机上の空論にとどまっていないのは、ビットコインが長い時間をかけてネットワークを維持し、記録を守り続けてきた実績があるからです。中立性とは、単なる思想ではなく、有事において価値保存先として選ばれうる理由の一つなのです。
《出典》
Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System|Bitcoin.org
Why is gold valuable?|European Central Bank
Inflation and its impact|IMF
国家にとってビットコインとは何か──資産であると同時に、通貨主権を揺さぶる存在
国家にとってBTCは、資本規制を迂回されやすく、自国通貨の支配力を弱め、国内資産を外へ逃がしやすくするなど、必ずしも歓迎しにくい特徴を持っています。ところが実際には、米国をはじめ、BTCを制度の外に追いやるのではなく、国内経済や金融市場の中に取り込もうとする動きも出ています。今後のBTC市場を考えるうえでは、各国がBTCをどう評価し、どう扱うかがますます重要になります。なぜなら、BTCの将来は市場参加者の期待だけでなく、国家がそれを脅威として抑え込むのか、戦略資産として取り込むのかによっても大きく左右されるからです。
中国がBTC利用を禁じ、デジタル人民元を進める理由
ではまず、BTCを国家の統治や通貨管理にとって脅威とみなし、できるだけ制度の外へ追いやる選択をした中国から見ていきましょう。中国は、BTCを国家の統治や通貨管理にとって脅威になりうる資産とみています。実際、中国の対暗号資産規制は段階的に強まり、2021年には暗号資産関連取引を違法な金融活動と位置づけるところまで進みました。中国が問題視しているのは、価格変動そのものよりも、国家が価値移転の回路を握れなくなることです。
中国がBTCを警戒する理由は、次の3点に集約できます。
- 資本規制を迂回する手段になりうる
- 人民元の管理の外で価値移転が起こりうる
- 資産保有や移転を国家が把握しにくくなる
一方で、中国はデジタル通貨そのものに反対しているわけではありません。むしろ進めたいのは、国家が流通を把握でき、決済記録を追跡でき、制度の中で管理と統制を維持できるデジタル通貨です。中国にとって重要なのは、「デジタルかどうか」ではなく、国家がその通貨を管理できるかどうかです。
アメリカがBTCを備蓄対象として扱う理由
米国がBTCを備蓄対象として扱い始めたのは、単に値上がり益を狙っているからではありません。米国にとって重要なのは、BTCそのものを保有することに加え、BTCをめぐる市場、制度、価格形成の中心を自国に引き寄せることです。ホワイトハウスは2025年3月の大統領令でStrategic Bitcoin Reserveを創設し、政府が保有するBTCを戦略的に備蓄・管理する方針を示しました。これは、BTCを投機対象ではなく、国家として無視できない資産と見始めたことを意味します。
米国がBTCを取り込むメリットは、主に次の4つです。
- 希少なデジタル資産を国家として先に押さえられる
- ETF、先物、保管、清算などの関連市場を国内に集められる
- 価格形成やルールづくりで主導権を握りやすくなる
- BTC市場の拡大を、そのまま米国金融市場の拡大につなげやすい
特に大きいのが、USD/BTCペアの取引量が増えることの戦略的メリットです。USD建ての取引が増えれば、BTCの価格形成、流動性、デリバティブ、ETF、カストディといった周辺インフラも米国市場に集まりやすくなります。つまり米国にとっては、BTCを排除するより、USD/BTC市場の中心を自国で握る方がはるかに得なのです。
この発想は、ドル秩序を壊すというより、むしろその延長線上にあります。BTC市場の中心がドル建てで回るほど、米国は新しい資産クラスの市場そのものを自国金融システムの中に組み込めます。中国がBTCを締め出して統制を守ろうとするのに対し、米国はBTCを制度の中に取り込み、市場・制度・準備資産の3方向で国益に変えようとしているのです。
《出典》
Establishment of the Strategic Bitcoin Reserve and United States Digital Asset Stockpile|The White House
Strengthening American Leadership in Digital Financial Technology|The White House
China launches new e-CNY banking framework|The State Council of the People’s Republic of China
TIPs: 深読み!アメリカがBTC大国になった世界線
米国がBTCの覇権を握った世界では、ビットコインは「国家の外にある自由資産」ではなく、「米国が最も強い影響力を持つグローバル資産」に変わっていきます。 価格形成はドル建て市場に集まり、ETF・保管・規制の中心も米国に集約されるためです。その結果、BTCはドルの敵というより、米国金融覇権の外縁を支える新しい準備資産のような性格を帯びていく可能性があります。
ビットコインETFがもたらした変化
BTCの歴史の中でも大きな転換点となったのが、2024年1月の現物型ビットコインETFの承認です。これは単に「BTCが買いやすくなった」という話ではありません。証券口座を通じてアクセスできるようになったことで、暗号資産に慣れた個人投資家だけでなく、機関投資家や伝統的な投資家の資金が入りやすくなり、BTCの保有者の顔ぶれそのものが変わり始めた出来事でした。
機関投資家マネーが入りやすくなり、BTCの“保有者”が変わった
ETF導入によって、BTCは暗号資産取引所や、秘密鍵の管理・ウォレットでの自己保管に慣れた人だけの市場ではなくなり、証券口座を通じて機関投資家や伝統的な投資家の資金が入りやすい資産に変わりました。これまでBTCには、取引所口座の開設やウォレット管理といった独特のハードルがありましたが、ETFはその入口を大きく下げました。その結果、BTCは「特殊な投機商品」から、少なくとも伝統金融の文脈でも検討対象になりうる投資アセットへと近づきました。
- 証券口座から売買できるようになった
- 機関投資家、アドバイザー、伝統金融マネーが流入しやすくなった
- BTCが「特殊な投機商品」から「検討対象になりうる投資アセット」へ近づいた
ETFが変えたのは“買い方”より“BTCの性格”である
ETFの本質的な変化は、BTCが買いやすくなったこと以上に、制度金融の中で保有される大型資産へ近づいたことです。これまでBTCは、自己保管や反体制性、体制の外にある資産という文脈で語られることが少なくありませんでした。ですがETF導入後は、資産配分、分散投資、資金フローといった、より伝統金融に近い言葉で語られる比重が高まっています。
その結果、BTCはより大きな市場を得ましたが、その一方で、自由な体制外資産としての輪郭は相対的に薄まりました。つまりETFが変えたのは、BTCの“買い方”だけではありません。BTCを誰が持ち、どんな文脈で評価し、どの市場の中で価格が形成されるのかまで含めて、その性格そのものを変え始めたのです。
値動きはむしろ複雑になった
ビットコインETFの導入は、BTCにとって明らかな追い風でした。証券口座を通じてアクセスしやすくなり、これまで直接保有しづらかった機関投資家や伝統的な投資家の資金も入りやすくなったからです。ですが、そのことはBTCを「わかりやすい資産」にしたわけではありません。むしろETF導入によって、BTCにはこれまで以上に異なる性質の資金が流れ込み、値動きの背景は複雑になりました。
現在のBTCには、大きく分けて二つの需要が重なっています。ひとつは、インフレ不安や制度不信、有事への備えとして買われるデジタルゴールド需要です。もうひとつは、流動性相場や投資家のリスク選好が強まった局面で買われるリスクオン資産としての需要です。ETFを通じた資金流入が増えるほど、この二つの需要は同じ市場の中で交錯しやすくなります。その結果、BTCは金のように単純な有事資産とも、株のように単純なリスク資産とも言い切れない、読みづらい資産になっています。
しかも、ETF市場ではフローそのものが価格に与える影響も無視できません。現物型ビットコインETFへの資金流入や流出は、需給を通じて現物市場にも影響を与えやすく、相場は「マクロ環境」「リスク選好」「制度不信」「ETFフロー」という複数の文脈で同時に動くようになります。つまりETFがもたらした本質的な変化は、BTCが安定したことではなく、より大きな資産になった代わりに、値動きの読み筋が一段と複線化したことだと言えます。
《出典》
Statement on the Approval of Spot Bitcoin Exchange-Traded Products|U.S. Securities and Exchange Commission
The crypto ecosystem: key elements and risks|BIS
結論──それでもBTCの将来に価値はあるか?
ここまで見てきたように、BTCは「便利な通貨」として理解しようとすると、本質を見失いやすい資産です。決済のしやすさやアプリ基盤としての拡張性だけを比べれば、他に優れた手段はいくらでもあります。現物型ビットコインETFの承認以降、BTCは制度金融の中に入り込み、機関投資家マネーが流入しやすい資産へと変わりましたが、その一方で、デジタルゴールドとしての需要とリスクオン資産としての需要が交錯し、以前よりも値動きの文脈が複雑で読みにくい資産にもなっています。
それでもBTCの将来に価値はあります。なぜなら、BTCの強みは便利さではなく、希少性・中立性・制度不信への耐性という、他の資産では代替しにくい性質にあるからです。発行上限が固定され、誰かの裁量で簡単に増やされにくいこと。特定の国家や金融機関の判断だけで一方的に止められる資産ではないこと。こうした性質は、平時には見えにくくても、有事や制度不信の局面では意味を持ちやすくなります。だからBTCは、万能な資産ではなくても、捨てられにくい資産として残る余地があります。
さらに重要なのは、これからの金融や資産管理の世界そのものが、よりデジタルネイティブな方向へ進んでいく可能性が高いことです。今後、ブロックチェーン上での決済や資産移転がさらに一般化し、AIが暗号資産の保有、売買、再配分を自動的に担う場面が増えていくなら、価値保存の対象もまた、デジタルネイティブで保存に適した資産であることに意味が生まれます。アナログ時代において金が価値保存の中心にいたように、デジタル時代には、デジタル空間でそのまま保有・移転・管理できる資産の方が自然だ、という発想です。BTCが「デジタルゴールド」と呼ばれる意味は、まさにそこにあります。
もちろん、BTCが世界共通の日常通貨になるとは限りませんし、すべてのユースケースを取る必要もありません。BTCの将来価値は、「何でもできること」から生まれるのではなく、簡単には増やされず、止められにくく、デジタル空間で保存しやすいことから生まれます。だからこそBTCは、単なる投機対象で終わるのではなく、デジタル時代の価値保存装置として、今後も議論され続けるはずです。