暗号資産×サッカー パリ・サンジェルマン(PSG)が語る「ビットコイン準備金」の理由
2025.06.04
PSG、ビットコインを準備金に採用──スポーツと金融の融合戦略
2025年5月29日、ラスベガスで開催された大型カンファレンス「Bitcoin 2025」において、パリ・サンジェルマン(PSG)が発表した「ビットコイン準備金採用」は、マーケティング施策を超え、スポーツ界と金融界をまたぐ戦略として話題となった。
フットボールクラブが暗号資産を準備資産として公式に保有するのは、世界でもPSGが初の事例である。クラブの財務責任者パー・ヘルゴソン氏によれば、「我々はすでに法定通貨準備金の一部をビットコインに配分し、帳簿に記載している」と明言しており、ビットコインを単なる短期投資ではなく、戦略的な財務構成要素として取り扱っていることがうかがえる。

若年層との接続と新たなファン戦略
PSGがこの決定に至った理由の1つとして、ファンベースの変化がある。同クラブのファンの約80%が34歳以下という統計が示す通り、若年層の間で暗号資産や分散型金融(DeFi)に対する関心が急速に高まっている。クラブはこれを単なる趣向の違いと捉えず、ファンとの関係構築の本質的な軸足を移す試みとして、ビットコイン準備金の採用に踏み切った。
ビットコイン経済圏への参加──PSG Labsの設立
その象徴として、「PSG Labs」の設立があげられる。同組織は、ビットコイン関連のスタートアップや開発プロジェクトへの投資支援を行うもので、クラブ自らがビットコインエコシステムの参加者となることを明確に打ち出している。つまりPSGは、単なる金融資産の保有にとどまらず、ビットコイン経済圏の構築に積極的に貢献しようとしているのだ。
ビットコインと法定通貨の力学──通貨不信と資産の再評価
こうした動向の背景には、通貨の信頼性に対する疑念もあるだろう。米国を中心とした金融政策の緩和と歳出の拡大は、インフレ再燃や財政の持続可能性に対する市場の不安を増幅させている。法定通貨の価値がインフレ圧力にさらされ、実質購買力が低下するなかで、世界の一部企業や機関投資家の間では、ビットコインを「価値保存の手段」として位置付ける動きが強まっているのだ。
中央銀行が担保する貨幣価値そのものが揺らぎつつある今、ビットコインという非中央集権型の資産は、金融の「避難所」として再評価され始めているとみて良いだろう。
PSGによるビットコインの採用は、このようなマクロ経済的視座に立った戦略とも解釈できる。つまり、クラブが先を見据えた「法定通貨ヘッジ」に踏み出したというのが私の解釈だ。
Iolite最新号と馬渕磨理子氏インタビュー
5月30日はIolite(アイオライト)最新号 Vol.14の発売日。今号の表紙は馬渕磨理子さん。2023年の夏、快く弊誌のインタビューを受けていただいて以来の対面だったが、相変わらず言葉の選び方が綺麗な方だなと感じた。
経済アナリストとして活動されていることもあって、毎朝経済新聞を偏りないようにかなりの数を読破されているようで、私が聞いたところでは6社の新聞に加えて、マーケット情報の収集のために、金融経済に関する番組も6つほど毎日見るようだ。ご自身の執筆されている著書やXでの配信をみても、膨大な量の情報をインプットをしてきた人の文章だと明確にわかると思う。
暗号資産の新たな役割と注意点
インタビューのなかで現在の資金の流れをみると、「ドル建て債券」「金(ゴールド)」「ビットコイン」という3つが受け皿になり、かつては逆相関だったドルとビットコインが、今は補完的な役割を担い始めているため、暗号資産は単なる投機ではなく、今や金融市場のなかであたらしい役割をはたし始めていると思うと語ってくれた。
先述した見方と大方相違はないように思える。一方、この様相が維持されるためには、現在の経済と貨幣の関係があることが前提であり、トランプ大統領が暗号資産を貨幣に代替する手段として大きく打ち出す動きには警戒感を示した。
とはいえ、今回のPSGの決定や既存企業の暗号資産を自社のポートフォリオに組み入れる動きは、組織の在り方を再定義するものでもあると私は思う。

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