金価格が史上初の4,000ドル突破──ドル安と利下げがもたらす新たな強気相場
2025.10.10
政府機関閉鎖下でも資金はリスク資産へ
米国では政府機関の閉鎖が続いており、10日目を迎えました。閉鎖の結果、政府各機関による各種経済指標の発表は延期されており、本来であれば金融市場は混乱状態に陥るのではないかと思われます。しかし、閉鎖が始まってから投資資金は数少ない手がかりを求めながらリスク資産へ向かっており、株式市場、貴金属市場、暗号資産市場は堅調な動きを続けています。
FOMC議事要旨のポイントと位置付け
年内の米国金融政策の方向性を確認できる発表として、9月16–17日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨が公表されました。この会合において金融当局は9ヵ月ぶりに0.25%の利下げを決定しています。議事要旨では以下の2点が特に強調されています。
- 大半の当局者が雇用市場において下振れリスクが高まり、利下げを正当化してくれるとの見解で一致しました。
- インフレが目標である2%を上回って推移し、関税措置が続いている現状を踏まえ、参加者の大多数がインフレの上振れリスクを強調しました。
この2点がポイントとなり、FOMCの参加者は「雇用とインフレの両目標を達成する上でバランスのとれたアプローチの重要性」を強調しました。
当該会合の決定(サマリー)
会合日程 | 決定 | 変更幅 | 示唆されたスタンス |
---|---|---|---|
9月16–17日 | 政策金利引き下げ | -0.25% | データ依存・両目標のバランス重視 |
市場の反応:株・金・暗号資産の同時上昇
FOMCの議事要旨の内容から金融市場は、金融当局の金融緩和姿勢に変化はないと判断しました。株式市場ではS&P 500とNASDAQが史上最高値を更新しました。また貴金属市場では金価格が初めて1トロイオンス4,000ドル台に乗せ、暗号資産市場でも前日に調整したビットコインが堅調な動きをみせました。
一般に、期待インフレや実質金利、ドル指数の動きは金価格に大きく影響します。利下げ観測が強まる局面では実質金利が低下しやすく、無金利資産である金の相対的魅力が増すため、金・一部コモディティ・高リスク資産が同時に買われる現象が起きやすい点は押さえておきたいところです。
Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)の金価格予測:上方修正の背景
特に金価格については、10月6日にGoldman Sachsのアナリストであるリナ・トーマス氏らが発表したリポートで、2026年12月の金価格予測を従来の1トロイオンス4,300ドルから4,900ドルへ上方修正しました。その根拠として、米国金融当局が合計100bpの利下げに動く過程で金ETF(上場投資信託)への資金流入と中央銀行による買い増しをあげています。
こうした背景には、世界貿易やFRB(米連邦準備制度理事会)の独立性、米国財政の安定性などへの不透明感があり、地政学リスクの高まりも安全資産としての金需要を高めています。
予測の変更点(表)
発表日 | 対象時点 | 旧予測 | 新予測 | 主な根拠 |
---|---|---|---|---|
10月6日 | 2026年12月 | $4,300/oz | $4,900/oz | 合計100bp利下げ、ETF資金流入、各国中銀の買い増し |
背景にある需要ドライバー
- 政策金利の引き下げ観測:実質金利の低下が金の機会コストを縮小します。
- ETFを通じた投資マネー流入:価格上昇局面で循環的に需要が拡大します。
- 中央銀行の金準備積み増し:外貨準備の多様化ニーズと地政学リスクヘッジの意図があります。
- マクロ不確実性:世界貿易の停滞懸念、FRB独立性・米財政への不透明感が意識されます。
- 地政学リスク:有事資産としての選好が上昇します。
レイ・ダリオ氏の見解:金の役割
さらに10月7日には、コネティカット州グリニッジで全米の投資家が集まる「グリニッジ・エコノミック・フォーラム」が開催されました。初日には世界最大のヘッジファンドであるBridgewater Associates(ブリッジウォーター・アソシエイツ)の創業者レイ・ダリオ氏が登壇し、かねてより推奨している金について言及しました。
「金はドルよりも安全な資産の避難先になっている」
「私たちは世界を自国通貨を通してみてしまいがちだが、実際には通貨が上下しているだけだ。現在、金や株式の価値が上昇する一方でドルは売られている」
「利下げ(金融緩和)によってドルは売られる」
「金は何千年にもわたって人類が頼ってきたハードカレンシーであり、ポートフォリオの15%を保有するのが合理的だ」
ダリオ氏は「今後の米国の利下げでドルが売られ、その資金が金に向かう」と繰り返しコメントしています。発言は、通貨価値の相対性と分散投資の重要性、そして低金利環境における金の魅力を端的に示唆しています。
先行きのシナリオと留意点
米国の政府機関閉鎖がいつ終了するのかは不透明ですが、今後の米国金融当局による利下げがドルの下落を強め、その結果として金や暗号資産の価格上昇が続く展開が予想されます。
リスク要因
- 想定より強いインフレ鈍化や成長減速が同時進行し、市場が景気後退を織り込む場合、株式など一部リスク資産は反落する可能性があります。
- 政府機関閉鎖の急速な解消と財政・政策不透明感の後退により、ドルが反発し金の上値を抑えるシナリオが考えられます。
- 各国中銀の金購入ペース鈍化やETF資金の流出が発生した場合、需給が反転する可能性があります。