FRB利下げとハイテク株急伸 NY市場を動かすマグニフィセント7
2025.09.26
今年のNY株式市場は、4月以降、トランプ大統領の関税政策で振り回される展開となりました。特に相互関税が発表された直後には株式市場が大きく下落する場面があり、NASDAQは4月7日に14,784ポイント、S&P500は4月8日に4,982ポイントの安値をつけています。(NYダウ平均は4,982ドルの安値を4月8日につけています)その後のNY株式市場は、関税交渉の行方を探りながら企業業績との綱引きを続け、5月中旬頃から徐々に下値を切り上げる堅調な展開となりました。
特に8月22日のジャクソンホール金融会合でパウエルFRB議長が利下げについて示唆したことから、その後は利下げ期待相場となり、NY株式市場の3指数は史上最高値を更新する動きとなりました。4月の安値から直近の高値までの上昇率は、S&P500が34%、NASDAQが54%となっており、好調な決算発表のあったIT・ハイテク株がリードした相場でした。
ジャクソンホール会合
ジャクソンホール会合は各国中銀要人が集う年次シンポジウムで、今後の金融政策の方向性が示されやすい場です。FOMC(米連邦公開市場委員会)は政策金利を決める会合であり、発言や決定は株式の理論価格を算出する際の基本的な金融ロジックでもある金利見通し→割引率→株式の理論価値に直結します。よって「利下げ示唆」は、成長株やハイテク株のバリュエーションの押し上げに働きやすい背景があります。
株価推移(4月安値〜9月高値付近)
この上昇相場の中心となってリードしたのは、やはりマグニフィセント・セブンの7社でした。各社の株価上昇率は、エヌビディア113%、テスラ108%、アルファベット82%、メタ65%、Apple(アップル)51%、Microsoft(マイクロソフト)48%、Amazon(アマゾン)36%となっています。各社の業績は好調でしたが、テスラとアップルは今年に入って減益決算になっています。
主要指数・主要銘柄の到達点と上昇率
単位:S&P500とNASDAQはポイント、株価はドル
指標/銘柄 | 開始日 | 開始値 | 終了日 | 終了値 | 上昇率 |
---|---|---|---|---|---|
S&P500 | 4月8日 | 4,982.77 | 9月22日 | 6,693.75 | 34.34% |
NASDAQ | 4月7日 | 14,784.0 | 9月22日 | 22,801.9 | 54.23% |
TSLA | 4月7日 | 214.25 | 9月22日 | 444.98 | 107.69% |
AAPL | 4月8日 | 169.21 | 9月22日 | 256.08 | 51.34% |
NVDA | 4月7日 | 87.75 | 9月22日 | 184.55 | 113.06% |
MSFT | 4月7日 | 344.79 | 9月23日 | 509.23 | 47.69% |
AMZN | 4月7日 | 161.98 | 9月23日 | 220.71 | 36.26% |
META | 4月7日 | 479.80 | 9月19日 | 790.80 | 64.82% |
GOOGL(Alphabet) | 4月7日 | 140.53 | 9月19日 | 256.00 | 82.17% |
相場トーンの変遷
NY株式市場は、関税交渉の不透明感と企業決算の強弱が綱引きを続けるなかで、5月中旬からは下値を切り上げる展開に移行しました。8月下旬以降は金融政策の支援期待(割引率低下シナリオ)も加わり、バリュエーションの高いIT・AI関連が主導する形で史上最高値更新の流れが生まれました。
決算ハイライト(TSLA / AAPL)
TSLAの3ヶ月決算(単位:売上高・各利益=百万米ドル、修正1株益・1株配=米ドル)
決算期 | 売上高 | 営業益 | 税引前益 | 最終益 | 修正1株益 | 1株配 |
---|---|---|---|---|---|---|
2024.06 | 25,500 | 1,605 | 1,787 | 1,400 | 0.40 | |
2024.09 | 25,182 | 2,717 | 2,784 | 2,173 | 0.620 | 0 |
2024.12 | 25,707 | 1,583 | 2,766 | 2,128 | 0.61 | ー |
2025.03 | 19,335 | 399 | 589 | 409 | 0.12 | ー |
2025.06 | 22,493 | 923 | 1,549 | 1,172 | 0.330 | 0 |
AAPLの3ヶ月決算(単位:売上高・各利益=百万米ドル、修正1株益・1株配=米ドル)
決算期 | 売上高 | 営業益 | 税引前益 | 最終益 | 修正1株益 | 1株配 |
---|---|---|---|---|---|---|
2024.06 | 85,777 | 25,352 | 25,494 | 21,448 | 1.40 | 0.25 |
2024.09 | 94,930 | 29,591 | 29,610 | 14,736 | 0.97 | 0.25 |
2024.12 | 124,300 | 42,832 | 42,584 | 36,330 | 2.4 | 0.25 |
2025.03 | 95,359 | 29,589 | 29,310 | 24,780 | 1.65 | 0.26 |
2025.06 | 94,036 | 28,202 | 28,031 | 23,434 | 1.57 | 0.26 |
決算所感と背景整理
両社は2025年3月期でともに大幅な減収減益となりました。テスラはイーロン・マスク氏のトランプ政権内での行動やコメントから、米国国民のみならず欧州の人々からも反感を買ったことや、中核販売地である中国でのBYDの躍進を受けて販売が大きく減少したことがポイントとなりました。しかしながら、イーロン・マスク氏が政権を離れ、テスラへ復帰したことを好感してからは、株価は堅調な動きとなりました。

一方、アップルは2024年12月期との比較では減収減益ですが、前年同期比で見ると売上高は約5%増、1株利益は約8%増となっています。またアップルは中国依存の生産体制を6月期からiPhoneの大半をインド製に、PCなどのデバイス製品はベトナム製にと大幅な変更を行いました。さらに9月9日に新製品発表会を開催し、iPhone17としてデザイン変更などを発表しました。9月19日から販売開始となったiPhone17は、この新デザインが好評で売れ行きが好調となっています。こうした地道な動きが評価され、アップルの株価も堅調となりました。
金利・マクロと足元の相場変動
NY株式市場は、9月17日のFOMCで0.25%の利下げが実施され、利下げ期待相場から「噂で買って事実で売る」という投資家の慎重な動きが続いており、今週は23日(火)から3日続落となりました。25日(木)には米国の2025年第2四半期GDP確報値が発表され、前期比+3.8%と市場予想の+3.3%を大きく上回りました。また新規失業保険申請件数も21.8万件と1.4万件減少し、こちらも市場予想の23.5万件を大きく下回りました。この2つの発表から米国経済の堅調さが確認され、年内の追加利下げに対しての期待感が大きく薄らぎ、株価はさらに調整色を強めています。
今回の利下げ期待で上伸したIT・ハイテク株は影響を受け、マグニフィセント・セブンの株価もメタ-11.75ドル、テスラ-19.40ドルと大きく下落したほか、Microsoft-3.12ドル、Amazon-2.06ドル、Alphabet-1.26ドルとなりました。ただこうしたなかでアップルだけは+4.56ドルと堅調に上昇し、終値は256.87ドルで今年4月以降の終値高値を更新しました。
金利とグロース株の関係
金利が上がる局面では将来利益の割引現在価値が低下し、グロース株のバリュエーションは圧迫されやすくなります。逆に金利低下や期待の高まりは、長期のキャッシュフローを重視するハイテク・AI関連にとって追い風になりやすい構造です。
マグニフィセント・セブンの位置づけと今後
マグニフィセント・セブンの各社はAI関連企業が多く、半導体のエヌビディアを初めとして業績は順調に推移し、今後も好業績が予想されています。そうしたなかで決算が厳しかったテスラとアップルですが、アップルは徐々に生産体制やデザインの変更といった施策が功を奏し始めていますが、テスラはどうなのでしょうか。
テスラは、この10月1日に米国内のEV購入者向けに実施されていた7,500ドルの税額控除が終了します。これによりEVの販売が苦境に立たされると考えられ、イーロン・マスク氏は一般向けの販売よりも「無人自動運転のロボ・タクシー」に注力しています。またあらたな展開をにらむ「ヒト型ロボット・オプティマス」の拡販に力を入れるようです。こうした動きを評価して未来指向型ハイテク企業へ投資するアーク・インベストメントのキャシー・ウッド氏はテスラの目標株価を2027年2,000ドル、2030年2,600ドルとしています。
マグニフィセント・セブン|The Magnificent Seven
・「マグニフィセント・セブン」は、米株の時価総額を牽引する7銘柄(例:NVDA、AAPL、MSFT、AMZN、GOOGL、META、TSLA)を便宜的に総称した呼び名です。指数寄与度が高く、決算のサプライズやガイダンス修正が相場全体に波及しやすい特徴があります。
・EV市場では中国勢を含む価格競争・補助金政策の変化・充電インフラ進展がボラティリティ要因になりやすく、テスラの「ロボタクシー」や「人型ロボット」といった新領域は、規制・安全性・商用化のスケジュールがバリュエーションに大きく影響し得ます。
総括
米国経済と米国株式市場の牽引役となってきたIT・ハイテク企業のなかでも、AI関連企業であるマグニフィセント・セブンがその中核となっています。今までのように牽引役となっていくのか、大きな注目を集める場面となってきました。その中でも一度減益決算となった両社の今後の展開は大きな影響力があると考えられ、注視していきたいと思います。