エヌビディア、最高益でも市場失望──AI投資と米中摩擦が焦点
2025.08.29
決算発表の概要(8月27日・NY株式市場)
8月27日(水)、株式市場の取引引け後にNY株式市場で最も注目される企業である エヌビディア(NVIDIA)が第2四半期(5-7月期)の決算発表を行いました。
第2四半期の実績(5–7月期)
今回の内容は、売上高467.4億ドル(約6.9兆円) 前年同期比+56%(市場予想462.3億ドル)、 純利益264.22億ドル(約3.9兆円) 前年同期比+59%となり、四半期ベースでの決算結果としては 過去最高となりました。
1株あたり利益は1.05ドル (市場予想1.01ドル)でした。 売上高、純利益とも市場予想を上回りましたが、 売上高は前年同期比+160億ドルで、 伸び率で見ると2年ぶりの低水準になっています。
これはデータデンター向けの売上が411億ドルで 市場予想の412.9億ドルを僅かですが下回ったことなどが 影響したと思われます。
第3四半期(8–11月期)の見通し
さらに、第3四半期(8-11月期)の見通しも発表されましたが、 売上高の見通しは540億ドル前後で 一部のアナリストが予想していた600億ドルには届かない、 一般的な予想の範囲内の低調な見通しを示しました。
今回の慎重な見通しにより、 AIシステムへの投資に対しての懸念が強まることになりました。
中国ビジネスと規制の逆風:具体的事例と今後の展望
H20チップの輸出制限と収益への影響
トランプ政権によるAIチップ「H20」の中国への輸出制限により、
エヌビディアは中国市場での販売が一時停止されました。
この措置の結果、同社は数十億ドル規模の売上を失い、
製品ラインにおける深刻な影響が避けられませんでした。
出典:Even Nvidia Has Speed Limits|THE WALL STREET JOURNAL
出典:How Nvidia’s chips became central to the U.S.-China trade war|AP
その後、米国政府との調整により「H20」販売の許可が一部復活し、 売上の15%を米政府に支払う条件付きでの再開が認められました。 ただし、中国政府は安全保障上の懸念から、 政府機関のAIシステムに米国製チップを使わないよう指示しており、 現地販売には依然として不透明感が残ります。
中国市場での復活への試みと課題
「H20」販売再開が進められているものの、
同社の市場シェアは2024年の66%から2025年には54%へと縮小するとの予測があります。
これは供給網の混乱や中国国内のチップメーカーの台頭が要因です。
さらに、中国当局が「H20」の生産を停止するよう国内業者に指示したことにより、 エヌビディアはTSMCやSamsung、Amkorなどの供給パートナーに対して 生産中止を求める対応に追われました。 CEOのジェンセン・ファン氏は、H20にセキュリティ上のバックドアはないと主張していますが、 中国側の懸念は根強いままです。

新たな製品戦略と政治外交の動き
エヌビディアは中国市場向けに新たなチップ
「Blackwell RTX Pro 6000」の中国仕様モデルを
2025年9月にも投入予定です。
高帯域メモリなどの先進的機能を削除して輸出規制に対応しつつ、
現地需要に応える戦略です。
また、ファンCEOは北京を訪問し、 李強首相や何立峰副首相と会談するなど、 外交面でも中国市場へのコミットメントを強化しています。
非公式流通と法的リスク
報道によれば、米国の輸出規制が強化された後も、
中国には1,000万ドル以上相当のエヌビディアAIチップが
不正に持ち込まれており、
いわゆる“ブラックマーケット”を通じた流通も確認されています。
エヌビディア側は法令遵守を主張しているものの、
規制回避の動きは依然として存在します。
コラムまとめ
項目 | 内容 |
---|---|
H20販売停止と許可復活 | 米国政府との交渉により一部販売再開。ただし中国機関での利用は制限。 |
売上・シェアへの影響 | 2025年には中国市場シェアが66%から54%へ低下予測。 |
新製品投入と外交対応 | Blackwellベースの中国仕様チップを投入。CEO自ら中国政府首脳と会談。 |
非公式流通の実態 | ブラックマーケットを通じたAIチップ流通が続く。 |