パウエル議長が語る“苦渋の利下げ” 米経済に迫る二重リスク
2025.09.19
米FOMC、0.25%利下げを決定――背景・要旨・市場の反応
米国金融当局はFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利下げを決定。利下げを決定したFOMCの声明の要旨は下記の内容となっています。
声明原文のポイント[要旨]
最近の経済指標は年前半の経済活動の伸びが緩やかになっていることを示しています。雇用の伸びは減速し、失業率は小幅に上昇したものの依然として低水準にあります。インフレ率は上昇し、やや高い水準で推移しています。
FOMCは最大雇用とインフレ率2%を長期的に達成することを目指しています。経済見通しに関する不確実性は依然として高い水準にあります。FOMCは2つの責務の双方に対するリスクに細心の注意を払い、雇用の下振れリスクが高まったと判断しました。
目標達成を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0.25%引き下げ、4〜4.25%とすることを決定しました。FF金利の目標レンジのさらなる調整の程度と時期を検討する際、FOMCは入ってくるデータ、進展する見通しおよびリスクのバランスを慎重に評価します。
FOMCは国債、機関債、住宅ローン担保証券の保有額を引き続き削減します。また、雇用の最大化を支援し、インフレを2%目標に戻すことに強く注力します。
- 金融政策の適切なスタンスを評価する上で、経済指標が見通しに与える影響を引き続き注視します。
- 目標達成を妨げる可能性のあるリスクが出現した場合、金融政策のスタンスを適宜調整する用意があります。
- 労働市場の状況やインフレ圧力とインフレ期待、金融および国際情勢に関する広範な情報を考慮に入れます。
パウエル議長の会見要旨
記者会見でのパウエルFRB議長は、利下げを決定した理由として「労働市場に軟化の兆しが強まっている」ことをあげ、「労働市場は軟化し、最近の雇用創出ペースは失業率の安定維持の水準を下回っているようで、労働市場が堅調とはもはやいえなくなった」と述べています。
また高インフレと雇用の減速が同時に懸念される状況を「極めて異例」と繰り返し、高関税政策が進むなかでの利下げが苦渋の選択であることを強調しました。 米国の経済と物価の先行きは極めて不透明な状態が続いています。
今回の利下げによってやや金融引き締め的なスタンスを緩めることになり、物価が高止まりすることへの懸念があります。パウエル議長は企業が関税コストを商品価格に転嫁する動きが「今年後半から来年にかけてさらに拡大していく」との考えを示し、こうした物価の押し上げは一時的というのが基本シナリオだとしつつも、より持続的になる可能性もあるとし、引き続き警戒する姿勢も示しました。
さらに「2つのリスク(雇用と物価)を抱えており、リスクのない道筋は存在しない。政策決定の上で極めて難しい状況にある」と訴え、今回の利下げ決定を「リスク管理のための利下げと捉えることができるだろう。労働市場へのリスク像が大きく変わった。雇用指標の修正値と新規データは労働市場が明らかに減速していることを示した。政策決定においてこの点を考慮すべき時期が来ていることを示唆している」と述べています。
経済見通し(SEP)と市場の初期反応
また今回の会合で行われた四半期経済予測では、年内に2回の利下げを予想しており、2026年と2027年にも1回ずつの利下げを行う予想となっています。
金融市場では、今回の利下げが予想通りであったことから比較的冷静な反応を示した動きとなりました。株式市場はまちまちでNYダウ平均は+260ドルでしたが、S&P500は-6、NASDAQは-72でした。債券市場もやや軟調で米国10年国債の利回りは4.09%へ上昇しました。このような動きは事前に言われていた「噂で買って、事実で売る」パターンと示しているようです。市場関係者の多くは、材料出尽くしを意識し、しばらくは様子を見るような調整場面が続くとみています。

政策の枠組みと今回の位置づけ
FF金利の誘導目標レンジとは
FF金利は、米銀同士が超短期で資金を融通する際の実効金利で、FRBは公開市場操作とバランスシート運営を通じてこの金利が目標レンジ内に収まるよう調整します。 今回の0.25%引き下げは、過度な引き締めが実体経済に与える下押し圧力を和らげる「微調整」の性格が強く、同時に「データ次第」の姿勢を明確化した点が重要です。
バランスシート縮小の継続が示すもの
FRBは利下げと同時に、保有する米国債・MBS等の償還による保有残高の縮小(量的引き締め:QT)を続ける方針を維持しました。これは「政策金利はやや緩める一方、流動性は計画的に通常化する」という二層の政策運営で、インフレ抑制へのコミットメントを残しつつ、景気急減速リスクに配慮するバランス志向といえます。
関税とインフレの波及経路
- 輸入コスト上昇 → 企業の原価押し上げ → 価格転嫁が進むとコア財インフレに上振れ圧力。
- 消費者の実質購買力を圧迫し、需要が減速すれば、物価上昇圧力は時間差で弱まる可能性。
- 転嫁の広がり方・持続度は業種別の価格決定力や需給バランスで異なり、データ確認が不可欠。
今後のチェックポイント
- 雇用:非農業部門雇用者数の3ヵ月平均、失業率と労働参加率、時間当たり賃金の伸び。
- インフレ:コアPCE・サービスインフレの基調、住居・非住居サービスの粘着性。
- 金融環境:長期金利やクレジットスプレッド、家計・企業の与信動向。
- 国際要因:関税政策、為替動向、主要国の景気指標(PMI等)。
投資家・企業への示唆
- 金利感応度の高い領域:住宅関連、耐久財、グロース株のバリュエーションは金利経路に敏感。シナリオ別にデュレーションやヘッジ方針を整理。
- 価格転嫁力の見極め:関税環境下では、サプライチェーンの再設計や現地調達比率の引き上げが収益耐性を左右。
- データ依存の意思決定:FOMCの「次の一手」は指標次第。固定観念ではなく、更新されるデータにあわせた機動的運用が重要。