利下げでも市場は冷静?FOMCの判断とパウエル発言が示す次の一手
2025.10.30
FOMCの決定概要(2025年10月29日)
10月29日(水)、FOMC(米国連邦公開市場委員会)は定例会合で主要政策金利であるフェデラルファンドレートを0.25%引き下げることを決定しました。また、10月14日の講演で示唆していた量的引き締め(QT)と呼ばれるバランスシートの圧縮(具体的な償還に伴う保有証券の減少)を12月1日で終了すると明らかにしました。
利下げとQT終了の背景
今回の追加利下げについての見通しは、以前から高い確率で織り込まれていました。QTの圧縮についても事前に示唆されていたため、市場は冷静に受け止めています。現在、米国の経済活動は緩やかではありますが拡大を続けており、インフレ率は年初から上昇し高い水準で推移しています。失業率は上昇したものの依然として低い水準にとどまっていますが、最近は雇用の下振れリスクが高まったと判断されています。金融当局は政府機関の一部閉鎖によって主要経済指標の発表が停止するなかで、雇用が直面するリスクに対応したものとみられます。
QT終了は、中央銀行のバランスシート縮小ペースを止めることで、金融市場からの流動性吸収が和らぐ可能性があります。一方で、利下げは実体経済に時間差をもって波及するため、短期的な市場反応と中期的な景気動向が乖離することもあります。
パウエル議長の会見の要点
会合後の記者会見で、パウエルFRB議長は12月の会合での利下げについて「FOMC内で意見が大きくわかれた。金融政策はあらかじめ決められたコースをたどるものではない。不確実性が高い状況下では、今後の動きに慎重な姿勢が求められる」と述べ、市場がほぼ織り込んでいた追加利下げを牽制しました。さらに「FOMCの一部では『いったん立ち止まり、労働市場に本当に下振れリスクがあるのか、また現在の経済成長が本物なのかを見極める時期に来ている』との見方がある」とも話しています。
「金融政策はあらかじめ決められたコースをたどるものではない」「不確実性が高い状況下では、今後の動きに慎重な姿勢が求められる」
この発言は「データ依存(data-dependent)」姿勢の再確認であり、次回会合までの雇用・インフレ指標の結果次第で政策の方向が左右されることを示唆しています。
市場反応と関係者の見方
米国金融市場では、パウエル議長の発言を受けて債券市場で利回りが上昇し、株式市場は小安い動きに転じました。市場関係者は「FOMCの投票権を持つメンバーのうち、追加利下げを支持していない人が複数おり、議長はメンバーの多くの意見を反映させようとした」とみる一方で、「市場の織り込みと異なる行動を取る場合に備えて、大きなサプライズとならないよう準備をしたのだろう」との見方も出ています。
会合直後の金利上昇は、期待されていた「連続利下げ」観測の後退を反映した動きといえます。イールドカーブの変化は、景気減速懸念と政策見通しのせめぎ合いを映し出し、セクター間のパフォーマンス差にも波及しやすい局面です。
政策環境と不確実性
FRBは物価の安定と雇用の最大化という2つの責務を担っており、現在はトランプ大統領による関税政策や移民政策の影響が大きく、情勢の分析が難しい状況です。さらに政府機関の一部閉鎖に伴う主要経済指標の欠如が不確実性を増幅させています。意思決定に必要なデータが不足しているためです。
データ空白期には、FRBは企業景況感や民間の高頻度データ、ベージュブックなどの定性的情報も参考にせざるを得ず、政策判断の幅が広がる一方で予見可能性は低下します。
次回(12月)会合までの注目点
12月のFOMC会合に向けては、金融当局にとってインフレ及び雇用関連データがすべて揃うかどうかが焦点となります。データが出揃えば、FOMCメンバーはインフレと労働市場のリスクについてより明確な見解を持って議論できます。それまでは金融市場が日々一喜一憂する展開が続くとみられます。12月の利下げに不透明感が生じたことで金利が高止まりする可能性もあり、リスク資産市場では金や銀、暗号資産への影響が注目されます。支援材料が得られない場合は上値の重い展開が続くかもしれません。株式市場ではQT終了によって市場からの資金吸収がなくなることを歓迎する動きがみられる一方、第3四半期決算を踏まえた今後の見通し判断は難しい局面です。
チェックリスト
- インフレ関連:消費者物価、PCEデフレーター、インフレ期待の動向
- 雇用関連:非農業部門雇用者数、失業率、平均時給、求人・離職動向
- 金融環境:クレジットスプレッド、融資態度、家計・企業の金利感応度
- 需給・需要:小売売上・個人消費、ISM/PMIなどの景況指数
これらの指標は、インフレの粘着度と労働需給のバランスを同時に評価する上で有効であり、12月会合の議論の前提となります。
リスク資産・株式市場への示唆
今後の約2ヵ月間で、トランプ政権の関税政策、減税政策、暗号資産政策などがどのように実を結ぶかが注目されます。
金利が高止まりする局面では、バリュエーションの高い成長株はディスカウント率上昇の影響を受けやすく、一方でディフェンシブ銘柄や配当株、金などの実物資産、一部コモディティが選好されやすい傾向にあります。暗号資産は政策ヘッドラインに敏感に反応するため、ボラティリティ管理が重要です。
まとめ
今回のFOMCは、0.25%の利下げと12月1日のQT終了という「支援的だが慎重な」メッセージを発しつつ、12月の追加利下げをデータ次第としました。会見での牽制もあり、市場は「連続利下げ」観測をいったん見直し、金利は上昇、株式は小安い展開となりました。次回会合までの各種指標の動向と政策面の不確実性の解消度合いが、年末相場の方向性を左右するとみられます。