米中貿易戦争が再燃!レアアース規制と100%関税の衝撃
2025.10.17
米中貿易摩擦の最新局面:レアアース規制と高関税を巡る攻防
米中貿易摩擦ではベッセント米国財務長官が今月15日、中国が9日に発表したレアアース(希土類)輸出規制の先送りを条件として、高水準の対中関税を長期にわたり適用停止とすることを提案しました。
その後の記者会見で、トランプ大統領は「米中が通商合意に至らなければ、持続的な貿易戦争に突入するのではないか」と問われ、「今まさにそのさなかにある」と答えました。米中両国が増益戦争のさなかにあると明言した形です。
米中は現在、最高で145%に上る高関税を90日間停止することで合意しており、停止期限である11月に迫っています。そこへ9日に中国商務省がレアアースに関するあらたな輸出規制を発表しました。具体的には「海外における関連レアアース品目に対する輸出管理実施」と「レアアース関連技術に対する輸出管理実施」です。前者は中国国外の組織や個人が中国以外の国・地域へ中国原産などのレアアース品目を輸出する場合、中国商務部による輸出許可証の取得を義務付けています。後者は半導体やメモリーチップなどの生産・研究開発に関する品目の輸出を個別審査の対象とするもので、中国はこれまでにもレアアース輸出を厳格に管理してきましたが、あらたに5種類の元素を追加し、規制対象は合計12種類となりました。

トランプ大統領はこうした中国の動きに対抗し、今月10日に11月1日から中国に100%の追加関税を課すとともに、重要ソフトウェアの輸出管理措置を適用する意向を表明しました。「中国が非常に攻撃的な姿勢を示した」「中国が製造する製品だけでなく、中国が製造していない製品に対しても大規模な輸出管理を実施すると表明している」「これは国際貿易における道義的冒涜だ」と強く批判しました。
10日時点で米国は、中国に対し一部品目を除き、IEEPA(国際緊急経済権限法)にもとづき30%、通商法301条にもとづき25%の追加関税を課しています。仮に100%の追加関税が上乗せとなれば、対中国の関税率は多くの品目で155%程度に達すると見込まれます。
ベッセント財務長官は「米国は中国との対立激化もデカップリング(分断)も望んでいない」としつつ、「中国が信頼できない国であると判明すれば、行動を起こさざるを得なくなるだろう」と述べました。また、トランプ大統領が中国の習近平国家主席と会談する準備ができており、両国当局が会談設定に向けて作業を進めていることを明らかにしました。
今回の中国の行動は、自国の強さを誇示する意図なのか、あるいは交渉上の立場が弱いと判断した上での対応なのか。いずれにしても中国は現状を分析した上で、今後の本格的な貿易戦争に備えていると考えられます。
両国のトップ会談による関係修復と通商交渉の決着に向けた動きが強まることを期待したいです。
直近の主な動き
10月9日:中国によるレアアース輸出規制の発表
- 「海外における関連レアアース品目に対する輸出管理実施」:中国原産等のレアアースを第三国へ輸出する場合、商務部の輸出許可証が必要。
- 「レアアース関連技術に対する輸出管理実施」:半導体やメモリーチップ等の生産・研究開発に関する品目は個別審査の対象。
- 規制対象元素はあらたに5種類追加され、合計12種類に。
10月10日:米国の対抗措置の示唆
- 11月1日からの追加関税100%適用に言及。
- 「重要ソフトウェア」に対する輸出管理の適用意向を表明。
- トランプ大統領は中国の姿勢を「非常に攻撃的」と批判。
10月15日:ベッセント財務長官の提案
- 中国がレアアース輸出規制を先送りすることを条件に、高水準関税の長期停止を提案。
- 米中首脳会談の準備・設定に向けた当局間の調整を示唆。
関税・規制の整理
現状理解を助けるため、本文に登場する関税・規制の構成を整理します(数値は本文の前提に沿った試算イメージです)。
区分 | 根拠 | 適用イメージ |
---|---|---|
追加関税 | 国際緊急経済権限法(IEEPA) | 30% |
追加関税 | 通商法301条 | 25% |
追加関税(対抗措置案) | 大統領発言にもとづく示唆 | 100% |
合計 | 重畳適用の説明にもとづく | 155%程度 |
※実際の適用はHSコード別・品目別・適用除外の有無・発効時期・法的手続き等により異なる場合があります。
IEEPA(国際緊急経済権限法)とは
IEEPAは、米国大統領が国家的非常事態に際し、対外経済取引の制限や資産凍結などを発動できる枠組みです。関税水準や輸出入規制を「緊急事態」対応として迅速に発動・拡張できるため、対外圧力のレバーとして使われます。
通商法301条とは
通商法301条は、米通商代表部(USTR)が相手国の不公正貿易慣行を調査し、是正が見られない場合に関税引き上げなどの対抗措置を取る法的根拠です。米中摩擦では知的財産保護や技術移転の問題と絡めて発動・拡張されてきました。
レアアースの戦略性
レアアース(希土類)はEVモーター、風力発電、半導体製造装置、先端磁石、触媒などに不可欠な素材群です。サプライチェーンが地政学の影響を受けやすく、輸出管理は交渉カードや安全保障政策として位置付けられがちです。今回の規制強化は、半導体・先端製造分野の技術覇権争いとも密接に関係しています。
各当事者の狙いと交渉ダイナミクス(分析)
- 中国:レアアース及び関連技術の管理強化は、短期的には交渉上の圧力、長期的にはサプライチェーン再編への影響力確保を狙う動きと解釈できます。
- 米国:追加関税と輸出管理の強化示唆は交渉再開に向けたテコであり、IEEPAや301条という強力な法的枠組みの存在が発動の信頼性を補強します。
- 市場・企業:レアアース規制や関税の再エスカレーションは、在庫確保、代替調達(再資源化・他国調達)、設計変更(代替材料・工程)などの事業判断を促します。
今後の注目ポイント
- 90日間の関税停止の期限(11月)までの動き:停止延長か対抗措置発動か。
- 規制対象元素の詳細・通達文言・適用開始日の確定:輸出許可の審査要件(技術的仕様・最終用途・最終需要者)を含む。
- 米国の輸出管理(重要ソフトウェア等)の対象定義とライセンス運用:再輸出・譲渡規制(deemed export)への波及。
- トップ会談の設定・成果文書:合意文言(英語・中国語)の差異、フォローオン(作業部会・タイムライン)の精査。
関係修復への期待とリスク管理
両国のトップ会談での関係修復と通商交渉の決着に向けた動きが強まることが期待されます。一方で、関税や輸出管理は政策当局にとって可変的なレバーであり、企業側は「規制のスナップバック(急転)」に耐える体制(複線調達、在庫ポリシー、法務・通関の即応)を平時から準備しておくことが重要です。