米国政府閉鎖で雇用統計も遅延!金融市場へのインパクトを徹底解説
2025.10.03
米国政府機関の一部閉鎖:概要
米国では2025年度会計年度が終了しましたが、年度末の9月末までにつなぎ予算が成立せず、米国の政府機関が一部閉鎖される事態が発生しました。ハンス副大統領は政府機関の閉鎖について「それほど長くはならない」と予想していますが、今回の件で対立するトランプ大統領と民主党のシューマー上院院内総務は、お互いに強硬姿勢を強めており、しばらくの間はこうした姿勢が続くとみられます。
米国政府機関の一部閉鎖による「米国国債の格付けに対して短期的には影響はない」とムーディーズ(Moody’s) や スタンダード・アンド・プアーズ(S&P) と並び「世界3大格付会社」のひとつであるフィッチは述べていますが、長期化することがあれば「財政の信認の重荷になる」と警告しています。
対立構図と交渉の不確実性
与野党の溝が深い場合、短期的な閉鎖であっても「いつ再開されるか不透明」という不確実性が残ります。市場は日次のヘッドライン(交渉進展・決裂)に反応しやすく、ニュースフロー依存の値動き(ヘッドライン・リスク)が高まります。
格付け・信認への影響メカニズム
フィッチが指摘する通り、短期の閉鎖自体は直ちに格付けに波及しにくい一方、長期化すれば「統治能力」と「財政運営の先行き」への疑念を通じて国債需要・タームプレミアムに上振れ圧力がかかる可能性があります。これは後述の経済統計の遅延と相まって、金融政策運営の不確実性を増幅します。
各政府機関の稼働状況
米国議会予算局によれば、一時帰休となる職員は約75万人とされていますが、政府機関の閉鎖の時期・期間や各機関の持つ残存資金などにより影響は異なります。閉鎖が長期化すれば資金の枯渇も発生し、状況は悪化すると考えられます。現在、各機関の対応は次の通りです。
- 国土安全保障省:国境警備、航空保安、不法移民取締などの重要業務は継続され、税関、国境警備局、運輸保安局、移民・税関捜査局、シークレットサービスも職員の大半が業務を続けます。
- 国防総省:約40万人のスタッフは戦闘任務、情報活動、核抑止力、医療活動支援のために残留し、現役部隊は全員任務を継続します。
- 国務省:大使館・領事館は業務を継続し、パスポートやビザの行政サービスは手数料収入で賄われます。職員の約3分の1が勤務しますが、大半の政策業務は活動を停止します。
- 労働省:労働統計局も閉鎖され、10月3日(金)に予定されている9月の雇用統計の発表が遅れます。
- 商務省:輸入品が国家安全保障に及ぼす影響に対処するために必要な業務を継続します。
- SEC(証券取引委員会):職員は維持され緊急業務を対応しますが、新規株式公開審査や企業提出書類の承認業務などの大半は停止します。
- CFTC(商品先物取引委員会):デリバティブ市場の監督に必要最小限の職員を配置しますが、業務の大半は停止します。
- FRB(米国連邦準備制度):金利収入や手数料収入で運営されているため、機関閉鎖はなく影響はありません。
影響が見込まれる主要経済指標
今回の機関閉鎖により影響を受けるとみられる経済指標は次の通りです。
- 新規失業保険申請件数:10月2日、9日、16日
- 雇用統計:10月3日(非農業部門就業者数、失業率、平均時給)
- CPI(消費者物価指数):10月15日
- 小売売上高:10月16日
閉鎖が長期化すれば影響を受けるものは増加し、閉鎖が解かれても統計の公表遅れは避けられない見込みです。
市場解釈:データ欠落と金融政策の不確実性
今週末の雇用統計公表は見送られるか遅れると考えられます。雇用に関しては、昨日発表されたADP雇用者数が参考とされています。その結果は民間部門雇用者数が前月比3万2000人の増加でした。これを受けて債券市場では米国債利回りが低下し、年内の利下げ予想も「2回の利下げ」が強まりました。
このように重要な経済指標が発表されないと金融政策などの決定過程に大きな影響が発生するため、金融市場への影響も多大になる可能性があります。すでに米国の政府機関閉鎖は避けられない状況ですが、早期の解決を期待したいと思います。
想定される市場シナリオ
- 短期収束:格付け・需給への影響は限定的です。不確実性低下でボラティリティは沈静化しやすいです。
- 長期化:統計のブランクが拡大し、FRBの「データ依存」姿勢が機能しにくくなります。国債のタームプレミアム上昇やクレジット・スプレッドのリプライシングが進むリスクがあります。
制度面の補足(理解を深める加筆)
シャットダウンの法的根拠と「必要不可欠」業務
米国の政府閉鎖は、歳出法案が失効した際にAntideficiency Act(歳出前倒し禁止法)の制約が発動することで、政府機関が法的に支出を伴う業務を停止せざるを得ないことに起因します。ただし、生命・財産保護や国家安全保障など「必要不可欠(excepted)」に分類される業務は継続されます。上記の国境警備、航空保安、軍の任務継続、FRBの運営(自己資金による)はこの枠組みに含まれます。
統計発表の遅延がもたらす二次的影響
経済統計の公表停止や遅延は、企業の業績ガイダンスや市場参加者のマクロ予測モデル(GDPナウキャストやインフレのトレンド推定など)にも影響します。結果として「誤差の大きな代替データ」への依存が高まり、政策や市場の判断が短期的にぶれやすくなります。投資家は公式統計の再開後に一時的な「リビジョンの波」を想定しておく必要があります。
実務・投資家の留意点
- ポートフォリオ管理:イベントドリブンなボラティリティ上昇に備え、流動性の確保とヘッジの有効性(特に金利感応度)を再点検します。
- マクロ指標の代替監視:民間調査、カード決済データ、高頻度の求人・採用指標などを補助的に活用します。
- 為替・金利:データ空白下では政策期待が先走りやすい一方、交渉ヘッドラインで反転も速いため、短期の過度な片張りは避け、シナリオ別の許容損失を明確にします。
まとめ
今回の政府機関閉鎖は、短期で収束すれば市場・格付けへの影響は限定的とみられる一方、長期化すれば「財政運営への信認低下」と「統計欠落による政策運営の不透明化」を通じて、金利・為替・クレジットに広範な波及が起こり得ます。交渉の進展と統計カレンダーの再設定を適宜確認しつつ、シナリオ別に備えることが重要です。