米国の関税政策、正式発表

日本時間4月3日(木)早朝、午前5時頃にトランプ大統領から米国の関税政策に関して正式な発表が行われました。

トランプ大統領による演説

トランプ大統領は発表を行う前に演説し「今日はアメリカ史上最も重要な日のひとつであると私は考える。経済的な独立の宣言であり、長年にわたって勤勉なアメリカ市民は、他国が富と力を手に入れる傍らで傍観を余儀なくされてきた。今こそ我々が繁栄する番であり、何兆ドルもの繁栄を実現し、その過程において何兆ドルもの減税と、国家債務の削減を行うことができる。今日の措置によって、我々はついにアメリカを再び偉大にすることができ、かつてないほど偉大な国にすることができる」と述べ、さらに「長い間待ち望んでいた、解放の日だ。2025年4月2日は、アメリカの産業が生まれ変わった日、アメリカの運命が取り戻された日、そしてアメリカを再び裕福にし始めた日として永遠に記憶されるだろう」と述べています。

自動車への追加関税を正式表明

関税に関しては、すでに内容が明らかになっていた輸入される自動車への追加関税について正式表明がありました。今後、すべての国からの輸入車を対象として、3日から25%の関税が上乗せされることになります。

関税が与える世界への影響

相互関税の導入と世界への影響

そして、トランプ大統領は世界の貿易相手国に対し相互関税を課すと発表しました。トランプ大統領がかねてより不公平だと不満を表明してきた世界の経済システムに対し、これまでで最大の圧力をかけていくことになります。各国の政府関係者や金融市場関係者の間ではトランプ大統領にとって関税は『交渉のカード』であり、実際には実行しないという「期待」がありましたが、そうした予想に反した結果となりました。

上乗せ関税率と対象国

相互関税の内容は、米国への全輸出国に基本税率10%を、そして対米貿易黒字の大きい約60カ国・地域を対象に上乗せ税率をそれぞれ適用するものです。ホワイトハウスが発表した上乗せの関税率は対中国が34%、EUは20%、日本は24%、韓国25%、台湾32%、カンボジア49%、ベトナム46%、インド26%などとなっています。

この中で中国の税率は、合成麻薬フェンタニルの米国への流入に関して先に賦課された20%の関税と合わせると合計54%になります。またカンボジアとベトナムの税率は、中国企業による両国からの米国への輸出を意識したものと考えられます。

適用除外品目について

一方、相互関税の対象から自動車・同部品はおおむね除外され、すでに25%の関税賦課の対象となっている鉄鋼とアルミニウムも相互関税を適用しないと発表がありました。金と銅も適用除外となっています。

関税引き下げの可能性と発効日時

トランプ大統領は貿易相手国に対し「自国の関税を撤廃し、障壁を取り払い、為替操作を行わない」よう促し、他国が米国の輸出を支援する措置を講じれば、関税率の引き下げを検討する意向を示唆しています。

今回発表された相互関税について、基本税率の10%は米国東部時間5日(土)午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)、上乗せ税率は9日(水)午前0時1分(同日午後1時1分)に適用されます。

市場と専門家の反応

この発表を受けて、BCAリサーチのチーフストラテジスト、マルコ・パピック氏は「これが政策として維持されるなら、世界が恒久的に脱グローバル化されるという新たな現実が定着するだろう」と述べ、「株式市場の調整期間に何らかの形のリセッションが伴うのはほぼ確実であり、今後、株式市場がもっと下振れすることは明らかで、さらに10%下落する可能性は十分にある」と予想しています。

また米大手投資銀行ゴールドマン・サックスは、発表が行われる前にトランプ政権による関税引き上げが米国経済に与える影響を再評価し、景気後退に陥る確率を従来の20%から35%に引き上げていました。ただ、CNBCによるとこの再評価では関税率の前提を15%としており、エバコアISIが試算した加重平均関税率は29%となっていますので、景気後退確率はもっと高くなると考えられます。

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日本経済と株式市場への影響

GDPへの影響と主要輸出品目

今回の相互関税による日本への影響を考えてみると、自動車関税の影響については、日本のGDPが0.2%程度押し下げられるという試算もあります。昨年1年間の実質GDPの伸び率が0.1%でしたので、自動車関税による影響は、日本の1年間の経済成長を帳消しにしてしまうほどの大きな影響があります。

相互関税の対象となる具体的な品目はわかっていませんが、自動車以外のアメリカへの輸出品は、建設用機械や鉱山用機械、光学機器、半導体製造装置なども多く輸出されています。また最近では、食料品や農水産物の輸出も伸びてきていますので、相互関税によって、こうした品目にも影響が及ぶ可能性があり、日本経済にとってさらに大きな打撃となると予想されます。

国内株式市場の反応

4月3日の国内株式市場は、トランプ大統領による関税政策の発表を受けて大幅安となっています。日経平均株価は午前中のザラ場で34,102円(-1,623円)の安値を付け、34,655.30円(-1,070.57円)で午前の取引を終えました。

専門家の見解と市場の見通し

3日朝の国内株式関係者のコメントを見ると、

  • 野村証券・伊藤高志シニア・ストラテジスト:

    • 日経平均先物が大きく下がり、相互関税をプラス材料と捉える人はいないだろう
    • 事前の関税率の予想にばらつきがあった上、関税政策は複雑で正確な姿は予想できておらず、実際の発表にびっくりする市場参加者も多いだろう
    • 自動車など資本財が売られて日本株は全面安になるだろう
  • 三井住友DSアセットマネジメント・市川雅浩チーフマーケットストラテジスト:

    • 24%はなかなか大きい。今日(3日)はかなりリスクオフが強めの動きになるだろう
    • 日本以上に税率が高い国があり、株式市場は目先グローバルに景気が冷え込むとの見方を織り込むだろう
    • 今日(3日)の日経平均は先物の水準まで寄せるように下げていくだろう

このようなコメントですが、米国による関税の影響は国内企業の今期業績見通しに大きな影響を与えると考えられますので、今回の件を株式市場が株価に織り込んでいくにはしばらく時間がかかると考えられます。

また米国においても景気後退確率が高まり、インフレ懸念も一段と上昇すると思われますので、日米ともに企業業績、そして株価の行方については慎重に判断しなくてはならないと思われます。