トランプ大統領当選後の米国金融市場の変化

大統領選挙でトランプ前大統領の当選が決まってから、米国の金融市場では景気の先行きに対して楽観論が支配的な状況になっています。それまでは米国景気の堅調さが続くと見る楽観論と継続する高金利と根強いインフレを警戒し景気減速を考える慎重派が五分五分の展開となっていましたが、最近は慎重派の声は全くと言って良いほど何も聞こえない状況になってきています。

楽観的な人たち

株式市場の反応と主要指数の動向

米国株式市場では、11月5日の大統領選挙投票日からトランプ前大統領の優勢が伝えられ、株式市場を中心にリスクオンの姿勢が強まり、株式市場では先週から今週にかけて株式市場の主要3指数が史上最高値をさらに更新する動きとなりました。投票日前日の11月4日終値を起点とするとNYダウ平均は11月26日の終値までに3,065ドル上昇しています。上昇率は7.3%になっています。S&P500でも同日までに308ポイント上昇し、上昇率は5.4%です。NASDAQは若干異なる動きにはなりましたが、11月11日に高値を付け、1,118ポイント上昇し、6.2%の上昇率でした。

ビットコインが急騰するイメージ

暗号資産市場でのビットコインの大幅上昇

またリスクマーケットとして最も大きな動きを見せたのが暗号資産市場になります。代表銘柄のビットコイン(BTC)は11月4日の67,850ドル近辺から11月22日には99,000ドル近辺まで上昇しており、約31,000ドルの上昇、上昇率で45.8%を記録しました。

経済指標に見る米国経済の楽観論

消費者信頼感指数の上昇

11月26日に発表された米国調査会社コンファレンス・ボードの消費者信頼感指数11月は、2.1ポイント上昇し111.7となりました。この結果は2023年7月以来で1年4ヶ月ぶりの高水準となっています。最近のインフレの鈍化傾向、史上最高値を更新する株式市場、米国経済に対する楽観的な見通しなどから改善していると思われます。

個人消費とGDP改定値の発表

11月27日には、2024年第3四半期の米国GDPが発表されています。米国の7-9月期の実質国内総生産改定値は前期比年率で+2.8%で市場予想と一致しました。内容としては活発だった個人消費と事業投資が堅調に推移したと見られています。特に個人消費は市場予想の+3.7%には届きませんでしたが、+3.5%と今年最大の伸びを示しました。

家計債務のイメージ

家計債務の拡大と低所得層への影響

住宅ローン、自動車ローン、学生ローンの債務増加

好調が続く消費ですが、今後に懸念とされる発表も11月14日に出ています。それはニューヨーク連銀が発表したもので、米国の家計債務が7-9月期に過去最高を記録したというニュースです。所得の増加で負担に耐えられる消費者は多いものの、低所得層では家計逼迫の兆しが見られているとの内容です。

住宅ローンや自動車ローン、クレジットカード、学生ローンの債務水準が増加し、7-9月の全体の家計債務は17兆9000億ドル(約2780兆円)となっています。全体として世帯の収入は負債を上回っていますが、若年層や低所得層はより厳しい状況にあると、同連銀の調査担当者は指摘しています。

返済延滞率の上昇とその懸念

ホームエクイティー・ローン(住宅価格からローン残高を差し引いた持ち家の正味価値を担保とする融資)を組む住宅所有者は10四半期連続で増え、ホームエクイティ-・ローンは3870億ドルに拡大し、クレジットカード残高は240億ドル増加して1兆1700億ドル、口座数は過去最高の6億件に達しています。

自動車ローン残高は180億ドル増の1兆6400億ドル。学生ローン残高は210億ドル増えて、過去最高の1兆6100億ドルとなりました。全体の家計債務残高の70%を占める住宅ローンも過去最大を記録し、12兆6000億ドルになっています。

ニューヨーク連銀の経済調査アドバイザーを務めるドンフーン・リー氏は「家計債務は名目ベースでは増加し続けているが、収入の伸びは債務を上回っている。ただし、返済延滞率の高止まりは多くの家計が抱えるストレスを明るみにしている。」と述べています。

ニューヨークの交差点

今後の米国経済の懸念材料

雇用統計と消費への影響

また11月1日に発表されている10月の米国雇用統計では、非農業就業者数が前月比12,000人しか増えませんでした。この結果に対して市場は、ハリケーンやストライキの影響によるものとして大きく取り上げる事はありませんでしたが、人材派遣の雇用者や労働時間が減少している状況もあり、今後の雇用状況の悪化が気になるところとなります。雇用の悪化は、債務の支払いはもちろんとして消費全体へも影響することになります。

財政悪化とインフレ長期化のリスク

トランプ新政権による堅調な景気の期待は強く、米国金融市場全体の楽観論を強めていますが、声が聞こえなくなっている財政悪化の問題やインフレの長期化など懸念材料は多くあり、米国経済の先行きには十分に留意をしながら臨んでいただきたいと思います。