日本銀行の政策転換が与える影響

 3月19日(火)日本銀行は長年続けてきた大規模異次元金融緩和政策を転換しました。具体的には「マイナス金利政策の解除」「長短金利操作(イールド・カーブ・コントロール/YCC)の撤廃」「ETF等のリスク資産の新規買い入れの終了」が決定されました。

マイナス金利政策は2016年2月から、「長短金利操作」は2016年9月から、そして「ETF等のリスク資産の買い入れ」は2010年から開始され長い期間にわたって継続されてきました。これらの政策は従来の金融緩和政策とは異なり、中央銀行が債券市場、株式市場へ積極的に介入し資金を供給することにより積極的に超金融緩和と言われる次元を創出しようと実施されてきました。

 しかし、これらの政策は実施期間が長期化するにつれて次のような問題点も指摘されるところとなりました。

マイナス金利政策とは?

 「マイナス金利政策」は、日本銀行が金融機関から預かる当座預金を「基礎残高」「マクロ加算残高」「政策金利残高」に区分し、付与する金利水準をそれぞれ「0.1%」「0%」「マイナス0.1%」とし、当座預金の一部の金利を「マイナス金利」とするものでした。

この政策の考え方は、「政策金利残高」に区分された当座預金は「マイナス金利」として金融機関が日本銀行へ金利を支払うことになり、『当座預金で金利を支払うなら、貸出に資金を回す』ことになるとの考えでした。しかし貸出の伸びない地方銀行では政策金利残高の当座預金の残高が発生していました。そのため、発生した支払い利息により金融機関の経営を圧迫するとの意見が出ていました。

 日本経済イメージ

 「長短金利操作」では、日本銀行が長期金利水準を抑えるために積極的に市場に介入して国債を買い入れたため、長期金利の安定には寄与しましたが、債券市場の機能が低下する結果を招きました。また金融政策は短期金融市場を中心に行われていましたので、長期金利への介入により、金融政策が複雑化する形となりました。ちなみに昨年末時点での日本銀行の国債保有残高は約585兆円で発行残高の約48%となっています。

 「ETF等リスク資産の買い入れ」では、株式市場が大きく下落する時に日本銀行の買い入れが入ってくることから株式市場の安定化に繋がりましたが、企業業績を評価して価格が決まる株式市場の基本的な在り方をゆがめるものとなり、株価形成にゆがみが発生しました。また業績に関係なく株価が安定することから企業のガバナンスにも影響がでる形となりました。こちらの残高2024年2月末で簿価約37兆円にたいし、時価約70兆円となっています。

 今回の日本銀行の決定により、これらの問題点が一掃されることになります。

日本経済イメージ

 また国内経済面では、これまで超低金利時代が長期化したことにより、本来なら本業の利益で借入金の利払いや返済が出来ない不採算企業が淘汰されず、「ゾンビ企業」として残ってしまうという産業の新陳代謝が遅れる事態も多く発生することとなりました。

今後の日本経済への影響

 今回の政策転換により「金利が復活する」こととなり「企業が労働力や投資資金を成長分野へ再配分する契機となる」と考えられ、日本経済の構造改革へ繋がる可能性が期待されています。

 一方、個人への影響を考えてみると金融機関での預金やローンの金利が上昇する事が考えられます。預金金利の引き上げは、預金者にとって運用上での大きなメリットとなります。 かたやローン金利の上昇は、特に住宅ローン金利への影響が考えられます。住宅ローン金利の多くは変動金利型となっており、その仕組みは短期プライムレート(1年未満の貸出基準金利)に一定の幅をのせた水準となっています。

 ただ今回の日本銀行の決定では、短期プライムレートの引き上げがおきにくくする内容となっています。具体的には①「無担保翌日物金利を0-0.1%程度で推移するよう促す」として翌日物金利が0.1%を大きく超えて上がる展開にはなりにくくしています。また②今回の声明文で「緩和的な環境が継続すると考えている」と示され、過度の金利先高観の拡大を防ぐかたちを見せています。

 また全国銀行協会の加藤勝彦会長(みずほ銀行頭取)が「マイナス金利解除でも必ずしも短期プライムレートが上がるという事ではありません」とコメントしています。

 植田日本銀行総裁は、今後の追加利上げの条件として「基調的な物価上昇率がもう少し上昇していくこと」と発言しています。

 当面は金融緩和的な比較的低い金利水準が続くと考えられ、その間に個人は徐々に金利ある世界への対応を備える事がポイントと思われます。また企業が積極的な投資などを行い企業利益が増加していくようになれば日経平均株価で4万円台へのせた株価もさらに上値を指向できるかもしれません。