FRBの利下げとパウエル議長の今後の展望

米国では金融当局による0.5%の利下げが行われましたが、30日、ナッシュビルで開かれた全米企業エコノミスト協会(NABE)の年次会合で、パウエルFRB議長が今回の利下げおよび今後の考え方について講演を行いました。

パウエル議長のイラスト

パウエル議長の発言:金融政策の方向性

パウエル議長は「この先、経済がおおむね想定通りに進展すれば、政策は時間とともにより中立のスタンスへと移行するだろう」と語り、「われわれはあらかじめ定まった道を進んでいるのではない」とし、政策当局は今後も入手するデータに基づき、会合ごとに判断を下していくと説明しました。今回の発言では、今後の利下げ幅とそのペースに関する具体的な答えは避けられましたが、金融政策はデータドリブンで柔軟に運用されることが強調されました。

特に重要なのは、今回の利下げが2020年以来の0.5%という大幅なものであり、従来の動きよりも規模が大きい点です。FOMCでは「減速する労働市場のさらなる悪化を防ぐことが目的」と説明していますが、この点に関して、パウエル議長は「労働市場は底堅い」としながらも、状況は「この1年で明らかに冷え込んでいる」と述べています。

インフレ抑制から労働市場重視への変化

パウエル議長は「2%というインフレ率を達成するために、労働市場の状況がさらに冷え込む必要はないと考えている」と語り、今回の利下げがインフレ抑制という従来の考え方から労働市場を意識したものへと変化していることを改めて説明しました。

一部の当局者からは「労働市場に深刻な軟化の兆候が見られれば、再度大幅な利下げが正当化される可能性がある」としており、さらなる利下げの余地が残されていることが示唆されています。

米国の地図の写真

労働市場のデータと今後の雇用統計

今週末、10月4日(金)に米国の雇用統計が発表されます。すでに今週はJOLTS求人件数とADP雇用者数の発表が行われ、異なる結果が出ています。JOLTS求人件数では、予想の769.3万件を大きく上回る804万件となり、32.9万件増加しましたが、採用件数は531.7万件と9.9万件の減少となり、雇用の軟調さが見られます。一方、ADP雇用者数は予想の12.5万人を上回る14.3万人と発表され、民間の雇用が順調であることが示されました。

これら2つの発表は労働市場に関する相反する結果を示し、労働市場の方向性を見るのは難しい状況です。現時点での見方では、米国雇用統計の発表で失業率が若干横ばいとなる可能性が指摘されています。

失業率の推移と景気後退のリスク

米国の失業率は昨年5月の3.4%という結果が最も低い水準でしたが、今年6月以降の失業率は4%台に乗り、7月は4.1%、8月は4.3%、9月は4.2%という状況です。大底の3.4%から既に大きく上昇しており、36ヶ月の平均値からの上昇幅も0.5%を超える水準です。これにより、一部のエコノミストからは、景気後退が現実的に近づいているとの見方が強まっています。

パウエルFRB議長が目指している「景気のソフトランディング」が実現するかどうかは、今後のデータ次第であり、特に今週10月4日(金)に発表される失業率の結果が、今後の金融政策の判断に大きく影響を与えることになるでしょう。