はじめに:ミームコインとETFという組み合わせの衝撃

米REX SharesとOsprey Fundsが2025年9月4日、ドージコイン(DOGE)の現物ETFである「REX-Osprey DOGE ETF(ティッカー:DOJE)」の目論見書を米SEC(証券取引委員会)に提出した。近日中の上場が見込まれており、実現すれば米国初のドージコイン現物ETFとなる見通しである。ブルームバーグのETFアナリスト、エリック・バルチュナス(Eric Balchunas)氏は、9月4日時点で「来週のローンチが濃厚」と指摘しており、まもなく取引が開始される予定だ。

今回提出された目論見書では、ドージコイン現物ETF以外にもXRPやBONK、TRUMPといった暗号資産(仮想通貨)を対象としたETFの設定が明記されており、ミームコイン銘柄のETF商品が今後拡充する可能性が示唆されているといっても良いだろう。市場の裾野が拡がる意義は大きい一方、価格変動性や規制上の不確実性など、投資家が直視すべき論点も多い。

DOJEとは何か:構造・申請状況・最新動向

DOJEの申請内容と上場スケジュール

DOJEは米国市場における初のドージコイン現物ETFを標榜する商品である。2025年9月4日の目論見書提出を経て、近日中にも上場が見込まれる。これは投資家が証券口座からDOGE価格に連動した投資成果を得られることを意味する。ETFというパッケージを通じてミームコインにアクセスできるという点は、個人投資家にとっても機関投資家にとっても利便性の高い選択肢となる。

ETFの構造と投資対象

DOJEはケイマン諸島に設立した子会社を通じてドージコインに投資する仕組みであり、現物のDOGE価格に連動する投資成果を投資家に提供する。必要に応じて地域の暗号資産ETP等を活用する柔軟性も持たせる設計で、ETFの器を用いてETP的な現物エクスポージャーを取りにいく構造になっているようだ。こうした間接保有の形式は、保管や会計、税務、規制適合の観点で運用精度とリスク管理のバランスを図る狙いがある。

先行事例としてのソラナETF

REX SharesとOsprey Fundsは2025年7月にソラナのステーキング報酬付きETF(ティッカー:SSK)を上場させた実績がある。ソラナの現物+ステーキングETF(SSK)は、わずか2週間足らずで運用資産1億ドル規模に達する成功を収めた。暗号資産の利回りを組み込んだこのETFは主流の投資家層からも支持を得たと評価され、ミームコインETFにも潜在的な市場ニーズが存在することを示唆している。

DOJE

1940年法・ETP・19b-4など:法制度上の「抜け道」とは何か

ETFとETPの違い

米国で流通しているビットコイン現物ETFは、法的には1940年法のETFではなく「ETP(商品信託型)」に該当する。名称にETFと付く銘柄もあるが、実体は証券法(1933年法・1934年法)ベースのグラントor法定信託で、各取引所の19b-4規則改定承認を経て上場している。多くのコモディティ型や暗号資産の現物商品は、上場取引所が19b-4という個別のルール変更申請をSECに出し、承認を得てから上場する。これは商品ごとに審査・承認が要るため、時間もかかるし不確実性も大きい。

1940年法ETFの枠組み

一方で、ETFは1940年法の投資信託である。フォームN-1Aで登録し、一般基準を満たせば個別の上場規則改定なしで上場しやすい。REX-Ospreyは証券法ではなく投資会社法(1940年法)にもとづくファンドの枠組みを利用し、規制当局の正面からの承認を経ずにETF設定に漕ぎ着ける戦略を取った。これはソラナETFの事例でも用いられ、「規制の抜け道」とも評されている。

DOJEの法的ポジショニング

「DOJE」の例でいえば、本体ファンドとケイマン諸島に存在する子会社経由でDOGEにエクスポージャーを取る、あるいは一部を地域の暗号資産ETP等に配分する組み合わせで1940年法の枠内に収め、ETFの器で現物連動の投資成果を提供しようとする。結果として、従来の19b-4承認ルートよりもスピード感のある設定を目指せる可能性がある。ただし、こうした枠組みが長期的に認められ続けるかは、SECの執行や市場実務の積み重ね次第という側面もある。

ミームコインETFのメリット:投資家・市場双方にとって何が変わるか

アクセスの簡便化と投資家層の拡大

ウォレットの管理や取引所間の送金といった手間をかけずに、証券会社経由でDOGEの価格変動を踏まえた投資ができる。税務や管理の平易さ、特定口座等の既存インフラを活用できる点も、導入障壁を下げる効果がある。

透明性・規制下という信頼性の向上

1940年法のファンドとしての開示義務、監査、利害対立の管理、ボードの独立性といった枠組みが適用されることで、投資家は定期的な報告と管理体制を確認できる。暗号資産を直接保有するよりも、情報の可視化と運用のガバナンスが一定程度担保される。

市場多様化と資金流入の呼び水

ビットコインやイーサリアムからミームコインへとETFの対象が広がることで、市場はあたらしい投資テーマを得る。分散投資の選択肢が増え、機関マネーの一部が新領域へ配分される余地が生まれる。先行したSSKの事例は、適切な設計と訴求があればニッチな暗号資産でも受容され得ることを示した。

八木編集長FOCUS

ミームコインETFのリスクと懸念点

価格変動性と投機リスク

内在価値の評価が難しいミームコインは、SNSや話題性に起因する急騰急落が常態化する。ETFという器に入っても、基盤となる資産のボラティリティは変わらない。レバレッジがない分ダウンサイドが抑えられるわけでもないため、ポジションサイズ管理が最重要となる。

追跡誤差・コスト・構造的制約

ケイマン子会社経由の間接保有や、現金同等物・短期国債を併用する構成は、短期的な価格追随に微小な遅延や誤差を生む可能性がある。経費率も相対的に高くなりやすい。結果として、長期保有では手数料負担がパフォーマンスに影響する。

規制・法制度リスク

米SEC企業財務局は今年2月、「ミームコインの取引は証券の提供・販売に該当せず、購入者・保有者は連邦証券法による保護を受けない」との見解を示した。これはETFという形になっても基盤となる資産のリスクが消えるわけではなく、ETFだから安全とは限らないことを意味する。

カストディ・運用上のリスク

暗号資産の保管には高度なセキュリティが求められ、ハッキングや内部統制の不備といったオペレーショナルリスクが常につきまとう。子会社スキームを介した場合も、保管先の信用、保険の範囲、鍵管理の方法など、確認すべき事項は多い。

ほかのミームコインETFの可能性と参考事例

XRP・BONK・TRUMP等の展望

今回の目論見書では、先述の通りドージコイン以外にもXRPやBONK、TRUMPといった暗号資産を対象としたETFの設定が明記された。これにより、ミームコイン銘柄のETF商品が今後拡充する可能性が浮上した。ただし、各資産の市場規模、流動性、法的分類や監督当局のスタンスが異なるため、実現までのハードルや時間軸は銘柄ごとに差が出るだろう。

ソラナ「ステーキング付きETF」(SSK)から学べること

SSKは上場後、短期間で運用資産が1億ドル規模に拡大した。投資家が評価したのは、暗号資産の利回りというネイティブな特性をETFの器に落とし込んだ点だ。DOJEにステーキングはないが、発行体の商品設計力や運用・開示の姿勢は参照に値する。DOJEの売買動向や資金フローは、今後のミームコインETFの成否を占う先行指標となる。

まとめ:ミームコインはETFとして投資対象となり得るのかという判断と今後注視すべき点

ミームコインETF化の誕生そのものは市場の発展を示す一側面である。ビットコインからイーサリアム、さらにはミームコインへとETFの対象が広がることは、暗号資産が投資商品の裾野を広げつつある証拠だろう。投資家にとって選択肢が増える意義は大きい。一方で、内在価値の乏しいミームコインを公募ETFとして組成することに対しては、市場の健全性を疑問視する声も少なくない。極端なボラティリティを伴う資産を金融商品化することで、投機的バブルを助長し投資家に不測の損害を及ぼす懸念が指摘される。ミームコインETFが健全な金融商品の範囲に収まるかどうかは慎重に見極める必要があるだろう。

投資家が実務的に確認すべきポイントは明確だ。第一に経費率と追跡精度、第二に現物保有比率とデリバティブ利用の有無、第三にカストディの体制と保険、第四に上場市場の流動性とスプレッド、そして最後に規制の先行きである。これらを総合して、ポートフォリオのなかで許容できるリスク量にあわせた配分を検討したい。DOJEは、ミームコインを伝統的市場へ架橋する試金石であると同時に、暗号資産の本質的リスクを再認識させる鏡でもある。

米国初のドージコインETF、来週にも上場か

[Iolite記事]
米国初のドージコインETF、来週にも上場か