ビットコインとSECの戦い。ビットコイン現物ETF承認後の世界について
2023.09.13
ビットコインとSECの戦い
今回のメルマガでは、迫るビットコイン現物ETFの承認がなぜ業界から注目を集めているのかという題材を基礎的な部分から深掘りしていきたい。あまりに長すぎるとメルマガという枠を越えてしまうため、この題材については2週に渡り展開させていただく。また、金融のプロフェッショナルではないため、簡素化された表現方法をしている点はご容赦いただきたい。
米連邦控訴裁判所は8月29日、米SEC(米国証券取引委員会)が昨年、暗号資産(仮想通貨)運用大手のグレースケール(Grayscale)が提出したビットコイン投資信託をETF転換する申請を却下したことについて、見直すよう命じた。
ビットコイン現物ETF承認の時期が近づいていると考えられるため、改めてSECとビットコインの関係性を考察したい。ビットコインの現物ETFに追い風となるニュースも出てきた今だからこそ、SEC(米国証券取引委員会)とはどのような機関なのか、ビットコインETFとは何なのか、現物ETF承認の可能性と承認された場合にどのようなことが想定されるのかをまとめてみる。
SEC(米国証券取引委員会)とは?
そもそもSEC(米国証券取引委員会)とはどのような機関なのだろうか。SECはアメリカ合衆国における株式や公社債などの証券取引を監督・監視することを目的に設けられた市場監視機関である。1934年に設立され、投資家保護と公正な市場整備を行うほか、証券取引の法規範を管理しており、不正会計やインサイダー取引防止のために活動している。日本にもSESC(証券取引等監視委員会)という同様の機能を持った機関が存在し、金融庁に属する機関として活動している。
ビットコインETFとは?
ビットコインETFの前に、ETFがどのようなものであるか簡単におさらいすると、「Exchange Traded Fund」の略称で、上場投資信託のこと。株式や債券、商品などの複数の資産をバランスよく組み合わせ、株価指数などに代表される指標への連動を目指す投資信託だ。上場しているため、リアルタイムで価格は反映され、信用取引(レバレッジ取引)が可能なものもあるというのはETFの特徴ともいえるだろう。
本題のビットコインETFは、ビットコインの値動きに連動を目指したETFということだ。ビットコインETFについては、先物ETFと現物ETFの大きく分けて2つの分類で捉えると、より解像度が高く現状を把握できると思うのでそれぞれ説明したい。
ビットコイン先物ETF
ビットコイン先物ETFは、2021年10月19日に米国初のビットコイン先物ETF「プロシェアーズ・ビットコイン・ストラテジーETF(BITO)」が承認され、取引開始された。先物ETFであるため、あらかじめ決められた期日(限月)に事前に決められた価格で購入することができる。
先にあげた信用取引(レバレッジ)もビットコイン先物ETFの大きな特徴だが、厳密には、2023年6月27日に「Bitcoin Strategy ETF」、通称BITXを米国証券取引委員会(SEC)が承認したことによって信用取引が可能になった。
価格変動の影響を避けるための手段(リスクヘッジ)として利用することもできるが、一方で株式取引のように、投資資金に対する元本の保証はされていないことや、長期目線の方向性はあっているものの一時的な価格の変動によってロスカット(強制決済)されてポジションがなくなり追証(追加証拠金)が必要となるというリスクは存在する。
ビットコイン現物ETF
先にあげたビットコイン先物ETFとビットコイン現物ETFには大きく3つ違いがある。
- 裏付けのビットコインがあるかないか
- 利益に対する税制度(日本)
- 承認されているかどうか
それぞれの要素をみてみよう。
裏付けのビットコインがあるかないか
まず現物の取引であれば、手元資金以上に損失が起こることがないというのが大きな特徴であるが、ビットコイン現物ETFは上場投資信託となる。承認された国の証券取引所で取引が可能になり、現物のビットコインを裏付け資産として保有する取り決めである
ビットコインは有限のデジタル資産とされているため、より大きな資金が流動している証券の市場で取引が可能になることによって、必然的に購入される機会は増え、現物のビットコインも買われる可能性は大いに考えられる。
利益に対する税制度(日本)
また、利益に対する税金の取り扱いが異なる可能性がある。日本の税制上、ビットコインの現物に投資して得た利益は雑所得とされる。ビットコイン先物ETF及び現物ETFに投資して得た利益は、株式や投資信託と同様、分離課税の譲渡所得となる可能性が考えられる。税率は20.315%である。
ビットコインの現物の場合、課税所得によって段階的に税率は異なるものの、売却して利益が出た際には最大で55%の税金が課される。加えて損失が出た場合は、株式や投資信託などとの損益通算ができない。しかし、日本国内でビットコイン先物・現物ETFの取引が可能となった場合には損益通算ができる可能性がある。
承認されているかどうか(米国)
ビットコイン先物ETFは、2021年10月にSECで承認されているが一方で、米連邦控訴裁判所が8月29日に、グレースケール(Grayscale)が提出したビットコイン投資信託をETF転換する申請を却下を見直すように命じたと冒頭記載したように、ビットコイン現物ETFは、投資家保護の観点から現時点では米国を中心に認められていない。(2023年9月4日時点)
ビットコインの現物ETFの何が投資家保護の観点で課題となっているのか
証券取引法は主に、「詐欺的及び操作的な行為、慣行を防止する設計」と「投資家及び公共の利益を保護する」仕組みの整備を求めている。つまり現物に投資するETFは、「1934年証券取引所法」の要件を満たす必要がある。よってSECは、証券取引法の定める要件を満たしていると証明できていないと述べ、ビットコイン現物ETFを承認してこなかった。
しかし、SECも闇雲に申請を却下している訳ではなく、ETF承認の条件としてETF上場先の取引所がビットコインを売買する規制市場との間で、不正防止に向けた「監視共有契約」を結ぶことを求めている。これがビットコイン現物ETFのボトルネックとして存在するようだ。
現物ETFと先物ETFがビットコインの価格に連動を目指す点では同じように見えるのに、なぜ承認されたのか。これは、先物ETFが「1940年投資会社法」に基づいて組成されているためというのがSEC側の主張のようだ。
今回のメルマガでは、現物ETFと先物ETFの違いとして認識している部分を簡単に記載させていただいた。次回のメルマガでは、ビットコイン現物ETFの申請についてと、承認されたときに想定されること。個人的な見解をメディアの編集長という視点から書きたいと思う。
[Iolite記事]
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