「日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と日本暗号資産取引業協会(JVCEA)は8月3日、共同で暗号資産(仮想通貨)に係る「2023年度税制改正要望書」を金融庁に提出したことを発表した。」

今週はこのニュースを解説する。

日本の暗号資産の課税制度は総合課税である。他の所得と合算した合計所得金額をもとに所得税の額を計算する方法。つまり、自身がいくら所得を得るかで税率が変わるというものだ。

数年前に100万円で買ったアルトコインが1億円になり「億り人」なんて言葉が流行った時代もあったが、勿論1億円ほどの利益を得れば最高税率55%(住民税含む)になってしまう。

当時は現金に交換(売却)しなければ課税対象にはならないというデマがネット界隈で拡散された為に、価値が上がった通貨を現金ではなくビットコイン等に交換した人が続出した。
だが実際は価値の交換を行った段階で利確(課税対象)となり、確定申告をして税金を支払わなければならないのだ。

その事実を確定申告時に知り、急いで納税資金を作ろうとするも、当時は前年度末の高値更新から市場全体が大暴落したタイミングだったので売却しても足りず、大変な思いをした方も一定数いただろう。
この出来事から暗号資産の課税は55%というマイナスなイメージと誤認が染み付いてしまったのだが、先に述べたように実際はそうではない。 

では諸外国の状況はどうだろうか?
暗号資産の利益に対して課税の無い国もあるが、先進国は概ね約20%というところだろうか。
日本だけが未だに累進課税を採用している。これでは利益を上げるほど税率も高くなるので投資家にとっては受け入れ難いものになってしまう。

では日本のweb3の発展と税制の因果関係はどこにあるのか?

Google Apple Facebook(現Meta)Amazonに代表されるGAFAと呼ばれるアメリカの巨大ITテック企業が所謂web2時代を独占してきた。

こうした背景からweb3では日本がグローバルで戦えるように「web3を国家戦略に」などと提言する有識者も増えた。
デジタル庁の社会推進会議や自民党のweb3PT、経済産業省大臣官房に「WEB3政策推進室」が設置されたり、web3は国策としても喫緊の課題になっているようにも思う。

例えばweb3スタートアップが100億円の資金調達をしたとしよう。この場合、プロジェクトの進行に関わらず、期末の含み益として30億が課税対象になってしまう。
税金は暗号資産では払えないので、保有しているトークンを切り売りするしかない。

ではトークン自体の価格が乱高下していたらどうだろうか?
どんなに素晴らしいスタートアップがあったとしても開発費の30%も税金で持っていかれたら健全な運営は不可能になってしまうだろう。
そのため、税率の優しい海外で挑戦するしか選択肢が無いのだ。そういう国に優秀な人材が集まり、逆に日本にとっては優秀な人材を失う事になる。

現行法が足枷となっているのは紛れもない事実。このような背景から、先に述べた業界団体などが提言を続けている。
因みに今回が初めてでは無い。彼らはこれまで幾度となく提言を続けてきた。

似たような過去の事例ではFX(外国為替証拠金取引)がある。
今でこそFXの利益は他の所得とは合算せずに単独で所得税の額を計算する方法である申告分離課税(20.315%)であるのは周知の事実だが、1998年に解禁された当初は総合課税、雑所得の扱いであった。

流れが変わったのは14年後の2012年。店頭FX取引も取引所FX取引も申告分離課税一本にまとめられたが、これにはFXという新参者が14年かけて一般に普及したという背景もあるだろう。

とりあえず実態の分からないものは雑所得へというのは国から見れば身分を勝ち得る為の登竜門という事なのだろうが、暗号資産自体の一般の認知はどうだろうか?

現在、国内取引所30数社合わせて保有口座が約300万と言われている。証券口座の約3000万口座と比べれば10分の1ほどだ。
まだまだ普及と呼べるには程遠い。

税率が変われば普及が加速するのか?
それとも広く普及したから税率が変わるのか?

投資家にとっても大きな注目を集める暗号資産の税制度。
偶然にもサトシナカモトがビットコインを世に出した2008年から数えて14年。
決着はいかに。