米国株式市場の調整シグナル

先週、ゴールドマン・サックス証券グローバルマーケット担当マネージングディレクター兼戦術スペシャリストのスコット・ルブナー氏が、「これまでの米国株式市場は企業の決算と投資家の資金流入に支えられていたが、24日から『調整ウオッチ』入りする」と警戒を示していました。

実際、米国株式市場はS&P500とNASDAQが2月19日(水)に終値で史上最高値を更新しましたが、20日以降調整色を強め始めています。

NYダウ平均は12月4日に45,000ドル台へ突入しましたが、今年に入ってからは同水準に踏み込む事ができず、頭の重い状態となっていました。

ルブナー氏はリテール投資家と機関投資家の買いが失速しているとして、「資金フローの力学は週明けに劇的に変化する。私は調整ウオッチに入っている」と20日付の顧客リポートに記していました。

金融市場の悪化のイメージ

米国金融市場と暗号資産市場の悪材料

米国金融市場ならびに暗号資産市場では、ここに来て頭の痛い材料、悪材料となるものが相次いでいます。

経済指標の発表では、12日(水)に米国消費者物価指数(CPI)1月が前年同月比+3.0%と、先月の+2.9%から4ヶ月連続の上昇および拡大となり、14日(金)の米国小売売上高1月が前月比マイナス0.9%と2024年1月以来の落ち込みとなりました。

さらに21日(金)にはS&P購買担当者景気指数(PMI)が総合で50.4と、前月の52.7から低下し2023年9月以来の低水準でした。特にサービス業が49.7となり前月の52.9から落ち込んだ事が響いています。

また同日発表のミシガン大学消費者信頼感指数は64.7で、低下を見込んでいた予想の67.8を下回る2023年11月以来の低水準でした。こうした経済指標の結果を受けて、すでに先週末から株価は変調を来たしていました。

インフレ懸念の高まりと経済減速

今週に入っても、コンファレンスボード(CB)消費者信頼感指数2月が98.3となり前月の105.3から7.0も下落し、予想の102.5も下回りました。この結果も2021年8月以来の落ち込みでした。

特に注目されたのは1年先のインフレ期待値で+6.0%と、2020年5月以来の高い結果を示したことです。先週末のミシガン大学消費者信頼感指数でも1年先のインフレ期待は+4.3%で前月の+3.3%から1%上昇していました。

このように直近の経済指標からは、FRBが懸念しているインフレ状況が消費者物価上昇率から見てくすぶり続けており、消費者から見たインフレへの懸念も高まりを見せています。さらに米国経済の減速感が、これまで牽引役でもあったサービス業や小売りで見られることがポイントになっており、世界の中で米国だけが好調を維持していた流れに変化が出始めたと考えられています。

暗号資産のセキュリティーリスクのイメージ

暗号資産市場への影響と貿易政策の変化

Bybitの大規模ハッキング

一方、暗号資産市場では、21日に暗号資産取引所のBybitで14億6,000万ドル(約2,200億円)規模のハッキングが発生し、世界に衝撃を与えました。

ビットコイン準備金法案の否決

また、米国の各州でのビットコイン準備金法案について5州(ノースダコタ、サウスダコタ、モンタナ、ワイオミング、ペンシルベニア)で否決され、期待が高まっていただけに失望感が広がっています。

このような多くの材料が提供されたことにより、金融市場ならびに暗号資産市場では悪材料に過度に反応しやすい状況になっています。

トランプ大統領の関税措置

27日にトランプ大統領はEUからの自動車などの輸入品に対して25%の関税をかけると表明しました。今後も他の国々に対して関税措置が相次ぐのではないかと思われるだけに、米国内での関税からくるインフレに対しての懸念はさらに高まると思われます。

金融当局の舵取りの難しさ

米国金融当局は、米国経済の減速に気をくばり、雇用にも目を光らせて昨年9月から政策金利を引き下げてきましたが、くすぶる物価上昇圧力から、その動きを止めています。経済指標からは景気の減速感が感じられていますが、物価の上昇が続くならば金融当局はインフレへの対応をしなくてはなりません。現在の米国内の状況は金融当局にとって非常に舵取りが難しくなってきています。

注目されるPCE価格指数

今週末28日(金)に金融当局が最も注目しているインフレ指標である個人消費支出(PCE)価格指数1月が発表されますので、この結果にマーケット関係者は注目することになります。その結果によっては、景気減速感から低下した長期金利に再度上昇圧力がかかることになります。それは株式市場、暗号資産市場にとって厳しいものとなります。

複数のモニターでトレードを監視する人々

市場の慎重姿勢と今後の展望

米国個人投資家協会が発表している今後6ヶ月間の相場についての調査で、強気に見ている人は29.2%と慎重な姿勢が広がっています。実際、冒頭に記したルブナー氏のコメントなどからさらに広がると思われます。

暗号資産市場の調整リスク

一方、暗号資産市場でも以前からビットコインの70,000ドル~75,000ドルへの調整を示唆していた暗号資産取引所BitMEX共同創設者のアーサー・ヘイズ氏が、今週に入ってからの暗号資産市場の下落を見て、今後の調整についてさらに声を大きくしています。

ヘイズ氏は以前から「過去のサイクルを見ても、強気相場の中でも健全な調整は不可欠であり、一時的な下落が大きな上昇の前兆となる」と主張していました。しかし、直近の市場環境では米国の経済指標の悪化や規制リスクの高まり、機関投資家の慎重姿勢などが相まって、今回の下落が単なる調整ではなく、長引く可能性も指摘されています。

さらに、21日にはBybitの大規模ハッキングが発生し、約14億6,000万ドル相当の暗号資産が流出。この事件が投資家心理に影響を与え、さらなる売り圧力を生んでいるとの見方もあります。また、米国の各州でのビットコイン準備金法案が否決されたことで、規制強化の流れが強まるとの懸念も広がっています。

こうした要因が重なり、暗号資産市場は投資家心理が弱気に傾きやすい状況となっています。ヘイズ氏は「これからの数週間が市場の方向性を決定づける分岐点となる」とし、特に週末の個人消費支出価格指数の発表が大きな影響を与える可能性があると警告しています。

ビットコインは依然として長期的な成長が期待される資産ですが、短期的な価格変動が大きいため、投資家はリスク管理を徹底する必要があります。市場の調整がどの程度の規模となるのか、引き続き慎重に見極める必要があるでしょう。

まずは、週末発表の個人消費支出価格指数の結果を見ていくことになりますが、各市場ともしばらく調整局面と考えた方が良いと思われますので、今後の価格動向には十分に注意をお願いいたします。