今月18日の米国FOMCで0.5%の政策金利引き下げが決定されました。

金融当局の積極的な対応を促すような明確な景気減速のサインはまだ点灯していませんでしたが、雇用統計は6日に発表された8月分を含めこれまで冷え込みが顕著となっており、労働市場へのリスクの高まりに備えるには、通常より大幅な利下げが必要だとパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は認識したと考えられます

米国FOMCによる利下げ決定の背景

そして11日と12日にそれぞれ発表された8月の消費者物価指数(CPI)と同月の生産者物価指数(PPI)で物価上昇圧力の緩和継続が示され、パウエル議長の方針は固まったと思われます。

こうしたパウエル議長のリーダーシップによる政策金利の0.5%という大幅な引き下げは、米国経済がソフトランディングに向かうという市場の期待を後押しし、その後の米国株式市場は堅調に推移しています。

PMIと消費者信頼感指数の悪化

一方、今週発表された経済指標で23日の米国PMI(購買担当者景気指数)の製造業が47.0と前月の47.9から3ヶ月連続で低下し、2023年6月以来の低水準となり、また販売価格指数が54.7と高水準を記録しました。こうした結果から、製造業セクターの弱含みや政治的不透明感の高まりが逆風となっていると見られ、またインフレの再加速を示唆もあり、米国金融当局がインフレ抑制策から完全に移行できない事が示唆されました。

また24日のS&Pケースシラー住宅価格指数は前年同月比5.0%上昇と前月の5.5%から鈍化しましたが、販売の低迷がポイントとなりました。同日発表のコンファレンスボード消費者信頼感指数では、前月の105.6から98.7と3年ぶりの大幅な悪化となり、予想の104.0も下回りました。この大幅な低下は労働市場の弱体化に伴い、多くの世帯への圧力が強まっている事を示唆していると見られています

こうした一連の経済指標の発表結果を受けて、米国金融市場では米国経済のソフトランディングの為に「年内の利下げ幅を0.75%とし、11月のFOMCで0.5%の大幅な利下げが必要」との見方が強まっています。

リセッションのイメージ

景気後退への懸念と市場の見解

現在、米国金融市場ではソフトランディングへの期待感が強く、支配的となっていますが、こうした考えに異論を唱える人がいるのも事実です。

Double Line Capitalのジェフリー・ガンドラック氏は、「米国経済の景気後退は確実で、後退するまでの猶予期間はあと4ヶ月」とコメントしています。

パウエルFRB議長は、「インフレ率だけが下落して経済成長率は犠牲にならない」とソフトランディングを予想していますが、ガンドラック氏は「そんな都合の良いことは起こらない」と考えています。

ガンドラック氏がそう考える根拠は「長短金利差」「失業率」の2点にあります。

長短金利差

長短金利差は、10年物国債の金利から2年物国債の金利を引いた金利差で、景気後退を示す指標として知られています。 通常は債券の金利は期間が長いほど高いため、長短金利差はプラスになりますが、市場が景気後退を意識すると景気に左右されやすい長期の金利が大きく下がり、長短金利差がマイナスになります。それで長短金利の逆転は景気後退の前触れとして知られています。

過去の動きを見ると、厳密には景気後退が来るのは長短金利差がマイナスになった時ではなく、一度マイナスになってからプラスに転換した直後である事がわかります。プラスへの転換が景気後退のタイミングとなるのは、金融当局が景気後退の前に利下げを始め、長短金利差が拡大するからです。ガンドラック氏はそれがまさに今の状況だと主張しています。

失業率

そして失業率は、景気を見る重要指標であり、今回、他の経済指標が好調な間も徐々に上がり続けていました。そして今や景気後退が避けられない水準まで高くなっています。労働市場は金利の影響をあまり受けないため、利下げが効きにくく、一度上がり始めると上がり続け、景気後退に繋がっていくとコメントしています。

失業率の動きから、景気後退までの猶予期間は4ヶ月としています。

失業率と長短金利差という2つの指標に着目しているガンドラック氏が、その両方で景気後退が間近であることを示す水準に突入していると警告しています。

米国経済のソフトランディングは、米国の金融市場関係者だけでなく、世界の人々が期待をしていることですので、今後の展開は緊張感を持って注目していきたいと思います。