仮想通貨を保有する上場企業の最新動向

なぜ今、企業が仮想通貨を保有するのか?

近年、仮想通貨(暗号資産)を企業財務に取り入れる上場企業が世界的に急増している。その背景には、単なる投機ではなく、財務戦略上の合理性が強く意識されている。最も大きな要因は、各国の中央銀行が継続的に大規模金融緩和政策を採ってきた結果、インフレ率が高止まりし、法定通貨の購買力が目減りし続けていることにある。

特に米ドルや円といった主要通貨に対する信認低下を懸念する企業にとって、供給量がプログラム的に制限されたビットコイン(BTC)や、ステーキングによって利回りを生み出せるソラナ(SOL)などの仮想通貨は、あらたな「価値保存資産」として注目を集めている。

もう1つの潮流は、ブロックチェーンを活用した資本市場インフラの再構築である。株式や債券といった伝統的な金融商品をトークンとしてブロックチェーン上で管理・移転可能にする技術が急速に実用段階へと進んでいる。これにより、証券の24時間取引、国境を越えた即時決済、DeFi(分散型金融)との統合といったあらたな資金調達や資産活用の選択肢が企業に開かれつつある。

実際に米ストラテジー(旧マイクロストラテジー)がビットコインを「企業戦略の中核」と位置付け、繰り返し社債発行によって買い増しを続けているほか、日本のメタプラネットも、国内初となるビットコイン長期保有戦略を打ち出し、時価総額を数倍以上にも伸ばした。

もはや仮想通貨は、企業の「投資対象」ではなく、「財務資産」「資本政策」「株主価値最大化」の三位一体戦略における重要な構成要素となっているのである。

世界の主要企業によるビットコイン保有状況

2025年6月時点で、世界140社以上の上場企業が合計84万BTC以上を保有しており、全供給量の約4%に相当する。代表的な事例としては、ストラテジー社(22万BTC超)、テスラ(約1万BTC)、マラソン・デジタル(約1.6万BTC)があげられる。これらの企業は長期的な資産保全と財務戦略の一環としてビットコイン保有を進めており、機関投資家の関心も高い。

日本企業の仮想通貨保有戦略

日本国内でも、メタプラネット、ネクソン、リミックスポイントなどがビットコイン保有に踏み切っている。特にメタプラネットは2025年7月時点で13,350BTCを保有し、国内最大規模のビットコイン戦略企業として脚光を浴びている。彼らは円安ヘッジや資産保全の観点からビットコインを選好し、その財務戦略として位置付けている。

八木編集長FOCUS

株式トークン化と仮想通貨蓄積戦略の融合:Upexiの挑戦

ナスダック上場の米eコマース企業Upexi(UPXI)は、2025年4月に仮想通貨ソラナの大量保有を発表。約1億ドルの増資で得た資金の大半をソラナの購入にあて、同年5月末には68万SOL以上を保有するまでに至った。その発表後、同社株は一時700%以上の上昇を記録した。

しかし、2025年6月24日にSEC(米証券取引委員会)への売却登録が有効化されたことで事態は一変。既存株主が保有する4,380万株超の売却登録が需給悪化の懸念を引き起こし、株価は一時4ドルを下回るなど、1日で約60%急落。結果として、時価総額は1億4,800万ドル程度に縮小した。

この売却登録では、Upexi自体にはわずか7,890ドルしか資金が流入せず、売却益の大半は既存株主にわたる仕組みだったため、会社としての価値向上にはつながらなかった。純粋に供給株式が増加することで、市場は強い希薄化圧力にさらされた。

それでもUpexiは、Solanaブロックチェーン上での株式トークン化構想を同時に発表。SEC登録済み株式をSuperstate社のプラットフォーム「Opening Bell」によりトークン化し、24時間取引や即時決済、DeFiとの連携を視野に入れている。こうしたブロックチェーン技術の応用による資本市場の革新は注目を集めている。

企業が仮想通貨を保有する理由とその効果

インフレ対策としての価値保存手段

仮想通貨を保有する企業は、主に法定通貨のインフレリスクをヘッジし、価値保存を目的としている。米ドルや円の価値が下落するなか、限られた発行数を持つビットコインやソラナに資産を移すことで、企業は財務の安定性を確保しようとしている。

株価への影響と投資家の反応

仮想通貨の保有は企業株価にも直接的な影響を及ぼす。Upexiのように戦略発表で急騰し、需給悪化で急落する事例もあれば、ストラテジーやメタプラネットのように、仮想通貨価格と株価が連動するパターンもある。特にボラティリティの高い資産を保有する場合、投資家はその価格変動リスクを敏感に捉える。

仮想通貨保有企業のリスクと戦略比較

Upexiと他社の戦略的違い

Upexiは中小規模でありながら大規模な株式供給を一気に市場に放出したことで需給が崩れ、急落を招いた。一方、ストラテジーやメタプラネットは新株発行による希薄化を抑えつつ、仮想通貨相場と株価を連動させる構造を維持している。

価格変動リスクへの備え

ビットコインやソラナの価格は依然として高いボラティリティを持つ。仮想通貨を財務資産とする企業は、相場の暴落時に株価の急落を招くリスクと常に向き合っている。企業はリスクマネジメントと資産配分の最適化を進める必要がある。

ソラナ財務戦略採用のUpexi、株価60%暴落 4300万株の再売却登録で供給過多に 

[Iolite記事]
ソラナ財務戦略採用のUpexi、株価60%暴落 4300万株の再売却登録で供給過多に