トランプ大統領、相互関税の一時停止を発表

トランプ大統領は4月9日午後、米国に対して関税に関する報復措置を講じていない国・地域に対して、90日間の相互関税一時停止を承認しました。これは相互関税の上乗せ部分についての一時停止で、10%の一律関税は維持されます。また鉄鋼製品、アルミ、自動車などの商品別の関税も維持されています。

今回実施した米国の相互関税については、すでに75カ国以上の国や地域が関税、貿易障壁、通貨操作に関しての交渉を持ちかけてきているとの発表もありました。こうした中で、米国に対して報復措置として84%の追加関税を行った中国は一時停止の対象が外れ、逆に125%へ関税の引き上げが行われました。

金融市場の反応と背景

今回の相互関税一時停止を受けて米国金融市場は大きく反応しています。特に株式市場では、NYダウ平均が+2,962ドル、S&P500が+474、NASDAQが+1,857と大幅高となりました。これまでトランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争で世界の株式・債券市場が混乱するという厳しい日々が5日間続いており、激しい売りで世界の株式時価総額が10兆ドル(約1,480兆円)強消失したと言われています。

債券市場と金利の動向

また相互関税発動後には、ヘッジファンドなどが米国債の換金売りに動いたとみられ、米国10年国債利回りは4.5%程度まで急上昇しました。この長期金利の急騰は金融市場全体へ大きな影響を与える可能性があり、トランプ政権は急遽関税政策実施の一時停止を決めたと推測されます。この一時停止により、米国債券市場は落ち着きを取り戻しています。

世界金融危機とも言える場面に、一時的とはいえ「ストップ」をかけた形となりました。

国際間交渉

各国との交渉と今後の見通し

これから日本を始めとする交渉を行う国々や地域は、90日間の間に米国政府を納得させ成果を上げなくてはなりません。もし交渉が決裂した場合には上乗せ関税が実施されることになりますから、米国は非常に優位な立場で交渉を行える状況と思われます。

関税政策の狙いとその背景

しかし、今回の世界の貿易システムや世界経済に大きな衝撃を与えた関税政策の狙いは何だったのでしょうか?

トランプ大統領は、前回に続き大統領選挙の時点から関税について公約として掲げています。今回は選挙前からトランプ氏を支援したベッセント財務長官によるアドバイスがあったと考えられます。

「3-3-3」政策と財政戦略

ベッセント財務長官は、就任前に「3-3-3」という3つの経済政策を発表しています。その内容は「①3%の実質経済成長」「②2028年までに財政赤字をGDP比3%に」「③原油の生産を日量300万バレル増加」というものです。

確かに財務長官が掲げる目標としては、3%の高く安定的な経済成長、健全な政府の財政状態、原油価格の低下によるインフレ抑制という素晴らしい内容ですが、金融市場を始めとして世間からは実現が大変難しいものとの認識が一般的で、どのように政策を進めていくのか注目を集めていました。

関税とDOGEによる財政再建モデル

ベッセント財務長官は、「①インフレ政策をとらない」「②増税できるところから増税し、歳入の増加を図る」「③政府支出を減らす」という考え方に基づき、トランプ大統領と関税による増収を図り、イーロン・マスク氏のDOGE(政府効率化省)による政府支出削減で財政赤字を減らすことを始めました。

株価下落の背景と政権の見解

ベッセント財務長官は、関税による増収と緊縮財政で財政赤字を図るとともに、緊縮財政による景気減速懸念の発生から株価下落、そして金融緩和のシナリオを描いていると考えられます。

株価下落そのものは、こうした政策が起因したものではなく、株価水準がバブル状態で買われすぎであったのがポイントです。上値を追うのが難しくなり、徐々に株式市場の調整が始まった場面で関税が大きく取り上げられ、株価下落を加速させたと考えられます。

ただ株価の下落は想定していたと考えられ、トランプ政権は株価下落をそれほど気にしていないようです。トランプ大統領は長期的には株価は上昇すると述べていますが、国民に対しては株価下落に関して「耐えろ」とコメントする場面もありました。

米国金利と市場への影響

金利に関しては、政策金利は金融当局による判断になりますが、債券市場での長期債の利回りは、年初、10年国債で4.8%程度、2年国債で4.4%程度でした。しかし、先週末にはそれぞれ3.9%程度と、3.6%程度まで低下してきていました。

長期金利については、徐々に政権の行っている政策の効果が出てきていたと思われ、国債の利払い費用が軽減されつつあります(昨年の利払い費用は1.1兆ドルと言われています)。今後も各国、地域との交渉は金融市場の動向を見ながらになりそうです。

原油についても、まだ増産をしているわけではありませんが、WTIで1バレル60ドル程度まで下落してきました。今後、経済指標にインフレ抑制的な数値が出てくるかもしれません。

経済の見通しのイメージ

関税政策と経済への見通し

トランプ大統領による強引と言える関税政策や緊縮財政は、国民から多くの反発が出ています。関税は米国居住者以外から徴税できる数少ない方法であり、今後は貿易相手国との交渉も始まりますので、その結果によっては、相手国に対しての関税を撤廃することもあるかもしれません。しかし、現在進めている財政赤字縮小に向けたこれらの政策は、インフレ抑制に繋がるだけにトランプ政権はこの政策を強く進めていくものと考えられます。

市場の今後の動向と警戒水準

その前提に立った場合、米国経済ならびに世界経済は当面の間、この関税を中心とした米国の政策に振り回される展開が続くと思われ、NY株式市場や国内株式市場の調整はしばらく続くと考えています。先日、NY株式市場の株価下落メドを出していますが、その水準について考えは変わっていません。

前回の下落を参考にし、またチャートの過去の動きを見ると、NYダウ平均で35,000ドル近辺、S&P500で4,500ポイント、NASDAQで14,500ポイント程度までの調整は一応覚悟しておいた方が良さそうです。国内株式市場も関税問題は為替市場への影響も大きく、輸出関連を中心に今後の業績見通しに対する不透明感が強く、しばらくは不安定な地合が続くと考えられます。

投資家へのアドバイス

投資家の皆さまには、下がったからと安易に飛びつかず、方向感が出てくるまでその時を待つ姿勢を心がけていただければと思います。