金の上昇が止まらない! 米大統領選挙と金相場 ゴールドマンサックスとJPモルガンの見解とは?
2024.10.31
金価格の最新動向とゴールドマンサックスの予測
NY市場の金先物価格は、10月30日に1オンス=2,800ドルを付けました。昨年2023年12月29日の価格が2071ドルでしたから、今年に入って729ドル上昇しています。35.2%の上昇です。
こうした動きの中でゴールドマンサックスが今後の金価格について強気のコメントを発表しました。2025年末の金価格を3,000ドルと予想しています。従来は3,080ドルでしたから、若干水準を下げてはいますが、引き続き堅調な地合が続くと強気の姿勢は変わっていません。そのポイントは
- 米国がロシアに行っている金融制裁や今後の米国国債に起こるショックへの懸念から各国中央銀行による金への需要が強まり、9%金価格を上昇させるとしています。
- さらにFRBによる利下げを受けて、金現物を裏付けとする欧米の上場投資信託(ETF)の金保有が強まり、金価格が7%上昇すると見込んでいます。
ゴールドマンサックスは特に11月5日の米選挙を前に投機筋が安全な避難先として金に目を向ける可能性も示唆しています。同社は選挙後の投機的ポジションの減少による潜在的な価格下落リスクを認めつつ、貿易摩擦リスクや金融リスクをヘッジするための金のロングポジションの意義を強調しました。
JPモルガンの通貨価値下落取引とビットコインへの影響
一方で、JPモルガンは投資家の「通貨価値の切り下げ取引(debasement trade)」が継続する可能性があり、金(ゴールド)やビットコイン(BTC)に資金が集まり上昇圧力がかかる可能性があるとしています。それはウクライナや中東での地政学的緊張の高まりと来たる米国選挙が一部の投資家の『通貨価値下落取引』と呼ぶものを強化する可能性が高く、それによって金(ゴールド)とビットコインが買われるとしています。
「通貨価値の切り下げ取引」は、政府の高い債務や金融政策による通貨価値の低下(インフレーション)を見込んで、投資家が通貨以外の資産に投資する戦略です。
ゴールドとビットコインは、『主要経済国における持続的に高い政府の赤字、一部の新興市場における法定通貨への信頼低下、そしてドルからのより広範な分散化』によって後押しされる可能性があるとJPモルガンは予想しています。
米大統領選と金・ビットコイン市場へのインパクト
根底にあるのは、米国の債務問題です。米国の国債はその増加ペースが懸念されています。さらに「債務による通貨価値下落」も問題を複雑化させています。債務による通貨価値下落は、政府の過度な債務や拡張的な金融政策によってインフレが引き起こされ、結果として法定通貨の価値が下落し、債務の実質的な負担が軽減される現象のことです。現在、11月5日の米大統領選の結果が「通貨価値の切り下げ取引」に大きな影響を与える可能性があるとしています。
ハリス副大統領、トランプ前大統領の2人とも公約により債務を増加させると考えられますが、特にトランプ氏が当選した場合は、連邦債務を約7.5兆ドル増加させ、ハリス副大統領の計画の2倍以上になると言われています。トランプ氏の勝利は、関税(地政学的緊張)や拡張的な財政政策(『債務による通貨価値下落』)を通じて『通貨価値下落取引』を強化する可能性が高いとしています。
既に金についてはゴールドマンサックスのコメントにあるように、中国、ロシア、インド、ブラジル、トルコなど東側諸国や新興国の中央銀行による継続的な買い付けが続いています。これまで米国国債を外貨準備資産として保有していましたが、ロシアへの金融制裁が始まってから金へのシフトが加速しています。こうした継続的な中央銀行による金への投資は金価格の底堅さに繋がり、金価格への信頼感を強めるものとなっていると思われます。
また、BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は、世界経済における米ドル依存を減らし、自国経済の安定と影響力を強化するため、新たな基軸通貨の創設を計画しています。この新しい通貨は、BRICS諸国の間での取引や貿易決済を円滑にすることを目的とし、特に米ドルの影響を緩和する手段として注目されています。計画が進行している通貨の具体的な構成や発行スケジュールについては現時点では詳細が公表されていませんが、BRICSの重要な国々が徐々に準備を進めていることが示唆されています。
BRICS通貨構想の背景
BRICSの基軸通貨構想は、以下のような背景から進められています:
- 米ドル依存の軽減:米ドル主導のグローバル経済で、特にアメリカの金融政策(利上げなど)が世界経済に強い影響を与えることが懸念されています。これにより、自国経済の安定性を図るために、米ドルに代わる通貨の必要性が叫ばれています。
- 経済制裁リスクの低減:ロシアへの金融制裁の影響から、BRICS諸国は米国主導の金融システムからの脱却を目指しており、新たな基軸通貨を通じて経済制裁のリスクを減らす目的もあります。
- 金保有量の増加と準備資産としての強化:多くのBRICS諸国が通貨の裏付けや経済の安定化のために金保有量を増やしています。特に中国とロシアは積極的に金を購入し、準備資産としての金の役割を強化しています。これにより、安定した価値を持つ通貨の基盤が整えられています。
BRICS諸国の金保有量の増加
BRICS諸国は金を増やすことで、新たな基軸通貨の安定性を裏付けようとしています。金は世界的に信用される資産であり、通貨の裏付けとして重要です。各国の動向は以下のとおりです:
- 中国:金準備量を増加させており、他の準備通貨との分散を図っています。特にここ数年、金購入を急増させています。
- ロシア:米ドル依存を減らすため、長年にわたり金準備を増やしてきました。経済制裁の影響を緩和し、外貨準備の中で金の割合を高めています。
- インド:インドもまた金の保有量を増やし、特に民間でも金への信頼が強いため、金の需要は高水準で推移しています。
- ブラジルと南アフリカ:他のBRICS諸国と比べて金保有量はやや少ないものの、経済の多様化と外貨準備の一部として金を活用しています。
新通貨創設の利点と課題
BRICSの新基軸通貨のメリットとしては、米ドル依存の軽減、BRICS内部の取引コストの削減、経済制裁の影響の回避が挙げられます。しかし、統一した通貨の管理方法や価値の安定性をどう確保するかなど、多くの課題も抱えています。また、金などの資源をどの程度通貨の裏付けとするかも検討が進められています。
BRICS通貨と金準備の動向は、米ドルの世界的な地位に対する挑戦であり、これが長期的にどのような影響を与えるかが今後注目されるでしょう。
米国の大統領選挙がどのような結果となるのかが、当面の注目点となりますが、どちらの候補者が当選しても、米国の債務問題は継続し、金へのシフトは続くと思われます。今後の金価格の動向からは目が離せません。また同様なイメージでのビットコインへの注目も忘れてはいけないと考えています。